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今年は最初から末期のような梅雨と発達する可能性が高い台風に注意

饒村曜気象予報士
6月2日8時10分の戦況降水帯(実線の楕円は実況、点線の楕円は予測)

台風2号と線状降水帯

 フィリピン東海上の海面水温は、平年よりかなり高い30度以上もあり、ここを通過した台風2号は猛烈な台風に発達し、大量の水蒸気をもっていました(図1)。

図1 気象庁が発表した北西太平洋の海面水温の実況(5月中旬)
図1 気象庁が発表した北西太平洋の海面水温の実況(5月中旬)

 その後、台風2号は、沖縄近海から日本の南海上という、海面水温が低い海域を進みましたので、一頃からみれば弱まりましたが、最大風速が15メートル以上という強風域の範囲が広いままでした(図2)。

図2 台風2号の進路予報と海面水温(6月2日0時)
図2 台風2号の進路予報と海面水温(6月2日0時)

 大気中に含まれる水蒸気の量は、気温が高いほど多くなります。このため、一般的には、梅雨初期より気温が高くなる梅雨末期のほうが大雨になります。

 今回の台風2号は、梅雨末期のように海も陸も気温が高く、水蒸気が季節外れに多いことに加え、台風2号が日本列島の梅雨前線に向かって広い範囲で大量の水蒸気を送り続けたことが、連続6県(高知・和歌山・奈良・三重・愛知・静岡)で線状降水帯が発生した一番の原因です(タイトル画像、図3)。

図3 地上天気図と気象衛星画像(6月2日12時)
図3 地上天気図と気象衛星画像(6月2日12時)

 線状降水帯は、次々と発生する発達した複数の積乱雲が一列に並ぶことで形成されます。

 毎年のように、線状降水帯による顕著な大雨が発生し、数多くの甚大な災害が生じています。ただ、線状降水帯という言葉が頻繁に用いられるようになったのは、観測網が充実してきた平成26年(2014年)8月豪雨による広島市の土砂災害以降です。

 ただ、自転車並みの遅い速度とはいえ、台風2号は東に進みました。このため、台風からの暖かくて湿った空気が北上している場所も徐々に東へ移動し、これに伴って線状降水帯の発生場所も四国から東海地方へと移動しました。

 もし、線状降水帯の発生場所が移動しなかったら、もっと記録的な豪雨になったと考えられます。

 これから本格的に暑くなり、大気中の水蒸気の量が多いというのが常となります。

 発生場所が移動しない梅雨末期の線状降水帯の可能性がありますので、気象情報に注意が必要です。

今年の梅雨の特徴

 今年の梅雨は、南西諸島では平年より遅く始まりましたが、その他の地方の梅雨入りは平年より早いところが多くなっています(表)。

表 令和5年(2023年)の梅雨入り
表 令和5年(2023年)の梅雨入り

 今年の夏は、2年近く続いたラニーニャ現象が終わり、エルニーニョ現象になると考えられています(図4)。

図4 エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値
図4 エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値

 それも、エルニーニョ現象の基準の暖かさを大幅に上回る、強いエルニーニョ現象の予測です。

 このため、梅雨初期から太平洋高気圧の周辺を熱帯の海からの湿った空気が流れ込み、梅雨末期のような大雨が続き、梅雨の期間が長引く可能性もあります。

 また、夏の台風の発生数は平常時より少なくなると思われます。ただ、台風の発生位置が、平常時に比べて南東にずれ、長期間にわたって暖かい海を移動する可能性が高くなり、数は少なくても発達している可能性があります。梅雨にも、台風に対しても油断できない年になりそうです。

 なお、東日本大震災のあった12年前、平成23年(2011年)の台風2号も5月に沖縄に接近しています。

 この年は、西日本から東日本太平洋側の梅雨入りが平年より早く、関東甲信地方で5月27日に梅雨入りしたあとに、今年と同じ番号の台風2号が北上しています。

 平成23年(2011年)の台風2号は、5月28日に非常に強い勢力で宮古島と多良間島の間を北上し、久米島では最大風速41.8メートルを観測しています。また、台風2号は5月29日に四国沖で温帯低気圧に変わったものの、西日本を中心に大雨や暴風となり、四国各県では日雨量が200ミリを超える大雨となっています。さらに5月30日には東日本大震災の被災地でも大雨や暴風となっています。

 そして、平成23年(2011年)は不順な夏で気温が上がらず、懸念されていた全国の原子力発電所停止の影響による大停電は発生しませんでした。

難しい線状降水帯の予報

 線状降水帯の発生を精度よく予測することは技術的に難しく、線状降水帯ができても、長期間存在し、しかもそれが停滞しなければ、一時的に猛烈な雨が降っても、記録的な総雨量にはなりません。

 気象庁では、令和12年(2030年)までの10年計画で、線状降水帯の予測精度向上を目指していますが、令和12年まで待つことなく、完成した技術を用いた情報の発表を計画しています。

 その第一弾が、令和3年(2021年)より始まった「顕著な大雨に関する情報」です。非常に激しい雨が同じ場所で降り続いている状況を、「線状降水帯」というキーワードを使って解説する情報です。今回は、高知県、和歌山県、奈良県、三重県、愛知県、静岡県の6県に発表となりました。

 線状降水帯に関する情報の第2弾が、昨年、令和4年(2022年)から始まった「線状降水帯の半日前予報」です。今回は、中国・四国・近畿・東海・関東甲信地方に発表となり、四国・近畿・東海で線状降水帯が発生しましたので、的中率は60パーセントということになります。また、見逃しはゼロでした。

 線状降水帯の予報は、当面は、国内を11の地方に分けての発表ですが、令和6年(2024年)には都道府県単位、令和11年(2029年)には市町村単位での発表が予定されています。

 現在、気象庁では、新しいレーダーの導入や、アメダス観測に湿度計を追加、新しいスーパーコンピュータの導入などが行われています。

 さらに、令和11年度に打ち上げ予定の新しい「ひまわり」には最新技術の導入が計画されています。

 令和12年(2030年)までは、予測精度が大幅には上がりませんが、今回のように、季節外れの時期に多量の水蒸気が流入した時でも、ある程度の予測ができます。

 線状降水帯予測情報が発表となった関東甲信地方では、実際には線状降水帯は発生しませんでしたが、警報クラスの大雨が降っています。

 これからも、線状降水帯の情報が発表となったときは、十分に警戒してください。

気がかりな南の海

 日本列島の付近には梅雨前線が強まったり弱まったりしています。

 そして、南の海では台風の卵である熱帯低気圧が発生しそうです(図5)。

図5 予想天気図(6月7日9時の予想で、図中のTDは台風の卵である熱帯低気圧)
図5 予想天気図(6月7日9時の予想で、図中のTDは台風の卵である熱帯低気圧)

 もし、フィリピンの東で台風3号が発生し、北上してくると、再び前線と台風の危険な組み合わせになります。

 梅雨明けになるまでは、油断できません。

 最新の気象情報に注意してください。

タイトル画像、図1、図3の出典:ウェザーマップ提供。

図2、図4、表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図5の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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