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利用者増える電動キックボード 歩行者やドライバーは何に気をつければ良い?

大谷亮心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士
(提供:viaduct_k/イメージマート)

 若者を中心に利用者が増加している電動キックボードについて、大阪府警は先月、公道走行時の軽微な違反を繰り返した運転者に対して取り締まりの強化を始めたようです。

<大阪府警察による電動キックボードの取り締まりに関する記事>

https://news.yahoo.co.jp/articles/54db39ef584a126a8a1a725674c823ee27698373

 近年、情報通信技術を活用して、様々な移動のニーズに対して複数の公共交通や移動サービスを最適に組み合わせる「MaaS(Mobility as a Service)」を対象にした研究や開発が行われています。MaaSに含まれる交通手段には、従来のバスや電車、タクシーなどに加えて、例えば、自宅からバス停や駅までの「ラストワンマイル」と称される区間などの移動手段があります。このラストワンマイルの移動手段の一つとして期待されているのが、電動キックボードです。

◆電動キックボードに免許は必要?

 電動キックボードと聞くと、量販店で購入できることもあり、気軽な乗り物という印象もありますが、実際はどうなのでしょうか。

 電動キックボードは従来のキックボードとは違い、モーターが搭載されており、地面を蹴ることなく容易に移動することができます。現行の道路交通法では、電動キックボードは、「原動機付自転車」に該当し、走行可能なのは車道のみであり、免許証が必要で、乗車時にはヘルメットの着用が義務付けられています。

 今年4月、警察庁の有識者検討会は、電動キックボードを含む新たな移動手段について、法的位置づけなどの指針を盛り込んだ中間報告をまとめました。中間報告では、15km/h以下の電動キックボードは小型低速車に分類され、運転免許は不要となり、路側帯や自転車専用レーンを走行可能で、ヘルメット着用は促進とする方向で検討が進められています。

<警察庁の中間報告>

https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/mobility/interim-houkoku.pdf

 気軽な乗り物に見えても、現状では免許証やヘルメットの着用が必要だったり、法的位置づけもだんだんと変わってきたりしています。電動キックボードを利用されている方や今後利用を考えている方は、法的位置づけなどをしっかりと理解しておく必要があります。

◆周囲は何に気をつければ良い?

 では電動キックボードが普及した場合、歩行者や自動車ドライバーはどういうところに気をつけるべきなのでしょうか。

 電動キックボードが普及して多くの車両が公道を走るようになると、歩行者やドライバーは、自転車に対する対応と同じような配慮が重要となります。例えば、自転車と四輪車の事故では、夜間の追突事故の死者数が多い状況となっています。電動キックボードも自転車と同様に車幅が小さく夜間は見えづらいため、ドライバーが注意をしないと、ある程度の速度で追突する可能性があります。

<自転車と四輪車の追突事故>

https://www.itarda.or.jp/contents/5/info125.pdf

 また、自転車と同様、電動キックボードは走行の自由度が高く、急な飛び出しや方向転換などが可能なことから、歩行者や自転車乗用者、ドライバーは、この点に配慮する必要があります。つまり、走行の自由度が大きいことや速度など、電動キックボードの特徴を理解して危険な状況を予測することが大切になります。

さらに、歩行者自身が車道に飛び出さない、横断前に確認するなどの基本的な行動が重要になります。というのも、歩行者の急な飛び出しは、電動キックボード利用者の急制動などによる転倒の可能性や、急な方向転換により他車両との衝突の可能性を増大することになるからです。

◆事故を減らすための「5E対策」

 電動キックボードのような新たな移動手段を取り入れながらも、快適で事故のない交通社会を実現するためにはどうしたら良いのでしょうか。

 その回答の一つとして、少し難しい話になりますが、ここでは「5E対策」を紹介します。

 5E対策とは、事故の発生や被害を低減するための5つの策のことです。5E対策には、環境(Environment)、工学(Engineering)、強制・規制(Enforcement)、事例・見本(Example)、教育(Education)があり、それぞれの対策をバランスよく行うことが必要になります(図)。

 電動キックボードを例にすると、それぞれのEでは以下のような対策が考えられます。

図.安全と快適な交通社会実現のための5E対策

環境対策(Environment):

 道路の拡張や信号機の設置、道路周辺の見通しを良くするなど、交通環境の整備や改善にかかわる対策。

工学対策(Engineering):

 電動キックボードの操縦安定性を高める、安全装備の搭載などの車両自体に対する対策。また、通信技術などを用いて車両と道路インフラとの連携を図るなどの対策。

強制・規制対策(Enforcement):

 道路交通法や道路運送車両法などの法律の整備や規制、各組織や団体における規則の制定に関する対策。電動キックボードに関する今回の大阪府警察の取り締まり強化は、強制・規制対策の一つ。

事例・見本対策(Example):

 現状は必要となっている電動キックボード利用時のヘルメット着用が、法規の改定により促進となった場合、多くの利用者がヘルメットを着用して、他の利用者に見本を示すといった対策。

教育対策(Education):

 購入時のマニュアルを通した啓発、各種の講習会の開催など。

◆新たな移動手段の普及のために

 電動キックボードのような新たな移動手段を利用する人は、その移動手段により便利で快適な生活を享受することができれば、長くその移動手段を使い続けることになります。これは「利用者受容性」と呼ばれるものです。

また、新たな移動手段が利用者だけではなく、周りの交通参加者の快適性や安全性を損なうことがなければ、その移動手段は真の意味で多くの人々に受け入れられたことになります。これは「社会受容性」に関係するものです。

 「利用者受容性」や「社会受容性」の向上のためには、新たな移動手段と利用者および社会の付き合い方が重要です。利用者とともに、歩行者やドライバーなどの他の交通参加者が安全態度を醸成し、事故を回避するための基本的な行動を遂行することが大切になります。新たな移動手段とうまく付き合うために、もう一度、普段の歩き方や運転の仕方を見つめ直してみましょう

心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士

心理学の観点から、交通事故防止に関する研究に従事。特に、交通社会における子どもの発達や、交通参加者(ドライバーや歩行者など)に対する安全教育プログラムの開発と評価に関する研究が専門。最近では、道路上の保護者の監視や見守りを対象にした研究に勤しんでいる。共著に「子どものための交通安全教育入門:心理学からのアプローチ」等がある。小さい頃からの愛読書は、「星の王子様」。

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