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記録的な暑さ継続も台風10号が日曜夜に関東接近 北日本は台風と前線の危険な組み合わせに

饒村曜気象予報士
日本の南の台風9号・10号を含む4つの雲の塊(8月25日21時)

北日本を中心とした猛暑

 日本の東から日本列島に張り出していた太平洋高気圧が東海上に後退気味で、北陸から東北を中心に晴れて気温が高くなっています(図1)。

図1 地上天気図(8月25日12時)
図1 地上天気図(8月25日12時)

 8月25日に全国で気温が一番高かったのは、新潟県・津川の38.3度で、北陸や東北の日本海側が最高気温のランキング上位にはいっています。

 また、8月25日に全国で最高気温35度以上の猛暑日を観測したのが133地点(全国で気温を観測している915地点の約15パーセント)、最高気温30度以上の真夏日を観測したのが809地点(約88パーセント)でした(図2)。

図2 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月25日)
図2 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月25日)

 今年、一番多くの猛暑日を観測したのが8月3日の290地点(約32パーセント)、一番多くの真夏日を観測したのが7月29日の847地点(約93パーセント)ですから、これらに比べれば、観測した地点数は減っていますが、高い数値であることには変わりがありません。

 また、最高気温25度以上の夏日を観測したのが913地点(約100パーセント)と今年最多で、夏日にならかったのは、北海道の宗谷岬と浜鬼志別の2地点だけでした。

 8月26日も、福島県・若松で38度、秋田県・横手や山形県・新庄、新潟県・津川などで最高気温が37度の予想であるなど、北陸や関東、東北を中心に気温が高くなる予報となっています(図3)。

図3 最高気温の予想の分布(8月26日)
図3 最高気温の予想の分布(8月26日)

 また、猛暑日は全国の80地点程度、真夏日は780地点程度、夏日は910地点程度と見積もられています。

 猛暑日は8月25日より少なくなりますが、厳しい暑さは8月26日も続く見込みです。

熱中症警戒アラート

 熱中症は暑さだけでなく、湿度などとも関係しています。

 このため、熱中症対策に使われているのは、「暑さ指数(WBGT:Wet-Bulb Globe Temperature)」です。

 「暑さ指数」は、気温だけでなく、湿度、日射・建物や地面からの照り返し(輻射)などの熱も取り入れた数値であり、湿度7:輻射熱2:気温1の割合で算出されるように、湿度の高さが重要な要素となっています。

 「暑さ指数」の利用上の目安として、33以上:極めて危険、31以上33未満:危険、28以上31未満:厳重警戒、25以上28未満:警戒、25未満:注意となっています。

 熱中症で救急搬送される人を減らすため、環境省と気象庁は共同で「熱中症警戒アラート」を発表していますが、発表基準となっているのは、暑さ指数33以上の「極めて危険」であるときで、前日17時と当日5時に発表となります。

 8月26日の前日予報では、北日本を中心として10地域に発表されています。

熱中症警戒アラートの発表地域(8月26日の前日予報)

【北海道】石狩・空知・後志、網走・北見・紋別、胆振・日高

【東北】青森、秋田、岩手、山形

【北陸】新潟

【近畿】京都、和歌山

 令和5年(2023年)の熱中症警戒アラートの発表回数(前日17時と当日5時の発表をまとめて1回として集計)は、7月の前半までは前年、令和4年(2022年)より少ない発表回数で推移していたのですが、7月後半から急増し、8月24日には、前年の発表回数の年間累計である889地域を超えています(図4)。

図4 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))
図4 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))

 そして、8月24日に初めて北海道の全地方に熱中症警戒アラートが発表されているなど、すでに昨年度の889地域を2割以上も上回る1087地域に発表されています。

熱中症が問題となった前年以上のペースで熱中症警戒アラートが発表となっていますので、引き続き、熱中症対策をお願いします。

台風9号に続いて台風10号の発生

 記録的な猛暑を止める決定打になるかもしれないのが、日本の南の熱帯低気圧の動向です。

 太平洋高気圧が南から張り出してくる例年の夏と違って、日本の南は気圧が低なっており、所々で発達した積乱雲の塊が存在しています。

 この雲の塊の中から、沖縄の南とマリアナ諸島近海で熱帯低気圧が発生し、沖縄の南の熱帯低気圧は、8月24日15時に台風9号に発達しました。

 また、マリアナ諸島近海の熱帯低気圧は北上し、南鳥島近海で8月25日3時に台風10号に発達しました(表)。

表 令和4年(2022年)と令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値
表 令和4年(2022年)と令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値

