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暑さはいつまでかのカギを握る日本の南海上の熱帯低気圧、その南東海上には台風9号になりそうな雲の渦

饒村曜気象予報士
日傘をさす女性(提供:イメージマート)

記録的な暑さ

 日本列島は記録的な暑さが続いています。

 8月21日に全国で気温が一番高かったのは、新潟県・津川の38.4度でした。

 次いで、兵庫県・和田山の38.3度、大阪府・枚方の38.2度となっており、新潟県や近畿地方が上位にはいっています。

 また、8月21日に全国で最高気温35度以上の猛暑日を観測したのが184地点(全国で気温を観測している914地点の約20パーセント)、最高気温30度以上の真夏日を観測したのが782地点(約86パーセント)でした(図1)。

図1 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月21日)
図1 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月21日)

 今年、一番多くの猛暑日を観測したのが8月3日の290地点(約32パーセント)、一番多くの真夏日を観測したのが7月29日の847地点(約93パーセント)ですから、これに比べれば、観測した地点数は減っていますが、高い数値であることには変わりがありません。

 また、最高気温25度以上の夏日を観測したのが911地点(約100パーセント)と、これまで一番多くの夏日を観測した8月18日の912地点(約100パーセント)に次ぐもので、夏日にならなかったのは、北海道のえりも岬、標津、浜鬼志別の3地点のみでした。

 台風7号の上陸によっても猛暑日などの観測地点数が減りましたが、一時的でした。

 8月22日も、新潟平野や秋田平野を中心に気温が高くなり、福島県の若松と新潟県の津川と長岡は最高気温が38度、秋田県・横手、山形、新潟、鳥取、佐賀などでは最高気温が37度の猛暑日の予報です(図2)。

図2 最高気温の予想の分布(8月22日)
図2 最高気温の予想の分布(8月22日)

 また、猛暑日は全国の210地点程度、真夏日は805地点程度、夏日は910地点程度と見積もられています。

 全国的に厳しい暑さは、8月22日も続く見込みです。

 そして、気象庁が8月21日15時に発表した高温に関する全般気象情報では、気圧に覆われて晴れる日や暖かい空気の流れ込む日が多いため「北日本および沖縄地方は8月28日頃にかけて、東日本は8月27日にかけて、気温の高い状態が続くため、熱中症など健康管理に注意してください」とよびかけています。

熱中症警戒アラート

 熱中症は暑さだけでなく、湿度などとも関係しています。

 このため、熱中症対策に使われているのは、「暑さ指数(WBGT:wet-bulb globe temperature)」です。

 「暑さ指数」は、気温だけでなく、湿度、日射・建物や地面からの照り返し(輻射)などの熱も取り入れた数値であり、湿度7:輻射熱2:気温1の割合で算出されるように、湿度の高さが重要な要素となっています。

 「暑さ指数」の利用上の目安として、33以上:極めて危険、31以上~33未満:危険、28以上~31未満:厳重警戒、25以上~28未満:警戒、25未満:注意となっています。

 熱中症で救急搬送される人を減らすため、環境省と気象庁は共同で「熱中症警戒アラート」を発表していますが、発表基準となっているのは、暑さ指数33以上の「極めて危険」であるときで、前日17時と当日5時に発表となります。

 なお、熱中症警戒アラートは、注意喚起の情報であり、当日5時に気温が低くなる予報となっても、前日の予報は取り消されません。

 8月22日の前日予報では、東北から東日本、西日本の38地域に発表となっています。

熱中症警戒アラートの発表地域(8月22日の前日予報)

【東北】青森、秋田、岩手、宮城、山形、福島

【関東・甲信】茨城、栃木、埼玉、東京、千葉、神奈川、長野、山梨

【東海】静岡、愛知、三重

【北陸】新潟、富山、石川、福井

【近畿】滋賀、京都、兵庫

【中国】岡山、広島、島根、鳥取

【四国】香川、愛媛、高知

【九州北部(山口県を含む)】山口、福岡、大分、長崎、佐賀、熊本

【九州南部・奄美】鹿児島(奄美地方を除く)

 令和5年(2023年)の熱中症警戒アラートの発表件数(前日17時と当日5時の発表をまとめて1回として集計)は、7月の前半までは前年、令和4年(2022年)より少ない発表回数で推移していたのですが、7月27日に前年を抜いています(図3)。

図3 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))
図3 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))

 そして、以後は差を広げて、8月19日の前日予報で累計が890となり、前年の発表回数の年間累計である889地域を超え、22日の前日予報で1010地域となっています。

