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特別警報級の台風10号が北上 南に向いた湾は吹き寄せ効果で大きな高潮の懸念

饒村曜気象予報士
特別警報級の台風10号の雲(9月5日21時)

台風10号が北上

 大型で非常に強い台風10号が、鹿児島県奄美大島の南海上を北上中です。

 中心気圧は920ヘクトパスカルをキープしたまま、勢力を落とさずに北上です(図1)。

図1 台風10号の進路予報(9月6日3時の予報)
図1 台風10号の進路予報(9月6日3時の予報)

 台風情報は最新のものをお使いください。

 そして、6日夜のはじめごろから遅くにかけて、鹿児島県に接近または上陸するおそれがでてきました。

 気象庁では3時間毎の暴風域に入る確率を発表していますが、この暴風域に入る確率が一番高い時間帯が、ほぼ台風最接近の時間帯です。

 例えば、鹿児島県の鹿児島・日置は9月6日(月)の18時から21時の時間帯が100パーセントとなり、7日(火)の0時から3時の時間帯まで100パーセントが続きますので、鹿児島県が暴風域に入ることはほぼ確実で、この頃が最接近と考えられます(図2)。

図2 鹿児島県(鹿児島・日置)と福岡県(福岡地方)が暴風域に入る3時間毎の確率
図2 鹿児島県(鹿児島・日置)と福岡県(福岡地方)が暴風域に入る3時間毎の確率

 また、福岡県の福岡地方で暴風域に入る確率が一番高いのは、7日(火)3時から6時で、この頃が福岡県への最接近と考えられます。

特別警報の予告

 特別警報の発表基準は、災害の種類によって違いますが、台風による特別警報の発表基準は、沖縄・奄美・小笠原を除く日本本土と周辺離島では、中心気圧930ヘクトパスカル以下または最大風速が毎秒50メートル以上の台風です。

 また、沖縄・奄美・小笠原諸島では、910ヘクトパスカル以下または最大風速60メートル以上の台風が来襲する場合です。

 つまり、台風10号は、特別警報の発表基準である930ヘクトパスカル以下を満たしながら北上する予報です。

 台風の統計がとられている昭和26年(1951年)以降では、930ヘクトパスカル以下で上陸した台風は、3個しかありません。

 昭和36年(1961年)の台風18号(第2室戸台風)、昭和34年(1959年)の台風15号(伊勢湾台風)、そして、平成5年(1993年)の台風13号の3つです。

 特別警報が発表となる台風は、暴風や大雨による大災害に加えて、大規模な高潮によって多数の死者がでる可能性がある台風です。

 台風10号は、このような危険な台風です。

 気象庁は、台風10号について、特別警報を発表する場合は、台風上陸の12時間前に発表するとしています。

 つまり、真夜中に台風が上陸する場合でも、防災対策が取りやすい昼間のうちに特別警報が発表されます。

 そして、特別警報を発表する24時間前に予告の発表をするとしていましたが、9月5日20時に、気象庁の中本能久予報課長は「鹿児島県に特別警報発表の可能性の確度が高まった」と緊急記者会見をして説明しました。

 そして、「これまでに経験したことのないような暴風、高波、高潮、それに、記録的な大雨となるおそれがあるため、あす午前中に奄美地方を除く鹿児島県に暴風、波浪、高潮特別警報を発表する可能性がある」として、最大級の警戒を呼びかけました。

 気象庁が、特別警報を早めに、しかも予告して発表しようとしていることは、いかに危機感を持っているかのあらわれです。

高潮の原因

 台風によって死者が多くなるのは、5000人以上が死亡した昭和34年(1959年)の伊勢湾台風をはじめ、大きな高潮が発生したときといわれています。

 ただ、大きな高潮が発生したとき、いつも大きな高潮被害がでるわけではありません。

 干潮のときの高潮であれば、堤防を越えずに被害がでないこともあります。

 堤防自体も伊勢湾台風クラスの台風襲来を想定して補強や嵩上げが行われていますが、油断していると多くの人命が失われる、というのが高潮被害です。

 伊勢湾台風以後で大きな高潮被害は、平成11年(1999年)9月24日早朝、強い勢力を保ったまま、熊本県北部に上陸した台風18号です(図3)。

図3 平成11年(1999年)の台風18号の経路
図3 平成11年(1999年)の台風18号の経路

 上陸時の中心気圧は950ヘクトパスカル、最大風速は毎秒40メートルで、九州北部、中国西部を通過して日本海に抜けています。

 台風の接近・通過で、西日本を中心に各地で大雨・暴風となり、全国で死者31名、浸水家屋5千棟などの甚大な被害がありました。

 特に、台風進路の右側にあたった熊本県八代海の不知火町では、湾の奥に風が吹き込んだことで大きな高潮被害が発生し、高潮で12名がなくなりました。

 また、山口県の山口宇部空港が高潮で水没し、9月28日までの長期閉鎖を余儀なくされています。

 高潮を引き起こす主な原因は2つあります。

 1つは、台風の気圧が低いことによる海面の吸い上げです。

 この吸い上げ効果は、気圧が1へクトパスカル低くなると、海面は約1センチ上昇します。

 例えば、930へクトパスカルの台風が通過したときは、気圧が1000へクトパスカルのときに比べて、海面が70センチ(1000マイナス930)上昇します。

 つまり、吸い上げ効果の高潮は、猛烈な台風の中心が真上を通った場合でも、1メートルは超えませんし、台風が離れて通過する場合は、もっと小さい直となります。

 過去の大きな高潮災害では、2メートル以上の高潮が発生していますが、これはもう1つの理由、吹き寄せ効果によってです。

 風が海から陸に向かって吹いていることで海面が高くなることが、吹き寄せ効果です。

 風速の二乗に比例して大きくなりますので、風が強くなれば、この吹き寄せ効果は急激に大きくなります。

 大きな高潮になるかどうかは、湾の奥に向かって風が吹くかどうかで決まります。

 さらに、湾がV字型であれば、その傾向が顕著です。

 太平洋側沿岸の多くの湾のように、南に開いている湾では、図4のように、台風が西側を北上すると大きな高潮となります。

図4 高潮が大きくなる台風の進路
図4 高潮が大きくなる台風の進路

 台風の進行方向の右側は、左側に比べて風が強く、危険半円と呼ばれていることは、よく知られています。

 北上する台風の危険半円は風が強いというだけでなく、南に開いている湾ではこの強い風による吹き寄せ効果によって大きな高潮が発生する懸念があります。

 北上している台風10号は、特別警報の発表が想定されるほどの風の強い台風で、九州全体が危険半円に入っており、高潮に対する警戒が必須です。

タイトル画像、図1の出典:ウェザーマップ提供。

図2、図3の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:饒村曜(平成26年(2014年))、天気と気象100、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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