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ルソン島を縦断しなかったことで衰えなかった台風3号が温帯低気圧に変わりながら南岸を通過

饒村曜気象予報士
台風3号の雲(図の円内)と梅雨前線の雲(6月5日9時)

予想が西へと変わった北上経路

 令和3年(2021年)5月29日15時、カロリン諸島で熱帯低気圧が発生しました。

 この熱帯低気圧は、発達の兆候が見られたことから、気象庁では30日9時に「今後24時間以内に台風3号に発達する」という熱帯低気圧に関する情報を発表しました(図1)。

図1 熱帯低気圧に関する情報(5月31日3時)
図1 熱帯低気圧に関する情報(5月31日3時)

 そして、31日9時に台風3号に発達しました。

 台風3号が発生した海域は、海面水温が29度以上と、台風が発達する目安となっている27度を大きく上回っています。

 ただ、気象庁が台風3号の東海上にも、別の熱帯低気圧が発生しており、海面水温29度以上という水蒸気が豊富な海域といっても、台風のエネルギー源である水蒸気を2つ目の熱帯低気圧と分けあっています。

 このため、台風3号は大きく発達することはなく北上してくる予報でした(図2の中の(1))。

図2 台風3号が温帯低気圧に変わる直前の進路予報(6月5日12時)
図2 台風3号が温帯低気圧に変わる直前の進路予報(6月5日12時)

 しかし、その後、台風3号が北上するのはルソン島付近という予報に変わり、台風3号は早めに衰えて、熱帯低気圧になるという予報に変わりました(図2の(2))。

 実際の台風3号の進路は、フィリピンの島の間をすり抜けるように南シナ海に入ったため、衰えずに北上し、沖縄県の先島諸島近海まで北上してきました。

 そして、6月5日15時に温帯低気圧に変わっています。

 筆者が過去に調べた5月のカロリン諸島近海で発生した台風のうち、日本に影響する台風は、西進して南シナ海に入り、その後北上して先島諸島にくるものと、フィリピンの東海上を北上してくるものがあります(図3)。

図3 5月の平均的な台風経路
図3 5月の平均的な台風経路

 つまり、5月の台風として、平均的な経路を通って日本に接近した台風といえそうです。

大雨の予想

 台風から変わった温帯低気圧は、日本の南岸を東進の見込みです(図4)。

図4 予想天気図(6月6日9時の予想)
図4 予想天気図(6月6日9時の予想)

 温帯低気圧化したといっても多量の水蒸気を持ち込んでおり、低気圧の進路にあたる地方では、大雨に注意が必要です。

 低気圧の進路がやや北寄りになった場合には、南岸の地方で大雨となる恐れがありますので、最新の気象情報に注意してください(図5)。

図5 雨と風の分布予報(6月6日9時の予報)
図5 雨と風の分布予報(6月6日9時の予報)

 気象関係者の間では、昔から、鯛ならぬ「腐っても台」と言われてきました。

 台風は、温帯低気圧に変わった後でも油断できないという経験からの言葉です。

タイトル画像、図1、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:気象庁ホームページに著者加筆。

図3の出典:饒村曜・宮沢清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計、研究時報、気象庁。

図4の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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