ロシアのイージスアショア批判とNATO東方拡大への憎悪

東欧ルーマニアに配備されたイージスアショア(写真: Inquam Photos/ロイター/アフロ)

 ロシアは日本と欧州に配備される予定のイージスアショアに対して反対をしています。しかしその主張は言い掛かりのような内容で、全く整合性に欠けるものです。ロシアは何故そのような無理のある主張を続けているのか、主張の内容を検証し、動機を読み解きます。

  • 【露】・・・ロシア
  • 【米】・・・アメリカ
  • 【日】・・・日本

立地からICBM迎撃は物理的に不可能

  • 【露】欧州イージスアショアはロシアのICBM(大陸間弾道ミサイル)を撃墜して核抑止力のバランスを崩してしまう
  • 【米】欧州イージスアショアの立地とSM-3迎撃ミサイルの能力ではICBMの迎撃は物理的に不可能。そもそもICBM撃墜を心配するなら本土防衛用GBIの方ではないのか? なぜGBIをあまり問題にせずに欧州イージスアショアばかり問題にするのか?

 ロシアの欧州イージスアショアに対する批判は最初から無理がある主張でした。欧州イージスアショアでは新型のSM-3ブロック2A迎撃ミサイルであっても、近い位置にあるICBMのブーストフェイズ迎撃すら困難でミッドコースフェイズとなると全く追い付けません。しかもロシアは国土が広いのですから欧州イージスアショアより遠く離れた所にICBMを置けます。こうなると目標を射程内に収めることすら出来ないでしょう。ゆえに核抑止力のバランスを問題にするならGBIを中心とするアメリカ本土防衛用のMDシステムに反対しなければならないはずです。しかしロシアは欧州防衛用のMDシステムの方ばかりを熱心に反対しています。これは一体どうしてなのでしょうか。

 実はロシアは欧州イージスアショアを軍事的に深刻な脅威だとは全く思っていないのです。それどころかアメリカ本土防衛用GBIも現状では大した脅威だとは思っていないでしょう。現状のGBIの性能と数量ならばロシアは極超音速兵器を持ち出すまでもなく、通常のICBMを数多く発射するだけで余裕をもって突破が可能です。欧州イージスアショアに至ってはロシアとアメリカの核抑止力のバランスを崩すような要素は何一つありません。

 ではロシアがなぜイージスアショアに対して強硬に反対しているのかというと、それは東欧に配備するという行為が許せなかったからです。過去にアメリカはNATOを東方に拡大させることはしないと約束しましたが、これは守られず冷戦終結後にNATOに加盟する東欧の国々が続出します。ロシアの視点から見れば東欧のルーマニアとポーランドに配備される欧州イージスアショアはNATO東方拡大の象徴に映りました。イージスアショアそのものは軍事的に脅威ではなくても、NATO東方拡大はロシアにとって深刻な軍事的脅威です。ロシアがイージスアショアに強硬に反対するのはNATO東方拡大に対する憎悪であり、言い掛かりであろうと何だろうとなりふり構うつもりがありません。そして反対する理屈は何だっていいとばかり、核抑止力のバランスの次に思い付いた理屈がINF条約違反という言い掛かりでした。

戦術的に有り得ない固定配備トマホーク

  • 【露】イージスアショアのMk41VLS(垂直発射機)はトマホーク巡航ミサイルを装填可能だ。これを陸上に配備することはINF条約違反である
  • 【米】前線に近い基地に固定式で攻撃用ミサイルを配備するなど戦術的にデメリットしかない。頼まれても配備しないが、そこまで言うなら欧州イージスアショアはSM-3以外のミサイルを運用できないように火器管制プログラムを制限しておく
  • 【日】日本はINF条約に参加していないし、核武装もしておらず、トマホークも調達していない

 そもそも核攻撃用のミサイルは地球の裏側を射程に収められるようなICBM用の地下サイロを除いて固定式に配備したりしません。核攻撃用のミサイルは真っ先に狙われるので移動しながら隠れて生存性を高めます。INF条約で廃棄された陸上配備中距離ミサイルは全て車載移動式ないし車両牽引移動式でした。全面戦争になれば前線に近い基地は長くは持ちません、それはイージスアショアであっても同じです。いくらイージス艦と同じ能力があったとしても1隻分でしかなく、複数隻のイージス艦で守られる空母を攻撃に行く想定のロシア軍からすればまだ与し易い目標です。位置が分かっている前線の基地は開戦初頭に先制攻撃で潰される可能性が常にあります。航空基地ならば核爆弾を強固な地下弾薬庫に置けますし、航空機は迎撃に出ることや空中退避も可能です。しかしイージスアショアのレーダー塔とMk.41VLSは地上に剥き出しで置かれた脆弱な設備です。迎撃戦闘に少しでも失敗すれば全ての設備が破壊されてしまいます。そんなところにトマホーク巡航ミサイルを置く意味が戦術的に全く存在しないのです。デメリットしか存在しません。そもそもトマホークはイージスシステムでなくても運用できます。もしもアメリカがINF条約違反を犯してトマホークをこっそり配備したいなら、非常に目立つイージスアショアへの配備などする必要が無いのです。

