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夏は日本近海で台風が発生する 台風9号、10号連続発生

饒村曜気象予報士
フィリピンの東と小笠原の東の2つの熱帯低気圧の雲の塊(8月21日15時)

令和4年(2022年)の台風

 令和4年(2022年)の台風は、4月に2個の台風が発生し、このうち1号が小笠原諸島に接近したあと、2か月ほど熱帯域では雲が少ない状態が続いていたため、台風が発生しませんでした。

 その後、6月30日9時に南シナ海で台風3号が発生し、続けて、7月1日9時に日本の南海上で台風4号が発生しました。

 台風4号は沖縄本島付近を通過し、東シナ海を北上して5日6時前に長崎県佐世保市付近に上陸し、九州横断中の9時に温帯低気圧に変わっています。

 台風4号以降、熱帯域の雲の発生が少なく、台風の発生数も平年より少なく経過しているのですが、7月下旬になると太平洋高気圧の縁辺をまわるように熱帯低気圧が日本の南で発生し、北上するようになってきました。

 そして、7月28日21時に、日本の南で熱帯低気圧が発達して台風5号となりました。

 台風5号は、7月29日21時頃に屋久島と奄美大島の間を通って東シナ海に入り、黄海で熱帯低気圧に変わりました。

 その後、台風6号が7月31日12時に那覇市の北40キロで発生し、そのまま北に進んで黄海で熱帯低気圧に変わりましが、台風5号と6号が北上させた暖かくて湿った空気が東北から北陸地方に流れ込み、8月3日から4日にかけて山形と新潟で大雨特別警報が発表される大雨が降りました。

 8月9日15時に南シナ海で発生した台風7号は北西進して華南で熱帯低気圧になりましたが、8月12日3時に日本の南海上で発生した台風8号は、次第に東寄りに進路を変えながら北上し、8月13日15時前に御前崎付近を通過し、17時半頃に伊豆半島に上陸しました。

 気象庁では、御前崎付近では、短時間で再び海に出たという判断で「通過」としたのですが、御前崎付近上陸でも伊豆半島上陸でも、静岡県に上陸です(表)。

表 令和4年(2022年)と平年の台風発生数・接近数・上陸数
表 令和4年(2022年)と平年の台風発生数・接近数・上陸数

 その後、一週間ほど熱帯域から日本の南海上にかけて雲のない状態が続いていましたが、ここへきて、積乱雲があちこちに発生するようになり、フィリピンの東海上では熱帯低気圧が発生し発達し始めました。

 また、小笠原諸島の東海上でも積乱雲が集まって渦を巻き始め、熱帯低気圧が発生しました(タイトル画像、図1)。

図1 予想天気図(8月23日9時の予想)
図1 予想天気図(8月23日9時の予想)

統計的に見た8月の台風経路

 フィリピンの東海上の熱帯低気圧は、海面水温が30度以上という、台風が発生する目安となる27度を大きく上回る海域を西進しています。

 このため、今後台風9号に発達し、その後は北西に進み、バシー海峡を通って南シナ海に入る見込みです(図2)。

図2 フィリピンの東の発達する熱帯低気圧の予報と海面水温(8月21日21時)
図2 フィリピンの東の発達する熱帯低気圧の予報と海面水温(8月21日21時)

【追記(8月22日13時20分)】

 フィリピンの東の熱帯低気圧は、8月22日12時に北緯16.3度で台風9号になりました。今後、北西進して8月24日には南シナ海に進み、8月26日には華南で熱帯低気圧に変わる見込みです。

【追記(8月22日13時35分)】

 南鳥島近海の熱帯低気圧は、8月22日12時に北緯33.8度で台風10号になりました。今後、北西進して8月24日には日本の東海上に達し、そのまま北上を続けて8月26日に千島の東で温帯低気圧に変わる見込みです。

 台風9号と台風10号の進路予報は図6のようになっています。台風情報は最新のものをお使いください

図6 台風9号と台風10号の進路予報(8月22日12時)
図6 台風9号と台風10号の進路予報(8月22日12時)

 筆者が昔調査した台風統計では、8月にフィリピンの東海上で発生した台風は西北西進して南シナ海に入ることが多く、今回の熱帯低気圧もそのような予報です(図3)。

図3 台風の8月の平均経路と現時点で想定される熱帯低気圧の位置
図3 台風の8月の平均経路と現時点で想定される熱帯低気圧の位置

 小笠原の東の熱帯低気圧も、台風に発達しそうですが、もし、台風になったとすると台風10号の発生です。

 そして、この台風は、北上して少し日本に近づくものの、すぐに東に向きを変えるというのが統計的な進路です。

 平年では、8月末までで14個くらい発生していますので、10号まで発生したとしても、平年より少ない発生数です。

夏は高緯度で台風が発生

 台風は、暖かくて湿った空気を集め、そこに含まれている水蒸気が水滴に変わるときに出る熱(潜熱)を取り出して、これをエネルギー源として発達したり、勢力を維持したりしています。このため、暖かくて湿った空気が多い熱帯の海上(海面水温が27度以上の海上)でしか台風は発生しません。

 熱帯低気圧と呼ばれる所以でもあります。

 ただ、赤道付近では台風は発生しません。赤道に近くなればなるほど地球の自転の影響を受けにくくなることから渦を巻きにくくなり、効率的に水蒸気を集めて熱を取りだしにくくなるからです。

 これに対し、緯度が高いと渦を巻きやすくなりますので、夏になり、海面水温が高くなった亜熱帯の海上でも台風が発生するようになります(図4)

図4 台風の月別・緯度別発生数(1951~1977)
図4 台風の月別・緯度別発生数(1951~1977)

 つまり、夏は日本近海で台風が発生しやすくなります。

 台風が発生しやすい緯度は、北緯15度から20度の間で、全台風の30パーセント強が発生しています。次に多いのが10度から15度の間で30パーセント弱の台風が発生しています(図5)。

図5 緯度別の平均台風発生数(1951~1977)と令和4年(2022年)の台風発生緯度(丸数字は台風番号)
図5 緯度別の平均台風発生数(1951~1977)と令和4年(2022年)の台風発生緯度(丸数字は台風番号)

 令和4年(2022年)は、今の所、平均的な台風発生緯度より高い緯度で発生しているといえそうです。

 台風シーズンの真っただ中です。

 最新の台風情報に注意し、警戒してください。

タイトル画像、図2、図6の出典:ウェザーマップ提供資料。

図1、表の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:「饒村曜(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計(第2報)進行速度、研究時報、気象庁」に筆者加筆。

図4の出典:饒村曜(昭和61年(1986年))、台風物語、日本気象協会。

図5の出典:「饒村曜(昭和61年(1986年))、台風物語、日本気象協会」に筆者加筆。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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