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麓は春でも山頂は冬 12年前の「引き返していれば」の思い

饒村曜気象予報士
菜の花(写真:アフロ)

麓は春でも山頂は冬

 高気圧に覆われ、晴れて気温が高くなって夏を思わせる暖かい日が多くなってきました。

 今週も、高気圧に覆われて晴れて気温が上がる日が多いのですが、週の半ばの11日(水)頃には、中国東北部から低気圧が発達しながら通過して北日本と東日本の日本海側を中心に荒れた天気となります(図1)。

図1 予想天気図(4月10日9時の予想)
図1 予想天気図(4月10日9時の予想)

 このように、春は夏を思わせる暖かさになっても、ときおり荒れる天気になります。麓ではそれほど寒くならなくても、山頂付近では真冬並みの吹雪になることがあります。冬山と同様の、十分な装備と食糧が必要となるのですが、麓で暖かい日が続いていると、軽装備での登山で遭難する人が少なくありません。

 また、気温変化が激しい春先は、雪の斜面にひびが入って雪崩の危険性が高まります。春先は雪があっても安全のために閉鎖するスキー場があるほど雪崩に注意が必要なのが春山です。

 これからゴールデンウィークすぎに登山の計画がある人は、「麓は春でも山頂は冬」を意識する必要があります。降雪の直後に山に入るのは避けた方が良く、入山する場合は冬山に近い防寒の装備をし、万一の時には2日間くらい救助を待つようにすることまで考えたほうが良いと思います。

12年前の山岳遭難

 長野県北アルプスと南アルプスでは、平成18年(2006年)4月8日から9日にかけて雪崩が相次ぎ、山スキーの6人が死亡するなど、事故が相次いでいます。

 長野県では前年12月から3月にかけて降雪量が平年の2倍もあり、季節はずれの積雪がありました。そこに、強い寒気を伴う低気圧が通過し、山頂付近では8日昼から夜に雪が降り、9日は気温が上がって雨が降るなど大荒れの天気となりました(図2)。

図2 平成18年(2006年)4月8日9時の地上天気図
図2 平成18年(2006年)4月8日9時の地上天気図

 最近の山岳遭難で多いのは、軽装備で登山や、中高年の登山です。このときもそうでした。

北ア遭難 「引き返していれば…」 吹雪、あえて入山 目立つ中高年、軽装備

 長野県の北アルプスで相次いだ遭難は、雪崩や悪天候が登山者を襲った。山スキーを楽しみにしていた6人が犠牲となった。中高年や初心者が多く、変わりやすい天候への備えも十分とは言えなかった。例年にない大雪で山の危険が指摘されており、かろうじて助かった人たちは「引き返していれば…」と判断の甘さを悔やんだ。

…途中で、下りる沢を間違える。メンバーは中高年で初心者もおり、引き返すことを決める。戻ろうとしたとき、雪崩でスキーや装備の一部を失った。引き返しにも手間取り、日没を迎えた。

…気温は氷点下に下がったが、ビバーク用の装備や暖を取る道具もなかった。

出典:読売新聞(平成18年4月10日夕刊)

図1、図2の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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