 タイトル画像には、日本の南の台風9号・10号を含む4つの雲の塊があります。

 このうち、雲の塊Aは、ひょっとしたら熱帯低気圧になって台風11号になる可能性もあります。

 また、雲の塊Bは、西日本に接近して大雨を降らせるかもしれません。

 4つの雲の塊、全てに注意が必要です。

 現在、東部太平洋赤道域の海面水温が平年より高くなるというエルニーニョ現象が発生しています。

 今年の春までは、東部太平洋赤道域の海面水温が平年より低くなるというラニーニャ現象が2年半という長きにわたって続いていましたので、様変わりです

 エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、赤道域で積乱雲の発生場所が変わり、台風の性質などが変わり、地球規模で異常気象が発生するとされています。

 エルニーニョ現象の年は、それまで台風の発生数が少ないものの、日本から離れた海域で台風が発生することが多いことから、発達して日本を襲うことが多いといわれています。 

 台風9号と10号が連続して発生しましたが、8月末までに14個という平年並みには及びません。

 また、台風は日本から離れた海域で発生するという、エルニーニョ現象の年の台風の特徴がでています(図5)。

図5 令和5年(2023年)の台風発生海域(1号~10号)
図5 令和5年(2023年)の台風発生海域(1号~10号)

 なお、台風8号は、北太平洋中部のハリケーンが西進して日付変更線を越えて北太平洋西部にはいってきたことによる発生で、他の台風とは違います。

 気になるのは、エルニーニョ現象の年は、発達して日本を襲う台風が多い傾向があるということですが、すでに、2号、6号、7号で大きな被害が発生しています。

 台風2号は、フィリピン東海上で猛烈な台風に発達し、沖縄近海から日本の南海上を進みました。6月の初めということもあり、海面水温がまだ低く、勢力としては弱まりましたが、日本列島の梅雨前線に向かって広い範囲で大量の水蒸気を送り続けたことで、連続6県(高知・和歌山・奈良・三重・愛知・静岡)で線状降水帯が発生し大雨となりました。

 そして、台風6号も、大型で非常に強い台風にまで発達しながら沖縄近海をゆっくり進んだため、沖縄では長時間にわたって暴風域に入り、沖縄本島では線状降水帯が発生して大雨となりました。その後、次第に進路を東よりに変え、8月8日以降は九州にかなり接近し、九州の西の海上から朝鮮半島付近に進みました。このため、熊本、宮崎、大分、高知、愛媛の各県でも線状降水帯が発生して大雨となりました。

 さらに、台風7号は、8月11日昼頃に非常に強い勢力で父島付近を通過し、その後台風は北よりに向きを変え、15日午前5時前に和歌山県潮岬付近に上陸しました。上陸後は自転車並みの速度で近畿を縦断し、兵庫県豊岡市付近から日本海を北上しました。鳥取県では、24時間で470ミリという、平年8月の3倍にあたる雨量が一日で観測され、大雨特別警報が発表となリました。

 エルニーニョ現象が発生している今年の台風は、最大限の警戒が必要です。

台風10号は前線の危険な組み合わせに

 台風が発達する目安の海面水温は27度といわれていますが、台風9号の近海の海面水温は、30度以上もあります。

 このため、台風9号は中心気圧が955ヘクトパスカル、最大風速45メートル、最大瞬間風速60メートルという非常に強い台風に発達する見込みです。

 ただ、台風を動かす上空の風が吹いていないため、ゆっくり南下し、フィリピンの東海上でほとんど停滞する見込みですので、日本への影響は来週半ば以降になりそうです(図6)。

図6 台風9号と台風10号の進路予報と海面水温(8月25日21時)
図6 台風9号と台風10号の進路予報と海面水温(8月25日21時)

 台風の進路予報は最新のものをお使いください

 一方、台風10号は、台風が発達する目安の海面水温である27度より高い28度くらいの海域を、大きく発達することなく北上する見込みです。

 進行速度は、8月としては早い速度で、8月27日(日)の夜には関東に接近する見込みです。

 そして、8月28日(月)以降の進路が急に東に変わっています。

 これは、この頃に北日本に前線が停滞し、上空の西風が強いと考えられるからです。

 週明けの北日本は、大災害が発生しやすい「台風と前線という危険な組み合わせ」となりますので、今後の台風情報等に注意してください。

 台風10号の北上は、その後の寒気の南下を促し、記録的な猛暑を止める決定打になるかもしれません。

 とはいえ、記録的な暑さを止めたとしても、大きな災害をもたらす可能性があり、どちらになっても困った現象となります。

 また、フィリピンの東でほとんど停滞する台風9号は、台風10号が過ぎ去ったあとに北上して南西諸島に被害を発生させる可能がありますし、ひょっとしたら、熱帯の雲の塊の中から台風11号が発生するかもしれません。

 梅雨明け以降雨が少ない関東地方などでは、「渇水だから台風が恵みの雨を降らせてほしい」という意見もありますが、自然現象は、人間の都合が良いように動いてはくれません。

 過去には、「雨が降りすぎて大災害」になったということが少なくありません。

 しばらくは、台風に警戒が必要な日が続きます。

タイトル画像、図3、図6の出典:ウェザーマップ提供。

図1、表の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図4の出典:環境省ホームページをもとに筆者作成。

図5の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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