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クリスマス寒波が襲来で大雪と停電に警戒 今から17年前に暴風雪によるギャロッピング現象で新潟大停電

饒村曜気象予報士
疾走する馬のイラスト(提供:イメージマート)

強い寒気南下と停電

 令和4年(2022年)12月18日(日)から19日(月)にかけて、日本付近は強い寒気が南下し、冬型の気圧配置が強まって北日本から西日本の日本海側を中心に暴風雪や大雪になりました。

 12月19日に最低気温が氷点下となった冬日は、全国で気温を観測している915地点のうち728地点(約80パーセント)、最高気温が氷点下の真冬日も297地点(約32パーセント)に達しています(図1)。

 2か月ほど前の10月16日には最高気温が25度以上の夏日が396地点(約43パーセント)もありましたが、様変わりです。

図1 夏日と冬日、真冬日の観測地点数の推移(10月16日~12月21日)
図1 夏日と冬日、真冬日の観測地点数の推移(10月16日~12月21日)

 新潟県柏崎市を通る国道8号線では、一時22キロの大渋滞をし、自衛隊が出動する事態となりました。

 また、東北6県と新潟県で営業をしている東北電力によると、1万5500戸(19日21時現在)も停電しています。

 約700戸が停電していた柏崎市では、暖をとろうとして自宅前に止めた軽自動車内にいた女性が一酸化炭素中毒で亡くなっています。柏崎署は、車のマフラーが雪で埋まり、排ガスが車内に流入したとみています。

 今から17年前の12月22日の大雪の時には、新潟県下越地方で65万戸が停電する新潟大停電が発生しています。

暴風雪や湿った雪による大規模な停電

 今から17年前の平成17年(2005年)12月22日、新潟県下越地方は、暴風雪による塩風害とギャロッピング現象で65万戸が停電するという、「新潟大停電」が発生しています。

 停電が発生したのは、22日8時10分頃で、新潟市の大半は22日中に復旧しましたが、県北部で復旧したのは31時間後の23日15時10分頃でした。

新潟大停電 都市機能回復へ

 暴風雪が原因で22日午前から新潟県を直撃した大規模停電は、夕方から徐々に復旧が進み、マヒした都市機能も回復に向かった。

 東北電力新潟支店によると、ピーク時には65万戸に及んだ停電戸数は23日午前0時現在、新潟市など6市町村で2万9000戸まで減った。

 県は22日、泉田裕彦知事を本部長とする「広域停電等警戒本部」を設置。新潟市など3市では、高齢者など災害弱者向けに約70か所の避難所を開設した。新潟市などで人工呼吸器が止まるなどして10人以上が病院に運ばれた。

 交通機関では、県内のJR在来線全線が一時ストップし、駅間で3本が最大4時間にわたって立ち往生。約300本が運休し、約16万人に影響した。上越新幹線も一時、新潟-越後湯沢間が止まったが、午後4時過ぎに運転を再開した。

引用:平成17年(2005年)12月23日付 読売新聞朝刊

 新潟大停電の日は、三陸沖で低気圧が発達し、西高東低の強い冬型の気圧配置となって強い寒気が南下していました(図2)。

図2 地上天気図(平成17年(2005年)12月22日9時)
図2 地上天気図(平成17年(2005年)12月22日9時)

 この日の新潟市秋葉区の新津にあるアメダス観測によると、朝から昼前は、着雪適温帯の気温で断続的に雪が降り、風速は10メートル前後と強く、風向は西南西から西北西というほぼ西風(海よりの風)が継続していました(図3)。

図3 新潟市秋葉区の新津における気象観測(平成17年(2005年)12月22日)
図3 新潟市秋葉区の新津における気象観測(平成17年(2005年)12月22日)

 このため、海上から塩分粒子を含んだ雪が吹き付け、電源装置に付着して停電させるという塩風害が発生したのですが、これに加えて、ギャロッピング現象が発生し、大規模な停電につながりました。

