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海面水温が非常に高い南シナ海で台風4号が発生 南シナ海と沖縄の南海上にはまとまった積乱雲の塊

饒村曜気象予報士
フィリピン近海の熱帯低気圧の雲(7月14日21時)

台風4号の発生

 フィリピン近海で発生し、ルソン島を通過して南シナ海に入った熱帯低気圧が発達し、台風4号に発達する見込みです(図1)。

図1 南シナ海の熱帯低気圧の進路予報(7月14日21時の予報)
図1 南シナ海の熱帯低気圧の進路予報(7月14日21時の予報)

 台風が発達する目安の海面水温は27度ですが、熱帯低気圧の進路にあたる南シナ海は、これを大きく上回る31度もありますので、暴風域を伴うまで発達する見込みです。

【追記(7月15日21時30分)】

 南シナ海の熱帯低気圧は、7月15日15時に台風4号に発達しました。  

 この熱帯低気圧の進路予報は、昔、筆者が調べた7月の台風の平均的な経路とほぼ同じです(図2)。

図2 台風の7月の平均経路図
図2 台風の7月の平均経路図

 台風4号に発達しても、日本にはほとんど影響しないと考えられますが、気象衛星画像では、熱帯低気圧の南西側の南シナ海と熱帯低気圧の東側の沖縄の南海上には発達した積乱雲の塊があります(タイトル画像)。

 南シナ海の積乱雲の塊は、台風4号に取り込まれると思いますが、沖縄の南海上の積乱雲の塊は台風4号周辺の空気の流れにのって北上してくる可能性があります。

 沖縄県では、沖縄の南海上の積乱雲の動向に注意が必要です。

 また、今後、太平洋高気圧の縁辺をまわるように、多量の水蒸気を含んだ暖かい空気が日本の南海上から東シナ海、日本海を通って東北地方まで入ってくる可能性もあります。

 台風4号の直接的な影響はなくても、日本の南海上の雲の動きには注意が必要です。

令和5年(2023年)の台風

 令和5年(2023年)は、これまで台風が3個発生しています(表)。

表 令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値
表 令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値

 令和5年(2023年)の台風1号は、4月20日15時にマーシャル諸島で発生しました。

 この台風1号は発達することなく北西進し、22日21時にマーシャル諸島で熱帯低気圧に変わりました。

 その一か月後、台風2号が5月20日15時にカロリン諸島で発生し、北西しながら発達してフィリピンの東で中心気圧905ヘクトパスカルの猛烈な台風に発達しました。

 そして、勢力は少し衰えましたが、大型で非常に強い勢力で沖縄の南に達し、6月1日23時から2日0時にかけて那覇市付近、1時に沖縄市付近、2時に名護市付近を通過し、奄美諸島近海から西日本の南海上を東進しています。

 台風からの暖かくて湿った空気の流入で、梅雨前線の活動が活発となり、2日から3日にかけて、西日本から東日本にかけての広い範囲で線状降水帯が発生して大雨となりました(図3)。

図3 地上天気図と気象衛星画像(6月2日12時)
図3 地上天気図と気象衛星画像(6月2日12時)

 梅雨末期のように海も陸も気温が高く、水蒸気が季節外れに多いことに加え、台風2号が日本列島の梅雨前線に向かって広い範囲で大量の水蒸気を送り続けたことが、連続6県(高知・和歌山・奈良・三重・愛知・静岡)で線状降水帯が発生した一番の原因です。

 線状降水帯は、次々と発生する発達した複数の積乱雲が一列に並ぶことで形成されます。

 ただ、自転車並みの遅い速度とはいえ、台風2号は東に進みました。

 このため、台風からの暖かくて湿った空気が北上している場所も徐々に東へ移動し、これに伴って線状降水帯の発生場所も四国から東海地方へと移動しました。

 もし、線状降水帯の発生場所が移動しなかったら、もっと記録的な豪雨になったと考えられます。

 台風2号は、6月3日15時に伊豆諸島近海で温帯低気圧に変わりましたが、その3日後の6月6日21時に台風3号がフィリピンの東で発生しました。

 台風3号は強い勢力に発達しながら北上し、6月11日に南大東島の南東海上を通って12日には八丈島の南海上を通過し、13日3時に日本の東で温帯低気圧に変わりました。

ラニーニャ現象時の台風とエルニーニョ現象時の台風

 令和4年(2022年)は、赤道太平洋東部で海面水温が平年より高くなるラニーニャ現象が発生していました。

 ラニーニャ現象が発生したときの台風発生海域は、平年の発生海域より北西にずれるといわれていますが、令和4年(2022年)の台風発生海域は北西にずれていました(図4)。

図4 令和4年(2022年)の台風発生海域(1号~25号)と令和5年(2023年)の台風発生海域(1号~3号、4号)
図4 令和4年(2022年)の台風発生海域(1号~25号)と令和5年(2023年)の台風発生海域(1号~3号、4号)

 図4の楕円で囲んだ海域で台風の発生が増えたのですが、このことにより、海面水温の高い海域を進む時間が短くなり、寿命や勢力が抑制されました。

 しかし、日本のすぐ近くでの台風発生となることから、台風が発生するとすぐに日本に影響をあたえました。

 これは、ラニーニャ現象によってインドネシア近海で対流活動が活発となったからだと考えられています。

 しかし、2年にわたって続いていたラニーニャ現象が今年の春に終わり、夏からは赤道太平洋東部で海面水温が平年より低くなるエルニーニョ現象が発生しています。

 エルニーニョ現象が発生したときの台風発生海域は、平年の発生海域より南東にずれるといわれています。

 ラニーニャ現象が終わったばかりであり、その影響が残っている可能性があるとされていますが、令和5年(2023年)の台風1号から3号についていえば、エルニーニョ現象発生時のように、台風発生海域が南東にずれているということができます。

 台風の発生海域が南東にずれると、日本に台風が接近してきた場合、この台風は海面水温が高い海域を進む時間が長くなることから発達していることが多くなります。

 令和5年(2023年)の台風2号がまさにその例で、日本の南海上を離れて通過したといっても、持ち込んだ大量の水蒸気によって記録的な大雨が降りました。

 令和5年(2023年)は、日本に台風が接近するときは発達することが多いということで、油断のできない年になりそうです。

タイトル画像、図1、図3の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:饒村曜・宮澤清治(昭和55年(1980年)、台風に関する諸統計 月別発生数・存在分布・平均経路、研究時報、気象庁。

図4の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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