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温暖期と寒冷期の周期変化 500年ぶりの猛暑・干ばつといわれた今年のヨーロッパの夏と「千年猛暑」

饒村曜気象予報士
欧州各地に熱波(写真:ロイター/アフロ)

令和4年(2022年)も残りわずか

 現在、断続的に強い寒気が南下しており、12月22日から25日頃にかけて、日本付近は強い冬型の気圧配置となるため、北日本から西日本にかけての日本海側を中心に荒れた天気や大雪となり、海上では大しけとなる所があります。

 ただ、一年を振り返ると、世界的には記録的な暑さと干ばつの夏でした。

記録的に早い梅雨明けと思われた令和4年(2022年) 

 日本では、令和4年(2022年)の梅雨は、過去に例がない推移をしました。

 沖縄地方で、平年より6日早い5月4日に梅雨入りしましたが、その後は、梅雨前線が沖縄付近からほとんど動かなかったため、西日本から東日本の梅雨入りは大幅に遅れました。

 関東甲信地方が、6月6日に平年より1日早く梅雨入りしていますが、これは、梅雨前線が沖縄付近にあったものの、オホーツク海の高気圧から冷たくて湿った空気が流入したことで曇りや雨の日が続いたことによる梅雨入りという変則的な梅雨入りでした。

 これは、太平洋高気圧の北への張り出しが弱かったためで、太平洋高気圧が、強まって梅雨前線を押し上げた6月11日頃から、各地で梅雨入りとなっています。

 その後、太平洋高気圧の勢力が強まり、6月27日から29日にかけて、梅雨明けが相次いで発表されました。

 南海上から、暖かくて湿った空気が、流入したことに加え、強い日射が加わって、各地で記録的な高温が続いたらです。

 6月29日は、最高気温が25度以上の夏日を観測した地点数は今年最多とはなりませんでしたが、最高気温が30度以上の真夏日と、最高気温が35度以上の猛暑日は今年最多でした。

 そして、群馬県の伊勢崎では、最高気温が40.0度となり、今年6月25日に観測した40.2度に次ぐ、2回目の40度超えとなりました。

 3年前までは、40度を超すのは、7月と8月だけだったのですが、2年前の令和2年(2020年)9月3日に新潟県の三条と中条で40度を超えています。

 つまり、現在では、40度を超えることがあるのは6月~9月と、期間が長くなっています。

 なお、令和4年(2022年)の梅雨入りと梅雨明けは、その後に入った資料などから確定値が求められていますが、関東から九州の梅雨明けが速報値より24日以上も遅くなっています(表)。

表 各地方の梅雨入り・明けの確定値と速報値
表 各地方の梅雨入り・明けの確定値と速報値

 それだけ異常な夏の初めだったわけですが、ヨーロッパは日本よりも異常でした。

ヨーロッパの猛暑・干ばつ

 令和4年(2022年)7月は、ヨーロッパ東部から北アフリカにかけての広い範囲で、記録的な高温に見舞われました。

 スペイン南部のコルドバでは、7月12日、13日に最高気温43.6度、フランス南部のトゥールーズでは、7月17日に最高気温39.4度を観測しました(図1)。

図1 記録的な高温のヨーロッパ(7月12日から20日の9日間平均気温)
図1 記録的な高温のヨーロッパ(7月12日から20日の9日間平均気温)

 また、イギリス東部のコニングスビーでも、7月19日に最高気温40.3度を記録し、イギリス南東部のケンブリッジで観測されたイギリス記録(38.7度)を更新しました。

 また、ヨーロッパ東部から西部では、フランス南西部のモンドマルサンで7月の降水量が0ミリであるなど、記録的な干ばつとなり、スペイン、ポルトガル、フランスでは大規模な山火事が発生しました。

 500年ぶりの猛暑・干ばつと報じられた現象をもたらした要因として、地球温暖化に伴う全球的な気温の上昇傾向も影響したと考えられます。

 それ以上に影響したのは、偏西風の蛇行に伴ってヨーロッパ西部付近では背の高い高気圧に覆われたことに加え、南からの暖かい空気の流入や強い日射の影響で、地表付近の気温が上昇しやすかったことがあるとみられています。

偏西風の蛇行と異常気象

 地球は、太陽からのエネルギーをより多く受けとる低緯度と、受けらない高緯度では温度差ができます。この温度差を小さくするため、地球規模の大きな風の流れができ、低緯度から高緯度に熱が運ばれます。

 ただ、地球は自転しており、この影響で低緯度から高緯度への熱の移動は、鉛直方向の循環であるハドレー循環と、偏西風の蛇行という水平方向の循環であるロスビー循環の2つで行われます。

