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北朝鮮が1月25日の巡航ミサイルと1月27日の弾道ミサイル発射成功と発表

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮、労働新聞より新型長距離巡航ミサイル

 1月28日に北朝鮮は、前日の1月27日に行った短距離弾道ミサイル2発の発射と、1月25日に行った巡航ミサイル2発の発射に成功したと発表しました。別種のミサイルで行われた2回の試験を1つの記事で纏めて報告されてあります。

2022年1月27日、短距離弾道ミサイル2発

 2022年1月27日の短距離弾道ミサイルは写真の形状から既存のイスカンデル型(KN-23)であり、ミサイル自体ではなく新型弾頭の威力確認試験が目的でした。

発射された2発の戦術誘導弾は、標的の島を精密打撃し、常用戦闘部の爆発威力が設計上の要求を満たしたことが実証された。

 「戦術誘導弾(전술유도탄)」は北朝鮮ではイスカンデル型(およびATACMS型)に使われている通称です。そして「常用戦闘部(상용전투부)」とは通常弾頭という意味です。核弾頭ではない通常炸薬の弾頭で、新設計の弾頭を試験しています。

北朝鮮、労働新聞の発表より地対地戦術誘導弾の弾頭試験
北朝鮮、労働新聞の発表より地対地戦術誘導弾の弾頭試験

北朝鮮、労働新聞の発表より地対地戦術誘導弾の弾頭試験
北朝鮮、労働新聞の発表より地対地戦術誘導弾の弾頭試験

 イスカンデル型短距離弾道ミサイル(KN-23)を装輪式の車両から発射しています。今回2022年1月27日の発射は韓国軍の観測で水平距離190km・最大高度20kmを飛んでいますが、北朝鮮のイスカンデル型は過去に最大600~800km飛行した実績があるので、性能を抑えて発射したのか、新型弾頭はかなり重い可能性があります。性能を抑えて発射されているのは間違いないでしょう。弾頭の試験なのでミサイルは全力で飛ばす必要はありませんでした。

関連:北朝鮮イスカンデル短距離弾道ミサイルの鉄道型と通常型・拡大型との比較 ※各型ミサイル形状の見分け方

 ミサイルの形状を見る限り、2022年1月27日のイスカンデルは通常型と全く同じ特徴を持っているように見えます。円筒形の胴体部分の長さがノーズコーン部分よりも短い比率です。そしてノーズコーンの形状は角度の変化がある二段円錐形(Bi-conic)です。

戦術誘導弾の写真を拡大し90度横に倒した状態
戦術誘導弾の写真を拡大し90度横に倒した状態

 しかし発射車両は拡大型のものと同じ二分割された運転席フロントガラスの特徴を持ちます。また右側面に「332」という番号も見えますが、同じ番号を付けた拡大型イスカンデル用発射車両が以前に確認されています。

発射車両の写真を拡大して明るさを変更。運転席フロントガラスは二分割
発射車両の写真を拡大して明るさを変更。運転席フロントガラスは二分割

 推定になりますが「大は小を兼ねる」ので、拡大型イスカンデル用の発射車両(5軸10輪)から通常型イスカンデルを発射したのではないでしょうか? なぜ発射試験でそのような撃ち方をしたのかは分かりませんが、ランチャーレールは共通性がある筈で、能力的には問題なく可能でしょう。

国防科学院は、傘下のミサイル戦闘部研究所が今後も、引き続き相異なる戦闘的機能と使命を果たす威力ある戦闘部を開発すると明らかにした。

 新型弾頭の起爆の様子は非常に大きな火炎が映っており、地面に着弾してから炸裂したのではなく、空中炸裂している可能性があります。光学式あるいは電波式の近接信管を搭載しているのかもしれません。