 以上の戦術的な話はロシア自身も熟知しており、ロシアは自分でも信じていないようなデタラメな言い掛かりを平然と行っていることになります。

海とイージス艦の存在を忘れたロシア

  • 【露】日本イージスアショアはロシアの安全保障を脅かすアメリカのMD網の一部である
  • 【日】日本とロシアの間には海があり、以前から海上自衛隊はイージス艦を運用している。ロシアは日本がイージス艦を配備した時には抗議せず、イージス艦にMD能力を付与した時にもほとんど反対しなかったのに、なぜイージスアショアの時にだけ過剰に反応するのか? イージス艦と陸上イージスはシステムの能力は同じなのに

 ロシアが日本のイージスアショアに反対しているのは欧州のイージスアショアに強硬に反対していたからついでにという、オマケ程度の扱いです。反対する理屈も欧州イージスアショア向けのものをそのまま持って来て日本に向かって言うという手抜きをしているので、海とイージス艦の存在を無視していたり、日本がINF条約に参加しておらずトマホークも保有していないことも無視しているので、あらゆる箇所で整合性が無いという雑なものになっています。そもそも欧州向けの言い掛かりも整合性が無かったのですから、日本向けでも整合性など気にする必要を感じていないのでしょう。

 つまりロシア自身が自分の主張に整合性が無いことを自覚しているので、まともに取り合っても無駄です。真面目に反論しても効果が無く、また新たな整合性の無い理屈を捻り出してくるだけです。ロシアの言い掛かりに対しては第三者の目を意識した反論を行っておくことのみが肝心で、ロシアを説得することは最初から期待してはいけません。

番外編その1・標的ミサイルがINF条約違反?

  • 【露】アメリカのMD迎撃実験用の中距離弾道ミサイル模擬標的はINF条約違反である
  • 【米】今は無きABM条約の追加交渉の際に、お互いに中距離ミサイル標的の扱いを話し合ったはずだが、あの時にロシアは中距離ミサイル標的はINF条約違反だなどとは言わなかったことを覚えている。それとロシアも中距離弾道ミサイル迎撃用のMDシステムを開発していた筈だが、ロシアは迎撃実験をどう実施しているのか教えてほしい

 ABM条約の追加交渉とは「1997年に米露が合意していた弾道ミサイル防衛」を参照。アメリカとロシアはお互いに中距離弾道ミサイル迎撃用のMDシステムを持とうと話し合いを持っていて、中距離弾道ミサイル模擬標的は申告していれば問題ないことを確認しています。

 なおINF条約は破棄が決まったのでもう想定する必要は無いのですが、INF条約は陸上配備の中距離核戦力を制限するものであり、中距離弾道ミサイル模擬標的を全て空中発射式にしてしまえばロシアの言い分は封じられてしまうので、この言い掛かりは解決が容易な部類でした。

番外編その2・無人攻撃機がINF条約違反?

  • 【露】アメリカの無人攻撃機はINF条約違反である
  • 【米】INF条約は無人攻撃機を巡航ミサイルには分類していないし、そもそもアメリカの保有する無人攻撃機で核攻撃を行えるものは存在しない。ところでロシアも無人攻撃機を開発中だと聞いているが、自身には適用しないのだろうか?

 INF条約は無人攻撃機を制限対象のミサイルには分類していないので、ロシア側の主張は言い掛かりになります。

 またアメリカ軍の使用している無人攻撃機はMQ-9リーパーですが、能力的にはプロペラ式の軽攻撃機であり主任務はゲリラ掃討などが限界です。正規軍相手にはよほど格下でなければ攻撃任務は行えず、強力なロシア軍相手に正面から投入できるような装備ではありません。ましてや核攻撃など実施することは能力的に考えられず、これを中距離核戦力(INF)だと言い張るのは無理があります。

 なお無人攻撃機の分野ではアメリカや中国に後れを取っていたロシアですが、イスラエルからの技術導入を経て現在は開発に力を入れており、ステルス無人攻撃機「オホートニク」計画など野心的な高性能機を開発中です。オホートニクの想定される性能ならば、もし実験用で終わらず実用化できた際には核攻撃を任せることすらも可能です。

 このようにロシアは似たような内容で新しい主張を次から次へと繰り出しています。たとえ一つ一つに丁寧に反論したとしても、また新しい主張を繰り出して来ることになるのでしょう。