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太平洋高気圧が強まる前の「大雨の10日間」と48年前の上天草大災害

饒村曜気象予報士
梅雨の晴れ間(7月1日21時の地上天気図と衛星画像)

短い周期で低気圧

 梅雨前線上を低気圧が短い周期で通過しており、低気圧が通過するタイミングで大雨となっています。

 令和2年(2020年)7月1日午後から2日は西日本から東日本の太平洋側に大雨をもたらした低気圧と前線が海上に抜け、高気圧が通過するため晴天が広がっています(タイトル画像参照)。

 しかし、7月3日は、梅雨前線上の東シナ海で低気圧が発生する見込みです(図1)。

図1 予想天気図(7月3日9時の予想)
図1 予想天気図(7月3日9時の予想)

 このため、西日本から東日本では、太平洋側を中心に雨や風が強まると考えられます(図2)。

図2 雨と風の分布予報(7月3日15時)
図2 雨と風の分布予報(7月3日15時)

 気象庁では早期注意情報として、5日先までに警報を発表する可能性を「高」「中」の2階級で発表しています。

 これによると、7月3日は九州・四国と山口県および東海地方では大雨警報を発表する可能性が「中」となっています(図3)。

図3 早期注意情報(大雨警報級の可能性)
図3 早期注意情報(大雨警報級の可能性)

 これまでも周期的に大雨が降っていますが、同じ場所で再度大雨が降ると土砂災害の危険性が非常に高まりますので、雨の降り方には注意が必要です。

少しずつ北へ

 7月3~4日の雨だけではありません。

 その3日後の、7月6~7日も梅雨前線に低気圧が発生して東進しますので、西日本から東日本だけでなく東北地方も大雨の可能性があります(図4)。

図4 雨の分布予想(7月3日朝、6日朝、9日朝)
図4 雨の分布予想(7月3日朝、6日朝、9日朝)

 さらに、その3日後の、7月9~10日も梅雨前線上に低気圧が発生して東進しますので、西日本から東日本、東北地方だけでなく北海道でも大雨の可能性があります。

上天草大災害

 大雨が降って土中に水分がたまっている場所に、再び大雨が降ると、土砂災害が発生しやすくなります。

 今から、48年前の、昭和47年(1972年)7月3日から13日は、長崎県世知原で総降水量が1157ミリなど、西日本を中心に各地で梅雨前線による大雨が降っています。

 このため、山崩れや崖崩れが相次ぎ、死者・行方不明者200人、全半壊・流出家屋1265棟、床上浸水家屋6674棟など大きな被害が発生しています。

 気象庁が「昭和47年7月豪雨」と命名したほどの豪雨による災害ですが、最も被害が大きかったのは、熊本県の天草地方で、この地方では「上天草大災害」と呼ばれています。

 集中豪雨のため死者116人、重軽傷者249人を出し、壊滅的な被害をもたらした47年7月6日の上天草大災害で上天草東岸沿いの松島、姫戸、竜ヶ岳、倉岳、栖本の5町が被災、460戸が山津波で押しつぶされ、270戸が半壊するという惨状だった。水田や畑430haが土砂や岩石で埋まり、被害総額は180億円の巨額に達した。

 災害後、急ピッチで工事が進められ、町の農地復旧を除いてはほぼ工事は完了した。たけり狂った山津波の地獄絵図もまるでウソのように静まり返っている。えぐり取られた山のツメ跡は消え、緑で覆われた。農地は元通りの姿を取り戻し、山の斜面には巨大な砂防ダムが、がっちり立ちはだかっている。しかし、山のツメ跡は消えても災害の後遺症は根強く、被災者の傷跡は3年たった今も、いえないでいる。

出典:熊本日日新聞(昭和50年(1975年)7月5日)

 アメダスなどの観測設備が整備されていない時代ですが、7月3日から雨が降り続いたところに、6日に竜ケ岳町で1時間に130ミリの雨が降ったと推定されています。

 そして、現在は上天草市になっている松島町、姫戸町、竜ヶ岳町、現在は天草市になっている倉岳町、栖本町の5町(人口は合わせて3万1000人,7600世帯)で、死者116人(115人という資料もあります)、全半壊730戸という大災害が発生したのです。

梅雨明け?

 今後の10日間は周期的に大雨の可能性がでてくるといっても、その危険な場所は、少しずつ北へ移動していきます。

 これは、太平洋高気圧が徐々に強まっていくことに対応していますので、「大雨の10日間」が過ぎたら、太平洋高気圧に覆われるとみられます。

 晴れの日が続くことから、東日本の太平洋側から西日本で、「早めの梅雨明け」、あるいは、「長めの梅雨の中休み」になるかもしれません

 「大雨の10日間」は、気温が高く湿度が高いことから、大雨に対する警戒とともに熱中症に対する警戒も必要です。

 「大雨の10日間」後は、晴れの日が多くなることから気温がさらに上昇し、真夏の気温となりますので、より熱中症に対する警戒が必要です。

タイトル画像、図2、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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