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台風進路予報精度は向上しているが、国際比較では遅れ

饒村曜気象予報士
雲の渦巻き 台風のイメージ(提供:アフロ)

平成29年の台風進路予報の精度

 平年の台風発生数が25.6個、上陸数が2.7個ですが、平成29年(2017年)は、台風の発生が12月22日現在で27個、台風の上陸が4個と、ともに平年より多くなっています(表)。

表 平成29年の上陸台風と月別台風発生数
表 平成29年の上陸台風と月別台風発生数

 気象庁では、平成29年(2017年)12月21日に平成29年(2017年)に発生した台風に対する台風進路予報についての検証結果の速報を発表しました。

 これによると、1日先の進路予報誤差は82キロメートル、2日先は152キロメートル、3日先は248キロメートル、4日先は339キロメートル、5日先は432キロメートルとなっています。

 ただ、この検証は、台風25号までのもので、現在、フィリピンに大雨をもたらしている台風27号と、1週間前にフィリピンに大雨をもたらした台風26号の台風進路予報は含まれていません。平成29年(2017年)の台風進路予報の検証結果の確定値は、平成30年(2018年)になってからの公表ですが、低緯度を西へ進む台風は、進路が安定しているため予報誤差が小さい傾向があることから、確定値は速報より誤差が若干小さくなると思われます。

台風進路予報の年々の精度向上

 台風の進路予報の精度は、その年の台風の特徴によって変動しますが、長期的に見れば、年々向上し、予報誤差は小さくなっています(図1)。

図1 台風進路予報誤差の経年変化(平成29年12月21日現在)
図1 台風進路予報誤差の経年変化(平成29年12月21日現在)

 これは、台風の予報技術の進歩が続いているからで、予報円表示が始まった昭和57年(1982年)頃には、24時間予報の平均誤差が200キロメートル以上ありましたが、現在は100キロメートル以下に半減しています。

 このような予報技術の進歩によって長期間の予報が実用的となり、昭和62年(1987年)からは48時間先まで、平成9年(1997年)からは72時間先(3日先)までの予報が始まっています。さらに、平成21年(2009年)からは4日先と5日先までの予報が始まっています。

 そして、これらは、長い期間の予報ほど精度向上が著しく、21世紀が始まった頃の3日先の台風予報の平均誤差は約400キロメートルでしたが、近年は4日先でも、400キロメートルを下回っています。

台風進路予報の国際比較

 気象庁では、平成29年7月20日に開催された、数値予報モデル開発懇談会において、台風進路予報の国際比較を示しています。

 それによると、気象庁(JMA)は、平成8年(1996年)以降、平成12年(2000年)すぎまでは世界トップクラスの精度を維持していましたが、最近は主要な数値予報センターであるヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)、イギリス(UKMO)、アメリカ(NCEP)にやや水をあけられていることが示されています(図2)。この主な原因の一つとして、気象庁の開発要員数が少ないことがあげられています。

図2 台風の72時間進路予報誤差の国際比較(非共通サンプルWGNE Intercomparison of Tropical Cyclone Track Forecasts Using Operational Global Models より各数値予報モデルの結果を収集し、気象庁で追跡と検証を実施)
図2 台風の72時間進路予報誤差の国際比較(非共通サンプルWGNE Intercomparison of Tropical Cyclone Track Forecasts Using Operational Global Models より各数値予報モデルの結果を収集し、気象庁で追跡と検証を実施)

 平成29年7月20日の数値予報モデル開発懇談会では、主要な数値予報センターに追いつくため、現在のスーパーコンピュータの約10倍の能力があるスーパーコンピュータを平成30年(2018年)6月に導入することが示されています。

 さらに、主要な数値予報センターで先行導入済み技術を導入すること、新たな知見・技術の導入に向けて大学等研究機関と気象庁の連携を深めることなどが示されています。

 20年位前にも、気象庁の数値予報技術が主要な数値予報センターにやや水をあけられたことがあり、気象庁では、気象庁モデル技術開発推進本部を作って全庁的な体制を強化し、短期間で追いついたことがあります。

 気象庁モデル技術開発推進本部の事務局(企画課技術開発調整官)をやった経験から、今回も、状況の分析と問題解決方法の見通しがあるので、短期間で追いつき、追い越せができるのではないかと思っています。

表の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。

図1、図2の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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