関東地方以西で梅雨入りだが、例年主役のオホーツク海高気圧がいない
平成30年(2018年)の梅雨入り
平成30年(2018年)の梅雨入りは、鹿児島県奄美地方が一番早く、平年より4日早い5月7日でした。ついで、沖縄地方で、平年より1日早い5月8日でした。
30年間の平均である平年値では、沖縄地方のほうが早く梅雨入りしますが、最近は奄美地方のほうが早く梅雨入りをしています。
奄美・沖縄地方の梅雨入りから約20日後の5月26日に九州南部(平年より5日早い)、5月28日に九州北部と四国地方(ともに平年より8日早い)が梅雨入りしました。
そして、6月5日に中国地方(平年より2日早い)、6月6日に近畿地方(平年より1日早い)、東海地方(平年より2日早い)と関東甲信地方(平年より2日早い)が梅雨入りしました。
紫陽花(あじさい)の開花と梅雨入り
気象庁は、季節の遅れ進みや、気候の違いなど総合的な気象状況の推移を把握したり、新聞やテレビなどの生活情報の一つとして、生物季節観測を行っています。
生物季節観測は、桜の開花や満開の観測は有名ですが、梅の開花した日、カエデやイチョウが紅葉(黄葉)した日、ウグイスやアブラゼミの鳴き声を初めて聞いた日、ツバメやホタルを最初に見た日などがあります。
紫陽花の開花も、生物季節観測の対象です。梅雨入りに対応した現象です。
広島の紫陽花の開花は、中国地方が梅雨入りした日と同じ6月5日、横浜の紫陽花の開花は、関東・甲信地方が梅雨入りする3日前の6月3日と、ほぼ梅雨入りと同じタイミングです(表)。
梅雨入りの日の天気図
平成30年(2018年)の梅雨入りは、関東甲信地方から近畿地方の梅雨入りまで、すべて平年より早いという特徴がありました。
そして、例年の梅雨では天気図上で主役となるオホーツク海高気圧がみあたらない梅雨入りが多かったという特徴がありました。
例えば、関東から近畿地方が梅雨入りした6月6日の地上天気図を見ると、紀伊半島沖に停滞前線を伴った低気圧がありますが、オホーツク海高気圧はみあたりません(図1)。
それどころか、オホーツク海南部は気圧が低くなって、潜在的な前線が存在しており、この潜在的な前線が次第にはっきりしてきます(図2)。
例年の梅雨
例年の梅雨は、オホーツク海に存在する冷たくて湿った海洋性の気団である「オホーツク海気団」と、北太平洋西部に存在する高温多湿の海洋性の気団である「小笠原気団」が接近し、その境目にできるのが梅雨前線です。
気象予報士に、日付をかくして図2の天気図を見せたら、梅雨時の天気図とは答えられないと思います。それほど、変わった梅雨入りです。
過去とは違う梅雨になる可能性がありますので注意が必要です。
気温が低くく、シトシト降る雨の日が少ない変わりに、ザット降る豪雨の日が多いかもしれません。
梅雨とオホーツク海高気圧
梅雨がオホーツク海高気圧と密接に関係していることを最初に指摘したのは、明治から大正、昭和にかけて気象事業の発展に尽力し、「日本気象事業の父」と呼ばれた岡田武松です。
明治43年(1910年)、37歳のときに「梅雨論」を発表し、翌年に、この「梅雨論」で理学博士となっています。日清戦争や日露戦争の結果、気象観測の要である測候所が国内外に増え、広い範囲の詳しい観測が得られるようになったことが、岡田武松の研究を可能にしました。
岡田武松は、後進の育成のために多くの著書を書いていますが、昭和3年(1928年)の気象学講話の改訂版には、梅雨について、次のような説明と天気図があります。沖縄(琉球)の梅雨を雨期と考えているなど、現在の梅雨の認識とは多少違いますが、オホーツク海高気圧からの気流が入って梅雨になることが指摘されています(図3)。
なお、天気図に前線が記入されるのは、昭和に入ってしばらくしてからですので、図3の天気図には前線が記入されていません。
海難防止のため海洋気象台設置に奔走し、神戸に誕生した海洋気象台(現在の神戸地方気象台の前身)の初代台長になっています。大正9年(1920年)のことです。
岡田武松は、大正12年(1923年)に中央気象台長(現在の気象庁長官)となり、昭和16年(1941年)7月まで勤めています。
その間、梅雨期のオホーツク海高気圧の盛衰には、冬の流氷が重要と考え、女満別に中央気象台空港(現在の女満別空港の前身)を作って、飛行機による流氷観測を行っています。
昭和初期の北日本は、梅雨時の低温による冷害が相次いで悲惨な状態で、その時代の最先端の学問、最先端の技術を使って挑んでいますが、高層気象観測が充実してくると、オホーツク海高気圧の盛衰と、流氷とは直接の関係がないことがわかっています。
しかし、このことは、岡田武松の足跡があって、はじめてわかったことです。
図1、図2の出典:気象庁ホームページ。
図3の出典:岡田武松(昭和7年(1932年))、改版・気象学講話、岩波書店。
表の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。