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歩行中の子どもの交通事故低減のために:大人の私が“今”できること。#こどもをまもる

大谷亮心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士
(写真:アフロ)

 交通事故死者数が初めて1万人を超えた第一次交通戦争と呼ばれる昭和30年代以降の時期には、小さな子どもが犠牲となる事例が多くみられました。その後、少子化などの様々な要因が重なり、12歳以下の子どもの交通事故死者・重傷者の数は、近年減少傾向にあります。

<子どもの交通事故死者・重傷者の推移>

内閣府 特集「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策について」 第1章 子供及び高齢運転者の交通事故の状況 第2節 子どもの交通事故の状況

 https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r02kou_haku/zenbun/genkyo/

feature/feature_01_2.html(参照 2023.02.11)

 しかしながら、人口10万人あたりの歩行中の交通事故死傷者数が最も多いのは7歳児であるという事実や、登下校中の交通事故が問題となり、通学路の全国一斉点検が行われている現状を考えると、子どもを取り巻く状況は依然として厳しいと言えます。

 子どもの交通事故低減のためには、他の事故防止と同様に、いわゆる5E対策(環境、工学、強制・規制、事例、教育)を体系的に行う必要があります。

 ここでは、我々大人が明日からでもできる対策について、保護者ドライバー周囲の社会人といった異なる立場から考えてみます。

◆“保護者”の私ができること

 保育所・幼稚園さらには小学校などで実施される交通安全教室は、その年齢の平均的な子ども(2年生なので道路の渡り方は既に知っているだろう、など)を想定して実践されるのが一般的です。

 ここで、安全を確保するための能力や技能には個人差があるため、平均的な教育に加えて、子ども一人一人の特徴にあった個別の対策が必要です。この個別の対策ができるのは、その子どもの特徴をよく知る保護者の皆様です。

 子どもと交通の関わりの中で、保護者に求められる役割の例を考えてみると、次の通りになります(図1)。

図1. 子どもの交通との関わりと保護者の役割(著者作成)

①親子協同参加期

 1歳前後で歩行が可能となり、散歩や通園などで道路を歩くようになる初期の時期では、複雑な交通環境や状況に対応するには子どもはまだ未熟なため、お子さんと手をつなぐなどの適切な監視や監護を保護者皆様が遂行する必要があります。歩行中の子どもに対する保護者の監視の意義と方法は、以下の記事をご参照ください。

< 保護者の監視の意義と方法 >

「子どもとの手つなぎ:歩行中の交通事故防止とより良い親子関係のために」 

https://news.yahoo.co.jp/byline/ohtaniakira/20220617-00300885

「育児としての道路上の子どもの見守り:Safe HavenとSecure Base」

https://news.yahoo.co.jp/byline/ohtaniakira/20210512-00237411

 また、この時期に、絵本、玩具、歌などを通してお子さんが交通に“触れる”機会をつくり、道路標識の意味や交通安全に関する用語(例えば、飛び出しや確認など)に慣れることを通して、適切な道路の歩き方などを学習する際の予備知識をお子さんが得られるようにすると良いでしょう。これはお子さんの言語の理解にもつながります。

②単独参加の準備期

 小学校に入学すると、保護者の手から離れ子どもが一人で歩行する機会が増えるため、入学前に適切な道路の歩き方などの行動をお子さんが習得する必要があります。

 したがって、小学校入学前のこの段階で、お子さんが歩行中に適切な行動を遂行できるように、保護者皆様の手で教育することが大切になります。子どもに道路の歩き方を教える際のポイントについては、以下の記事をご参照ください。

< 道路の歩き方を教えるポイント >

「新一年生の交通安全。学校や家庭での安全教育、何をどのように教えるのか?」

https://news.yahoo.co.jp/byline/ohtaniakira/20200324-00167485

「子どもの歩き方が変わる?!交通安全に関する京都府警察の新しい取り組み。」

https://news.yahoo.co.jp/byline/ohtaniakira/20210428-00235005

 また、小学校に入学する間際には、通学路をお子さんと一緒に歩いて、ルートや危険な場所をチェックしておくことが大事です。お子さんと通学路を点検する際のポイントは、以下の記事をご参照ください。

< 通学路の安全点検のポイント >

「保護者の皆様による安全対策、お子様の心理を踏まえて通学路の安全点検を!新一年生を事故から守るために。」

https://news.yahoo.co.jp/byline/ohtaniakira/20200206-00161580

③単独参加期

 先述のように、歩行中の交通事故死傷者数が最も多い年齢は7歳であり、複雑な交通状況に対応することが困難な子どもが、登下校などで一人で歩行する機会が増えるため、この年齢の交通事故が多いと考えられます。したがって、前段階と同様に、お子さんが歩行中に適切な行動を遂行するように、継続的に教育することが保護者皆様に求められます。

 また、小学1年生の5月以降に交通事故死傷者数が増える傾向にあります。これは子どもが学校生活に馴れることに加え、この時期から学校や保護者による立哨(一定の場所に立って監視すること)や見守りが減少するといった状況が関係していると推察されます。したがって、小学校と協力して保護者皆様が立哨や見守りを継続して行うことが必要です。

