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強度予報が難しい台風2号が沖縄へ接近 高気圧との間で生じる波に警戒

饒村曜気象予報士
北上中の台風2号の雲(4月21日15時)

895ヘクトパスカル

 令和3年(2021年)4月14日3時にカロリン諸島で発生した台風2号は、発達しながら西進し、18日3時にはフィリピンの東海上で、中心気圧895hPa、最大風速60メートル、最大瞬間風速85メートルの猛烈な台風になっています。

 平成28年(2016年)9月14日にバシー海峡を通って中国大陸に上昇した台風14号以来、5年ぶりの900hPa未満の台風です(図1)。

図1 平成28年(2016年)の台風14号の進路予報(9月13日21時発表)
図1 平成28年(2016年)の台風14号の進路予報(9月13日21時発表)

 この台風14号のように、900hPa未満の台風は夏から秋の台風で、4月にこれだけ発達した台風は、過去に類をみません。

 令和3年(2021年)の台風2号は、猛烈な台風から非常に強い台風へと、少し勢力が落ちたとはいえ、強い勢力で沖縄の南海上に北上してきます(図2)。

図2 台風2号の進路予報(4月21日21時の予報)
図2 台風2号の進路予報(4月21日21時の予報)

台風情報は最新のものをお使いください

 沖縄の南海上の海面水温は、台風が発生・発達する目安とされる27度より低いので、北上した場合は勢力がかなり落ちます。

 しかし、東進した場合は、27度より若干低いだけの海域を進みますので、大きく勢力が落ちることはないと考えられます。

 台風進路によって、台風強度の予報が左右されますが、この台風2号は、進路予報が難しい台風で、大きな予報円の台風です。

大きな予報円

 台風の予報円の大きさは、概ね、台風の進路予報誤差に対応しています。

 台風進路予報の精度は、その年の特徴に起因する様々な変動があり、進路予報が難しい台風が多い年は、予報誤差が大きくなりますが、計算機の飛躍的な性能アップと、気象衛星からの詳細な観測データ取り込みを背景に年々小さくなっていました(図3)。

図3 台風進路予報誤差の経年変化
図3 台風進路予報誤差の経年変化

 台風の予報円表示が始まった昭和57年(1982年)は、24時間先までしか発表していなかったのですが、予報誤差が200キロ以上ありました。それが、現在では3分の1の誤差です。

 3日先までの予報が始まった平成9年(1997年)の3日先予報の誤差は約400キロでしたが、約175キロと、昭和57年(1982年)の24時間先までの予報より精度が良くなっています。

 平成11年(2009年)から始まった5日先予報の誤差は、過去最小となり、15年前の3日先までの予報の誤差とほぼ同じところまできました。

 この平均誤差が予報円の平均の大きさにほぼ一致していますので、令和2年(2020年)の台風進路予報誤差は、3日先で176キロ、5日先で267キロということは、予報円の大きさが、3日先で176キロ、5日先で267キロを大きく上回っていれば、大きな予報円の台風ということができます。

 台風2号の予報円は、4月21日15時の場合、4日目以降、平均進路予報誤差を大きく上回っています(図4)。

図4 台風2号の予報円の大きさ(4月21日21時予報の場合)と令和2年(2020年)の平均進路予報誤差
図4 台風2号の予報円の大きさ(4月21日21時予報の場合)と令和2年(2020年)の平均進路予報誤差

難しかった強度予報

 台風の最大風速や中心気圧などの強度予報は、台風の進路予報よりも難しく、5日先までの強度予報が始まったのは、台風進路予報が5日先までに延長になった10年後、平成21年(2019年)からです。

 気象庁は、台風の強度予報について、最大風速に関する検証結果を公表しています。

 令和2年(2020年)の全ての台風の最大風速の誤差は、1日先の予報が5.8メートル、3日先が7.3メートル、5日先が6.8メートルとなっています(図5)。

図5 台風強度予報(最大風速)の経年変化
図5 台風強度予報(最大風速)の経年変化

 中心気圧と最大風速の関係を大雑把にいえば、中心気圧が低い台風であれば中心気圧が10hPa違えば、最大風速が10メートル違います。

 また、中心気圧が高い台風では、中心気圧が5hPa違えば、最大風速が10メートル違います。

 単純には言えませんが、最大風速の誤差の平均が10メートル以下ということは、中心気圧の平均誤差は10hPaを超えないといえるでしょう。

 令和3年(2021年)の台風2号で、4月14日3時発表の4日先については、950hPaの予報に対し、実際は895hPaと誤差は55hPaもありました(図6)。

図6 台風2号の気圧の予報(3時のみ表示)
図6 台風2号の気圧の予報(3時のみ表示)

 17日3時の24時間先の予報でも、誤差は30hPaもあります。

 ただ、4月16日3時の5日先の強度予報のように、3日先の誤差は45hPaと大きくても、4日先の誤差は0hPaと小さいことがあります。

 進路予報は、予報期間が長いほど平均誤差が大きくなりますが、強度予報は、予報期間が長くなっても平均誤差が大きくならないことが少なくありません。

 また、台風の強度予報の経年変化は、進路予報のように目立って小さくはなっていません。

 強度予報がそれだけ難しいともいえ、台風2号のような事例をいかに少なくするかが大きな課題となっています。

沖縄は高波に警戒

 台風2号が接近する沖縄付近では、台風の速度が早くないことから、台風と高気圧間の東よりの強い風が継続することになります。

 風が強いほど風浪が高まるのですが、同じ強さの風でも、同じ方向に長時間吹いていると風浪が高くなります。

 このことに加えて、台風からのうねりが入ってきます。

 このため、台風から離れている段階から沖縄では波が高くなります(図7)。

図7 波浪予想図(上は4月22日21時の予想、下は4月24日12時の予想)
図7 波浪予想図(上は4月22日21時の予想、下は4月24日12時の予想)

 沖縄では、22日から24日にかけて高い波に警戒が必要です。

 また、小笠原も予報円が大きい台風ですので、今後の台風情報に注意してください。

タイトル画像、図1、図2、図7の出典:ウェザーマップ提供。

図3、図5の出典:気象庁ホームページ。

図4、図6の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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