 ギャロッピング現象の語源となっているギャロップ(gallop)は、襲歩(しゅうほ)ともいわれ、全速力で走る際の馬の走法のことです。

 ギャロップにおいては、3本以上の肢が接地している時がなく、4本いずれもが接地していない時がありますが、このように躍動する馬のように、電線が上下動するのがギャロッピング現象です(タイトル画像参照)。

 ギャロッピング現象は、気温が着雪適温帯と呼ばれる0度から2度の範囲にあり、風速が5メートル以上の風が吹き、加えて、風向がほぼ一定の時に発生します。

 これらの条件が揃うと、電線には翼のような氷が付着し、揚力によって電線が大きく上下動して接触し、ショート(短絡)するからです(図4)。

図4 ギャロッピング現象の説明図
図4 ギャロッピング現象の説明図

 新潟大停電の時は、まさにギャロッピング現象が発生しやすい気象状態でした。

クリスマス寒波に警戒

 寒気と寒波の違いは、どの程度長く気温の低下が続くかにあります。

 気象庁が用いている気温の用語のうち、「寒」がつく用語は10あります(表)。

表 気象庁が用いている気温の用語のうち、「寒」がつく用語
表 気象庁が用いている気温の用語のうち、「寒」がつく用語

 これによると、寒気は一時的なもの、寒波は長く続くものを指します。

 寒波になると継続して積雪や凍結が進み、事故の危険性や交通機関の乱れ、水道管凍結などの日常生活に支障をきたす可能性が高くなりますことから、気象庁では定義を決め、使い分けているのです。

 日本付近は12月21日から22日にかけて日本付近を複数の低気圧が通過する見込みです(図5)。

図5 予想天気図(12月22日9時の予想)
図5 予想天気図(12月22日9時の予想)

 このため、西日本は日本海側を中心に雪や雨となるでしょう。東日本日本海側から北日本も雪や雨となる見込みで、日本海側を中心に、大雪による交通障害、暴風雪、高波に警戒してください。

 東日本太平洋側は、午前中を中心に雨となるでしょう。

 そして、これらの低気圧通過後は、26日頃にかけて強い冬型の気圧配置となるため、北日本から西日本の日本海側を中心に大荒れや荒れた天気となり、大雪となる見込みです。

 これまでの短い期間の寒気南下と違って、クリスマスを挟んで長く続く寒気の南下ですので、クリスマス寒波の襲来です。

 日本付近の上空約5500メートル付近には、北日本から東日本で氷点下39度以下、西日本で氷点下30度以下の強い寒気が流れ込む見込みです。

 上空約5500メートルで氷点下36度の寒気は大雪の目安ですが、同じ氷点下36度でも、地表付近がまだ十分に冷えていない冬の初めのほうが大雪になります。

 地表面付近がまだ冷えていないことから、大気の下層と上層の温度差が大きくなり、対流活動が活発となり、発達した雪雲が流入してくるからです。

 今回のクリスマス寒波で南下してくる寒気は、12月としては記録的に強いもので、新潟大停電の時の寒気よりも強いと予想されています。

 新潟大停電以降も、暴風雪や湿った雪による大規模停電が少なくありません。

暴風雪や湿った雪による最近の大規模停電

令和3年(2021年)1月  秋田市や新潟市で暴風雪による倒木や飛来物による電線切断で15万4000戸の停電

平成27年(2015年)3月 長野市や松本市などで南岸低気圧による雪のギャロッピング現象で38万戸の停電 

平成24年(2012年)11月 北海道室蘭市で雪の重みで鉄塔が倒れ5万6000戸の停電

平成17年(2005年)12月 新潟大停電で65万戸の停電

 私たちの生活は電気に支えられており、停電となると水道も使えなくなるなど、電気とは関係なさそうなものまで影響が及びます。

 大雪が降ると予想されている時には、雪対策だけでなく、電気対策にも十分な警戒が必要です。

図1の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2、図5、表の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:筆者作成。

図3の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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