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再び北朝鮮が新型ロケット弾を発射、既存の300mmロケット弾より大型化

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮公式発表より新型の大口径誘導多連装ロケット

 7月31日に北朝鮮は東部から日本海に向けて2発の大型ロケット弾を発射しましたが、8月2日にも再び2発を発射しました。翌8月3日に北朝鮮メディアは発射車両を公開、それは明らかに北朝鮮の既存の多連装ロケットで最大だったKN-09(8連装、直径300mm)よりも更に大きなものでした。

北朝鮮メディアより公開された新型ロケット
北朝鮮メディアより公開された新型ロケット

 どちらも北朝鮮当局によってモザイクが掛けられた映像ですが、7月31日発射のものは8月1日に公開、8月2日発射のものは8月3日に公開されたものです。二つは同じロケット弾を搭載する車両と思われますが仕様が細部で異なっており、7月31日発射のものは全面的にモザイクが掛かっており判別し難いですが緑色の迷彩で戦車型の装軌車両かつ箱型キャビンが付いておらず、発射機の発射筒は隣同士が詰まっています。8月2日発射のものは発射機だけモザイクが掛けられ、転輪が片側10輪の装軌車両であり箱型キャビンが付いた形式です。発射機は詳細が分かりませんが発射筒の隣同士の間隔が空いており、試験用に発射筒を一部だけ搭載している可能性があります。そのため映像からは3本付いているように見えますが、さらに多く搭載できるかもしれません。

参考比較:米軍のATACMSとの対比
参考比較:米軍のATACMSとの対比

 新型ロケット弾の推定される大きさについては、車両との対比から既存のKN-09(8連装、直径300mm)よりも大型化していることは確実です。また車両の形式が似ているアメリカ軍のMLRS(直径約600mmのATACMS短距離弾道ミサイル2発搭載仕様)と比較した場合、ATACMSよりは細い発射筒でしょう。おそらく直径400mm~500mmくらいの大型ロケット弾であると推定できます。

 なお北朝鮮は8月3日の公式声明で新しい大口径誘導多連装ロケットの試射について「高度抑制水平飛行性能と軌道変則能力、目標命中性、弾頭爆発威力が十分に確認された」としています。注目すべき点は北朝鮮版イスカンデル短距離弾道ミサイルの試射では「低高度滑空ジャンプ型軌道」と表現されていたのに比べると、滑空やジャンプといった言葉が無いことです。つまり新型ロケット弾はイスカンデルよりは複雑な軌道変更はできないものの、低い弾道(ディプレスト軌道)で飛行できることを強調しています。

 韓国軍の観測データでは北朝鮮の新型ロケット弾は7月31日発射のものは水平距離250km最大高度30km、8月2日発射のものは水平距離220km最大高度25kmで最大速度マッハ6.9と発表されました。これは高度がかなり低く空気抵抗によって飛距離が稼げない状態で発射しているから200km台の飛距離に留まっているだけで、最もよく飛ぶ角度で高い高度まで届くように発射すれば400~500kmの飛距離を発揮できる性能です。約マッハ7の速度からも間違いなく、射程500kmのスカッドC短距離弾道ミサイルに匹敵します。

 このため、北朝鮮の新型ロケット弾について韓国軍は依然として短距離弾道ミサイルという評価を変えていません。飛行性能が短距離弾道ミサイルと同等であるからです。大型ロケット弾と短距離弾道ミサイルは境目がはっきりしない存在で、アメリカ軍はKN-09多連装ロケットについて「近距離弾道ミサイル:close-range ballistic missile (CRBM)」という分類を公式報告書「北朝鮮の軍事力レポート」で行ったことがあります。ただし近距離弾道ミサイル(CRBM)という分類はあまり一般的ではありません。

 厳密に技術的に分類すれば、この新型は北朝鮮の言う通り誘導能力を備えた多連装ロケットです。弾頭重量は弾道ミサイルに比べれば大きくないので、北朝鮮の技術力では核弾頭を搭載することは考えられていないでしょう。しかしロケット弾でありながら短距離弾道ミサイル並みの射程を持つため、多連装ということを考えれば通常兵器として見ると同等以上の脅威となり得る存在です。

関連記事:北朝鮮が新型の大口径誘導多連装ロケットを発射(2019/08/01) - Y!ニュース

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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