北朝鮮、労働新聞の発表より地対地戦術誘導弾の弾頭試験
北朝鮮、労働新聞の発表より地対地戦術誘導弾の弾頭試験

関連:北朝鮮が1月27日に発射した飛翔体の謎

 なお着弾場所の目標島とは北朝鮮軍が射爆標的場として使っている無人島の「卵島(알섬)」になります。発射場所は韓国軍の推定で北朝鮮東海岸の咸興の付近です。

Google地図より筆者作成、咸興から190km先の卵島までの飛翔経路
Google地図より筆者作成、咸興から190km先の卵島までの飛翔経路

2022年1月25日、巡航ミサイル2発

 2022年1月25日の巡航ミサイルは新型の開発試験で、昨年9月以来になります。ミサイルと発射車両は前回と同型のものでした。

発射された2発の長距離巡航ミサイルは、朝鮮東海上の設定された飛行軌道に沿って9137秒、1800kmを飛行して標的の島に命中した。

 おそらくですが発射された巡航ミサイルは北朝鮮の上空をぐるぐる周回飛行し続けて(韓国の観測では内陸の上空、北朝鮮の発表では海上の上空)、最後に海上の標的島に突入という飛行パターンだと思われます。1800km飛行できるなら日本のほとんどが射程範囲であり、十分に沖縄のアメリカ軍基地を狙える性能です。

 前回の昨年9月の試験では7580秒で1500km飛行と報告されていたので、今回の試験では射程が大きく伸びています。

北朝鮮、労働新聞の発表より長距離巡航ミサイル(発射直後はまだ翼が畳まれたまま)
北朝鮮、労働新聞の発表より長距離巡航ミサイル(発射直後はまだ翼が畳まれたまま)

北朝鮮、労働新聞の発表より長距離巡航ミサイル(発射直後はまだ翼が畳まれたまま)
北朝鮮、労働新聞の発表より長距離巡航ミサイル(発射直後はまだ翼が畳まれたまま)

関連:北朝鮮が地対地型の巡航ミサイル試験発射に初めて成功(2021年9月13日)

 これで年明けから北朝鮮のミサイル発射は既に6回行われ合計10発のミサイルが発射されています。

  1. 1月5日朝 第1号 「極超音速ミサイル」
  2. 1月11日朝 第2号 「極超音速ミサイル」
  3. 1月14日夕 第3号、4号 「鉄道型イスカンデル」
  4. 1月17日朝 第5号、6号 「北朝鮮版ATACMS」
  5. 1月25日朝 第7号、8号 「長距離巡航ミサイル」
  6. 1月27日朝 第9号、10号 「車両型イスカンデル」

 なお「極超音速ミサイル」は日本海の沖合いまで飛行試験していますが、その他は全て沿岸の標的島に着弾させています。

余談:長距離巡航ミサイルの「長距離」とは何の意味?

 弾道ミサイルは短距離(~1000km)、準中距離(1000~3000km)、中距離(3000~5500km)、長距離(5500km~)という射程の分類がありますが、実は巡航ミサイルには細かい射程の分類がありません。北朝鮮が「長距離巡航ミサイル」と呼称していても上記の弾道ミサイル用の分類である長距離(5500km~)という意味ではないのです。

 この場合の長距離巡航ミサイルの長距離とは巡航ミサイルに掛かる枕詞のようなものに過ぎません。特に細かい意味は込められていないので、この言葉は有っても無くても構わないのです。

 巡航ミサイルは射程が長い物でも3000kmくらいまでしかないので(一時期、大陸間巡航ミサイルが計画されていましたが、大陸間弾道ミサイルの登場で消えました。)、巡航ミサイルは「短距離か長距離か」という大まかな分類で十分に事足りました。かつてのINF条約など個別の条約で中距離を設定することはあっても、普段の用法では細かい分類をする必要が無かったのです。「短距離巡航ミサイル」という言葉でさえ、ほとんど使う機会がありません。

 また、対空ミサイルの「短距離」「中距離」「長距離」は弾道ミサイルのそれとは全く違う距離の区分が適用されます。しかも明確な数字の区分が無く、何となく大まかに分類されているだけです。

 むしろ弾道ミサイルのみが例外的に細かい射程の区分が一般的に普及しているというのが実態なのかもしれません。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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