④参加馴れ期

 子どもが交通安全に関する知識や技能を習得したら保護者の役割は終了というわけではありません。幼少期の子どもは交通安全に関する知識や技能が不足しているといった問題があるのに対して、小学校高学年以降になると知識や技能は習得しているものの、安全な行動を遂行しないといった事態が発生する場合があります。例えば、音楽を聴きながらの自転車乗車もこの例です。

 そこで、お子さんが安全や快適な交通社会について主体的に考えられるように、保護者皆様が促すことが求められます。ただし、交通安全に関する高学年以降の主体的な学習を促進する家庭での好事例については情報が集約されておらず、今後、家庭の良い事例を発掘する必要があります。

 先述のように、子どもの成長には個人差があるため、お子さん一人一人の今の状況に合わせた教育や監視・監護を保護者皆様が実践されることが、子どもの安全確保のために重要になります。

◆“ドライバー”の私ができること

 子どもが歩行中に被害に遭う交通事故の中には、子ども自身に違反がないものもみられます。つまり、事故の相手側であるドライバーが原因となり、子どもが被害に遭うケースがあります。

 そこで、子どもの交通事故を防ぐため、ドライバーの皆様は、少なくとも以下の点について理解を深めておく必要があります。

●子どもの交通事故の特徴

 子どもの交通事故には、統計的にみて次のような特徴があります。

時間帯:登校時または下校時以降に事故が発生しやすい

場所 :単路での事故が多く、子どもが横断歩道外を横断中に事故が生じやすい

子ども側の原因:小さい子どもほど、道路への飛び出しにより事故が起こる場合が多い

< 子どもの交通事故の特徴 >

 公益財団法人交通事故総合分析センター「ITARDA INFORMATION,No.54(2005):子供の交通事故」

 https://www.itarda.or.jp/contents/484/info54.pdf(参照 2023.02.11)

●子どもの特徴

 先述の通り、幼少期の子どもが原因となる事故は飛び出しが多く、この理由を考える際には子どもの特徴を知る必要があります。過去の研究結果をもとに、飛び出しに関係する子どもの特徴の例を記すと、以下の通りとなります。

・大人に比べて、視覚的に目立つもの(例えば、看板)に注意を奪われやすい

中心視(注視点から約2の範囲。文字などの細部や色に対して感度が高い)で見ているものでも、危険か否かを判断するまでの時間が長い

後方確認または確認をしないで横断することが多い など

 車のハンドルを握ったら運転に集中することは基本であり、ドライバーが原因となって生じる子どもの交通事故を低減するためにも、この考えが必要になります。

 また、予測が困難な出来事に対してドライバーがブレーキを踏むまでの時間は約1.3秒、予測していたものに対しては約0.7秒のブレーキ反応時間という研究結果を参考にすると、子どもの飛び出しを予測しておくことが大切になります。さらに、幼少期の子どもは物陰に潜む目に見えない危険を感じることが難しく、見通しの悪い箇所から飛び出す可能性があります。したがって、住宅街などの見通しの悪い道路を走行する際には、いつでもブレーキペダルを踏めるように構えることが大切になります。

◆“周囲の社会人”としての私ができること

 2021年度より開始された第11次交通安全基本計画には、具体的な対策として、「交通の安全に関する民間団体等の主体的活動の推進」が掲げられており、「交通ボランティア等への幅広い年代の参画」が期待されています。この具体的対策のポイントは、「幅広い年代の参画」です。

 筆者が関係している交通ボランティア活動では、小学生児童の登下校時間にあわせて、立哨や付き添いをメンバーが熱心に実施されており、交通安全だけではなく子どもの成長を温かく見守っています。しかしながら、一定の年齢層の参加が多く、ボランティアの裾野が広がり難い状況にあります。この状況は交通ボランティアだけではなく、様々なボランティア活動において共通の課題と言えます。また、保護者の役割の一つとして、子どもの監視・監督について述べましたが、各家庭の状況などによって、保護者が立哨や見守り活動に参加することが困難な場合があります。

 いつどこで交通事故が発生するのかを一つ一つ予想することはできないため、ボランティアの数が多いほど、交通事故リスクの芽を摘むことができると考えられます。そこで、様々な企業や団体が地域貢献の一環として、交通ボランティア活動に参加し、幅広い年齢層の参画が可能になることが望まれます

 周囲の社会人として、保育所・幼稚園、学校、および地域と連携しながら、子どもの交通事故低減および子どもの成長を見守っていくスキームの構築が、今後も期待されます。この社会の連携は、交通安全にとどまらず、防災や防犯などを含む総合安全の土台にもなります。

 子どもの交通事故の特徴として統計資料を掲載しましたが、これはあくまでも“傾向”です。子どもの交通事故の一つ一つは、当事者にとって“まさか”の事態です。この“まさか”の確率をできる限り低減するため、保護者、ドライバー、および社会が今できることを着実に実施することが重要です。

「#こどもをまもる」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の1つです。

子どもの安全を守るために、大人ができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。

特集ページ「子どもの安全」(Yahoo!ニュース):https://news.yahoo.co.jp/pages/20221216

心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士

心理学の観点から、交通事故防止に関する研究に従事。特に、交通社会における子どもの発達や、交通参加者(ドライバーや歩行者など)に対する安全教育プログラムの開発と評価に関する研究が専門。最近では、道路上の保護者の監視や見守りを対象にした研究に勤しんでいる。共著に「子どものための交通安全教育入門:心理学からのアプローチ」等がある。小さい頃からの愛読書は、「星の王子様」。

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