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山形・新潟では大雨特別警報 台風6号が持ち込んだ暖湿気か流入して東北地方を中心に線状降水帯が発生

饒村曜気象予報士
東北、北陸(提供:イメージマート)

台風6号が持ち込んだ暖湿気

 令和4年(2022年)7月31日12時に那覇市の北約40キロで発生した台風6号は、8月1日21時に黄海で熱帯低気圧に変わりました(図1)。

図1 黄海の台風6号から変わった熱帯低気圧と気象衛星から見た雲(8月1日21時)
図1 黄海の台風6号から変わった熱帯低気圧と気象衛星から見た雲(8月1日21時)

 7月末から8月は、北日本には前線が停滞し、その上を周期的に低気圧が通過していましたが、台風6号が南から持ち込んだ多量の水蒸気は、朝鮮半島から日本海を通って、この北日本の低気圧や前線に流入しました。

 このため、8月3日は北海道から新潟県まで、10回も「記録的短時間大雨情報」が発表されされました。

 また、8月4日も未明だけで10回も「記録的短時間大雨情報」が発表されされました(表)。

表 令和4年(2022年)8月3日から4日未明までの記録的短時間大雨情報
表 令和4年(2022年)8月3日から4日未明までの記録的短時間大雨情報

 「記録的短時間大雨情報」とは、その地方で数年に一度程度しか発生しないような短時間の大雨を、アメダス等の雨量計で観測した場合や、気象レーダーと地上の雨量計を組み合わせた分析(解析雨量)した場合に発表するものです。

 発表基準は、地域によって異なりますが、現在の降雨がその地域にとって土砂災害や浸水害、中小河川の洪水災害の発生につながるような、稀にしか観測しない雨量であることを知らせる情報で、必ず、大雨警報が発表されています。

 平成25年(2013年)から令和3年(2021年)までの9年間の「記録的短時間大雨情報」の年平均発表回数は80.1回です。

 月別には7月~9月が多く、7月は平均して約20回発表されていますが、令和4年(2022年)7月は56回と7月の平均の約3倍も発生しています

 また、8月は平均して約24回発生していますが、8月4日未明までで20回の発表ですから、すでに8月の平均くらいの発生です。

 「記録的短時間大雨情報」を発表するような猛烈な雨を降らせる積乱雲が組織化して、線状に並んでくると、より危険な状態となります。

 このため、最近、注目を集めているのが線状降水帯です。

線状降水帯

 近年、線状降水帯による大雨によって毎年のように甚大な被害が引き起こされています。

 この頻発する線状降水帯による被害軽減のため、気象庁では令和12年(2030年)までの10年計画で、早め早めの防災対応に直結する予測として「線状降水帯を含む集中豪雨の予測精度向上」に取り組んでいます。

 しかし、被害軽減は喫緊の課題であることから、令和12年(2030年)まで待つことなく、完成した技術を用いた情報の発表を計画し、第一弾が、令和3年(2021年)6月17日より始まった「顕著な大雨に関する情報」です。

 これは、線状の降水帯により非常に激しい雨が同じ場所で降り続いている状況を、「線状降水帯」というキーワードを使って解説する情報です。

 そして第2弾が、令和4年(2022年)6月1日から始まった「線状降水帯の半日前予報」で、早めの避難につなげるため、例えば、「半日後に九州北部で線状降水帯が発生」という情報が提供されます。

 当面は「九州北部」など国内を11の地域に分けての発表ですが、令和6年(2024年)には都道府県単位、令和11年(2029年)には市町村単位での発表が計画されています。

 令和4年(2022年)8月3日の線状降水帯は、半日前の予報はできませんでしたが、顕著な大雨に関する情報は5回も発表されています(図2)。

図2 線状降水帯(8月3日8時30分)
図2 線状降水帯(8月3日8時30分)

顕著な大雨に関する全般気象情報 第1号

2022年 8月3日 7時59分 青森県

顕著な大雨に関する全般気象情報 第2号

2022年 8月3日 8時29分 青森県、秋田県

顕著な大雨に関する全般気象情報 第3号

2022年 8月3日 13時9分 山形県、新潟県

顕著な大雨に関する全般気象情報 第4号

2022年 8月 3日 18時 9分 新潟県

顕著な大雨に関する全般気象情報 第5号

2022年 8月 3日 18時29分 山形県、新潟県

 顕著な大雨に関する情報は、これまで、沖縄、九州、四国、伊豆諸島で発表になっていますが、東北で発表となるのは初めてのことです。

 8月3日午前中は、線状降水帯ができる場所が南下していましたが、午後になると、山形県と新潟県の県境付近で発生するようになり、南下の傾向が止まっています。

 このため、山形・新潟県境付近を中心として24時間に約400ミリという記録的な雨が降り、大雨特別警報(浸水害)が発表になりました(図3)。

図3 24時間降水量(8月4日1時までの24時間)
図3 24時間降水量(8月4日1時までの24時間)

大雨特別警報

 気象庁は8月3日19時15分に、山形県置賜地方の6つの市と町(長井市、南陽市、川西町、飯豊町、米沢市、高畠町)に「大雨特別警報(浸水害)」を発表しました。

 大雨特別警報が発表された地域では、経験したことのないような大雨が降っているか、今後も降り続くと予想され、重大な災害の発生するおそれが非常に高くなっています。

 5段階の大雨警戒レベルのうち、危険度や緊急度が最も高い「レベル5」に相当する情報で、すでに災害が発生していてもおかしくない、命に危険が迫っている状況です。

 大雨特別警報には、「大雨特別警報(浸水害)」と「大雨特別警報(土砂災害)」の2種類があります。

 主たる災害によって分けられたものですが、どちらの災害も大きい場合は「大雨特別警報(土砂災害・浸水害)」となります。

 気象庁では、土砂災害や洪水など大雨による身の回りの危険が一目でわかる「危険度分布」を提供していますが、令和3年(2021年)3月に決定した愛称が「キキクル」です。

 そして、大雨警報(土砂災害)の危険度分布を「土砂キキクル」、大雨警報(浸水害)の危険度分布を「浸水キキクル」、洪水警報の危険度分布を「洪水キキクル」といい、いずれも危険度分布を地図上に色分けして示しています。

 この危険度分布キキクルが、令和4年(2022年)6月30日から改善されました。

これまで、土砂キキクルと洪水キキクルは警戒レベル 4 相当(非常に危険)までの対応、浸水キキクルは警戒レベルに対応していませんでしたが、土砂・浸水・洪水すべてのキキクルに警戒レベル 5 相当(災害切迫)「黒」が新しく加わりました。

 8月3日に大雨特別警報が発表となった山形県置賜地方の6つの市と町は、(実況で)大雨特別警報の基準に達していますので、浸水キキクルでは、警戒レベル 5 相当(災害切迫)の「黒」で表示されています(図4)。

図4 浸水キキクル(8月3日19時40分)
図4 浸水キキクル(8月3日19時40分)

 山形県の大雨特別警報(浸水害)は、その後、大雨特別警報(土砂災害・浸水害)に更新となっています。

 また、8月4日1時56分には新潟県でも岩船地域の、村上市と関川村に対して大雨特別警報(土砂災害・浸水害)が発表となっています。

 山形県と新潟県を中心に最新の情報の入手に努め、大雨に対する厳重な警戒が必要です。

 きめ細かい情報が発表される時代になってきましたが、増えてきた顕著な現象に対して、このきめ細かい情報をどう活かすかが新たな課題になってきました。

図1、図2、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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