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南シナ海で台風4号が発生か 台風から変わった低気圧が梅雨前線を刺激する懸念

饒村曜気象予報士
発達する熱帯低気圧に関する情報(6月11日21時の予報)

令和3年(2021年)の台風

 令和3年(2021年)は、2月18日にフィリピンの東海上で台風1号が発生しました。

 台風1号は、西進してフィリピンのミンダナオ島に上陸するかとみられていましたが、上陸前に熱帯低気圧に衰えました。

 その後、しばらく台風の発生がなかったのですが、4月14日3時にカロリン諸島で台風2号が発生しました。

 台風2号は、発達しながら西進し、18日3時にはフィリピンの東海上で、中心気圧895ヘクトパスカル、最大風速60メートル、最大瞬間風速85メートルの猛烈な台風になっています。

 平成28年(2016年)の台風14号以来、5年ぶりの900ヘクトパスカル未満の台風です。

 台風2号発生から一か月半たった5月31日9時、カロリン諸島で台風3号が発生しました。

 台風3号は、ルソン島を北上し、早めに熱帯低気圧に衰えるとみられていましたが、フィリピンの島々の間を通過し、南シナ海を北上しました。

 このため、台風はなかなか衰えず、沖縄県先島諸島に接近し、日本の南海上を東進しました(図1)。

図1 令和3年(2021年)の台風予報(台風1号から3号までの台風で、いずれも台風でなくなる直前の予報)
図1 令和3年(2021年)の台風予報(台風1号から3号までの台風で、いずれも台風でなくなる直前の予報)

南シナ海の積乱雲

 台風3号から約半月後、南シナ海では台風のもとである積乱雲が増え、熱帯低気圧が発生しました。

 そして、この熱帯低気圧に発達の兆候が見られたことから、気象庁では6月11日15時に「今後24時間以内に台風4号に発達する」という熱帯低気圧に関する情報を発表しました(図2、タイトル画像参照)。

【追記(6月12日21時)】

南シナ海で、6月12日15時に台風4号が発生しました。

図2 熱帯低気圧に関する情報と海面水温
図2 熱帯低気圧に関する情報と海面水温

 熱帯低気圧が存在する海域は、海面水温が29度以上と、台風が発達する目安となっている27度を大きく上回っていますが、あまり発達しないうちに西北西進して海南島に上陸、その後インドシナ半島に上陸する見込です。

 筆者が過去に調べた6月に南シナ海で発生した台風は、ほとんどが西北西進して華南からインドシナ半島に上陸しています(図3)。

図3 台風の6月の平均経路
図3 台風の6月の平均経路

 台風4号も、平均的なコースを通りそうです。

 日本へは直接の影響はないと考えられますが、台風は多量の水蒸気の塊ですので、台風から温帯低気圧に変わったあとに日本に接近し、日本列島上の梅雨前線を活発化させる懸念があります。

 台風4号、あるいは、台風4号から変わった低気圧の動向に注意が必要です。

台風の統計

 台風の定義が「中心付近の最大風速が17.2m/s以上の熱帯低気圧」と決まった昭和26年(1951年)から台風についての各種統計があります。

 ただ、気象庁の平年値は、西暦年の1の位が1の年から続く30年間の平均値をもって平年値とし、10年ごとに更新しています。

 そして、今年、令和3年(2021年)5月19日から、現平年値「2010平年値(1981~2010年の観測値による平年値)」から、新平年値「2020平年値(1991~2020年の観測値による平年値)に切り替えられました。

 台風に関する各種平年値も同じ扱いです。

 台風の年間発生数は、25.6個から25.1個へと、若干減るものの、上陸数は2.7個から3.0個へと若干増えています(表)。

表 令和3年(2021年)の台風発生数と、発生数・接近数・上陸数の新旧平年値
表 令和3年(2021年)の台風発生数と、発生数・接近数・上陸数の新旧平年値

 また、接近数も11.4個から11.7個へと若干増えています。

 つまり、台風の発生数は減っても、日本に影響する台風の数は増えるということから、より一層の防災対策が必要となっています。

 気象庁の台風の上陸の定義は、台風の中心が九州、四国、本州、北海道のいずれかに達したときをいいます。

 図4は昭和26年(1951年)から令和2年(2020年)までの206個の台風上陸を、月別にまとめたものです。

図4 台風の月別上陸数
図4 台風の月別上陸数

 上陸した台風が一番多いのは8月、次いで9月です。

 ただ、平成13年(2001年)以降の20年間でいえば、8月と9月は同じ数です。

 また、10月が若干増え、7月が若干減る傾向にありますので、台風の上陸は夏から秋に移動しつつあるといえそうです。

 とはいえ、6月は台風シーズンの始まりの月です。

タイトル画像、図1、図2の出典:ウェザーマップ提供。

図3の出典:饒村曜・宮沢清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計、研究時報、気象庁。

図4、表の出典:気象庁資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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