 熱中症が問題となった前年以上のペースで熱中症警戒アラートが発表となっていますので、引き続き、熱中症対策をお願いします。

東京都心の猛暑日

 東京(東京都心)の最高気温は、6月末から35度に迫るようになり、7月10日に今年初の猛暑日となっています。

 以後、8月20日までに猛暑日は21日となっており、昨年、令和4年(2022年)に記録した16日という記録を大幅に更新中です。

 そして、今の所、猛暑日の年間日数を24日まで記録を伸ばすという予報になっています(図4)。

図4 東京の最高気温と最低気温の推移(8月22日~28日は気象庁、8月29日~9月6日はウェザーマップの予報)
図4 東京の最高気温と最低気温の推移(8月22日~28日は気象庁、8月29日~9月6日はウェザーマップの予報)

 東京都心の今年の最高気温は、7月26日の37.7度です。

 また、最低気温が25度以上の熱帯夜は、8月2日以降連続しており、予報の出ている9月6日まで連続する見込みです。

 最高気温、最低気温ともにほとんどが平年より高く、たまに下がって平年並みです。

 こうなると、関心事は「暑さはいつまで続くのか」ということになりますが、まず影響を与えるのは日本の南の熱帯低気圧と、その南東の熱帯低気圧の動向です。

日本の南の熱帯低気圧

 8月21日12時の地上天気図をみると、北日本~西日本は、日本の東にある太平洋高気圧に覆われて晴れていますが、この太平洋高気圧は強いものではありません(図5)。

図5 地上天気図と雲の渦の位置(8月21日12時)
図5 地上天気図と雲の渦の位置(8月21日12時)

 例年の夏であれば、日本の南海上から太平洋高気圧が日本列島を覆うのですが、今年の日本の南海上は高気圧ではなく気圧が低くなっています。

 このため、南から熱帯由来の暖かくて湿った空気が北上しやすくなっています。

 そして、その気圧が低い所に熱帯低気圧や熱帯低気圧まで発達していない雲の渦がありますが、この雲の渦のある場所は、周囲より気圧が少し低くなっています(図6)。

図6 日本の南海上の3つの雲の渦巻き(8月21日12時)
図6 日本の南海上の3つの雲の渦巻き(8月21日12時)

 日本の南海上の熱帯低気圧は、西に進んで西日本に接近する見込みですが、周辺の海面水温は、台風発生・発達の目安となる27度より高い28度くらいです。

 このため、台風に発達する可能性もありますが、熱帯低気圧周辺には発達した積乱雲が少なく、すぐに台風に発達する可能性は低いと考えられます(図6)。

 ただ、熱帯低気圧周辺の熱帯由来の暖かくて湿った空気が流れこむため、8月22日から東日本や西日本の太平洋側は雨が降りやすくなり、東日本の記録的な猛暑は一時的に一服し、とはいっても平年より気温が高い夏になりそうです。

 熱帯低気圧(あるいは台風)が接近する東海から西日本の太平洋側では、雨脚の強まる所がありそうです。

 極端な暑さは和らぎ、平年並みの夏の暑さになると思われますが、大雨に警戒が必要です。

日本の南の熱帯低気圧の南東で発生した熱帯低気圧

 日本の南海上の熱帯低気圧の動向が気になりますが、その南東海上の雲の渦も気になります。

 事実、この雲の渦は、8月21日15時から熱帯低気圧として解析され、西進する見込みです(図7)。

図7 予想天気図(8月23日9時の予想)
図7 予想天気図(8月23日9時の予想)

 こちらの熱帯低気圧は、中心付近に発達した雲の塊があり、台風9号になる可能性は、日本の南海上から西日本に接近している熱帯低気圧より高そうです。

 昔、筆者が調べた8月の台風の平均的な経路では、熱帯低気圧のある海域で台風になったとすると、台風の進路がバラバラになります(図8)。

図8 台風の8月の平均経路図
図8 台風の8月の平均経路図

 西進したのちに北上して関東の東海上を北上するもの、北上して西日本の南海上に達したのち本州南岸を東進するもの、西日本の南海上から東シナ海へ入って北上するもの、いろいろなケースがあります。

 なお、図8では、東シナ海でループを描いていますが、これは東シナ海で停滞したり迷走したりすることを示しているループです。今年の台風6号は図8のように東シナ海で迷走したあと九州の西海上を北上しました。また、台風7号は、図8のように南西からではなく南からでしたが、紀伊半島に上陸しました。

 日本の南の熱帯低気圧のさらに南東にある熱帯低気圧から台風9号が発生した場合は、進路予報が難しい台風になりそうです。

 ただ、北上してきた場合は、先行する熱帯低気圧と相まって、記録的な猛暑を止める決定打になるかもしれません。

 とはいえ、記録的な暑さを止めたとしても、大きな災害をもたらす可能性があり、どちらになっても困った現象となります。

図1、図6の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2の出典:ウェザーマップ提供。

図3の出典:環境省ホームページをもとに筆者作成。

図4の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図5の出典:気象庁ホームページに筆者加筆。

図7の出典:気象庁ホームページ。

図8の出典:饒村曜・宮澤清治(昭和55年(1980年)、台風に関する諸統計 月別発生数・存在分布・平均経路、研究時報、気象庁。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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