 低緯度から中緯度に熱を運ぶハドレー循環は、どこでも低緯度の熱が中緯度に運ばれますが、中緯度から高緯度に熱を運ぶロスビー循環は、偏西風の蛇行が南にきた場所のみの熱を北に運びます。普段は、偏西風の蛇行が移動しており、中緯度の熱が順次高緯度に運ばれます(図2)。

図2 低緯度から高緯度に熱を運ぶ2つの大循環
図2 低緯度から高緯度に熱を運ぶ2つの大循環

 偏西風の蛇行に動きがないと、蛇行が北に向き続けている場所では熱がどんどん運ばれてきますので暑くなります。

 逆に、蛇行が南に向き続けている場所では熱がどんどん逃げてゆきますので寒くなります。

 こうして、寒い場所と暑い場所ができ、偏西風蛇行が動かない状態が長く続くと異常気象になります。

 今年の7月は、イギリスの北で寒冷渦が停滞し、ヨーロッパで高気圧が停滞したことにより、偏西風の蛇行が大きくなり、その移動が止まったことで、地球を取り巻く偏西風の蛇行全体も移動が止まりました。

 降水量も熱の移動の変化によって変わり、大雨の場所と干ばつの場所がでてきます。

 こうして、偏西風の蛇行が動かない場合は、暑い異常気象と寒い異常気象、雨が多い異常気象、雨が少ない異常気象など、いろいろな異常気象が同時におきます。

 今年、世界で異常気象が多く発生している原因は、中緯度から高緯度へ熱を運ぶロスビー循環と呼ばれる偏西風の蛇行の移動が止まったことが大きいと考えられます。

 しかも、一時的に蛇行が再び動き出しても、再び同じ場所で移動が止まることで、6月も、7月もヨーロッパ、日本付近、アメリカ合衆国は高温か少雨になっています。

 このように、長期間にわたって同じ現象が続くと、被害が拡大します。

 ただ、ニュースで大きく取り上げられるのは、多くの人が住む場所における異常気象です。

 今年はフランスやスペインなどのヨーロッパで熱いというニュースが多かったのですが、寒くなっていると思われる大西洋上では人が住んでいないのでニュースにはなっていません。

500年ぶりの現象

 今年、ヨーロッパで盛んに言われていた500年ぶりという現象ですが、500年前から測器により気象観測が残っているわけではありません。

 古文書の解析など様々な方法から推定されていることに基づいています。

 それによると、年ごとに気温の高低がありますが、平均をとると、日本もヨーロッパも、数百年にわたる暖かい期間と、寒い期間が交互に現れています(図3)。

図3 気温の大きな変化傾向のイメージ図
図3 気温の大きな変化傾向のイメージ図

 今から1000年くらい前までの気温変化については、日本では白鳳・奈良・平安時代の大温暖期、鎌倉時代の小寒冷期、室町時代の小温暖期、江戸時代の大寒冷期をへて、明治以降の現在までの大温暖期という変化をしています。

 ヨーロッパも日本に比べ、多少の遅れ進みがありますが、似た変化をしています。

 今から500年ほど前というと、古文書などが増え、推定の精度が上がってきた頃です。

 そして、小温暖期であり、この期間に起きた高い気温や少ない降水量の記録を超えたということで、約500年ぶりという表現がなされていると思います。

「千年猛暑」

 ネット上で「千年猛暑」という言葉が散見されますが、この言葉は、平成22年(2010年)の記録的な猛暑のときに、気象予報士の森田正光さんが発信した言葉です。

 7世紀から12世紀(白鳳・奈良・平安時代)の大温暖期以来の大温暖期に入っている意味で、特定の年の猛暑をさした言葉ではありません。

 「約500年ぶり」にしろ、「千年猛暑」にしろ、現在起きていることが、過去に全くなかった暑さや雨の降り方になったというわけではないということを示す言葉です。

 異常気象による災害というと、地球温暖化との関係が良く言われますが、それだけではありません。

 人間活動とは関係のない自然現象の持つ大きな変化があります。

 加えて、都市化の影響とか、人々の生活が豊かになったために自然の変化に対して弱くなってきたことなど、いろいろな要因が重なった結果と思います。

 過去50年に1回くらいの極端な現象が、10年に1回くらいと頻度が増えたイメージですので、過去に起きていたことを参考に、防災対策をとることが可能です。

図1、表の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:饒村曜(平成27年(2015))、気象予報士完全合格教本、新星出版社。

図3の出典:筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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