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低気圧で大荒れの週末 低気圧の概念は第一次世界大戦で誕生

饒村曜気象予報士
迫る雨雲(ペイレスイメージズ/アフロ)

週末の天気

 低気圧が東シナ海北部から日本海を発達しながら通過するため、全国的に大荒れの週末となりそうです(図1、図2)。

図1 地上天気図(4月14日3時)
図1 地上天気図(4月14日3時)
図2 予想天気図(4月15日9時の予想)
図2 予想天気図(4月15日9時の予想)

 西日本から東日本では4月14日(土)の午後から風が強くなり、太平洋側を中心に激しい雨が降って雨量が多くなるところがありそうです。15日(日)には強い風と雨は東北地方にも広がり、多くのイベントや登山などが中止や延期になる可能性があります。また、東日本と東北地方の山沿いや北海道では雪の恐れがありますので、車の移動には注意が必要です。

 特に、麓は暖かい日が続いて春から初夏でも、山では冬ということを認識しないと遭難する恐れがある週末です。

低気圧の概念

 明日や明後日の天気予報をするためには、日本国内の資料だけでは不十分で、世界中の気象質料を集める必要があります。そこで、各国の気象台は自国内の資料を集めると同時に、各国とその質料を交換しているのですが、気象資料を集めるだけでは、正確な天気予報をすることができません。

 正確な天気予報のためには、低気圧の概念など、大気の仕組みがわかっていることが必要です。

 低気圧の概念など、大気の仕組みが分かってきたのは、大正3年から7年(1914年から1918年)に発生した第一次世界大戦がきっかけです。

 第一次世界大戦が始まると、ノルウェーでは、ヨーロッパ諸国の観測データが入らなくなり、簡単な天気予報でさえ行えなくなります。困ったノルウェ一では、J・A・B・ビヤクネスを中心とした気象学者たち(ノルウェー学派)が、スカンジナビア半島における詳細な観測値を丹念に分析し、立体的な低気圧モデルを作っています。

 自国周辺の観測データだけで何とかならないかと努力したわけですが、出来上がった低気圧の概念は素晴らしいものでした。当時は、定常的な高層観測がはじまっていない時代でしたが、多くの点で実際の低気圧をうまく表現していました。

 低気圧の発達・衰弱の様子がモデルで表現されることによって、わずかなデータでも色々な情報を得ることができました。

 戦争が終わって各国の観測データが集まり、高層観測が充実してくると、多少の手直しがありましたが、高層気象観測が組織的に行われている現在からみても大筋はうまく表現している優れたものでした。

 そして、今でも使われている低気圧の概念を使っての分析が進み、その後の気象学にはなくてはならないものになりました。

 ビヤクネスの考えは、第一次世界大戦終結直後の大正9年(1920年)、ビヤクネスの研究所で優れた研究が行われたという情報によって、急遽留学した藤原咲平博士(お天気博士として国民に親しまれ、後の中央気象台長)によって、直ちに日本にもたらされています。

春は嵐の季節

 春は、日本付近を低気圧が発達しながら通過することが多く、「嵐の季節」と呼ばれます。

 立春後に吹く「春一番」から、ゴールデンウィーク後に吹く「メイストーム」まで、春になると、ときどき日本海を低気圧が発達しながら通過して全国的に嵐になるからです。

 そして、低気圧の発達のしかたは、ビャクネス等のノルウェー学派の人たちが約100年前に作った概念の通りです。これに最新の観測や学問が加わって精度の高い低気圧の予報が行われています。

 週末のイベントや登山などの計画があるかたも多いと思いますが、気象情報に注意し、安全に楽しんで欲しいと思います。

図1、図2の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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