Yahoo!ニュース

台風21号が北上中 週明けに上陸すれば歴代3位の遅さ

饒村曜気象予報士
気象衛星「ひまわり」の赤外画像(平成29年10月19日0時)

自転車並みの速度で北上

 台風21号が発達しながら、日本に向かって北上中です(図1)。タイトル画像にあるように、日本の南海上にある台風21号の雲が丸まってきており、今後、最大風速が毎秒50メートルの非常に強い台風に発達してから接近しそうです。

 台風というと、発生数と上陸数が一番多い8月、あるいは、発生数と上陸数は8月より少し少ないものの、秋雨前線を刺激する9月を思う人が多いと思います。しかし、猛烈に発達する台風が多いのは10月です。

図1 台風21号の進路予報(平成29年10月19日3時の予報)
図1 台風21号の進路予報(平成29年10月19日3時の予報)

 台風21号の情報については、常に最新のものを入手して下さい。

 また、秋台風は、進行速度が速いイメージがありますが、これは北緯25度位に達してからの話です。10月に北北西、北、北北東に進んでいる(北に向かっている)台風の平均速度ですが、北緯30度より南の海域では平均速度が時速20キロメートル以下です。

 台風21号が北緯25度位に達するまで、しばらくは、時速15キロメートルくらいと、自転車並みの速度で北上の見込みです。

 10月22日(日)の総選挙投票日に向けて、終盤の選挙運動が行われていますが、東日本から西日本は、前線が停滞し雨や曇りの天気が続いており、台風21号の北上に伴って前線活動が活発となり、大雨の可能性があります。

 そして、総選挙投票日は、沖縄から九州が暴風警戒域に入る可能性もあります。

 台風情報に注意し、期日前投票などを活用し、棄権せずに、日本の未来を決める投票をして欲しいと思います。

 また、週明け早々、台風21号が上陸の可能性がありますので、開票速報だけでなく、台風情報に注意が必要です。

10月の上陸台風

 10月の台風は、9月の台風と違い、北上してもほとんどが日本の南岸までで、めったに上陸しません。これは、10月は台風災害が少ないということを意味しません。

 台風の発生数と上陸数は、ともに8月が一番多く、次いで9月、7月、10月の順です。

 しかし、昭和26年(1951年)のルース台風、昭和40年(1965年)の台風29号、昭和54年(1979年)の台風20号など、10月の台風で死者・行方不明者が100人を超えています(図2、表1)。

図2 10月に大きな被害を出した3つの台風経路
図2 10月に大きな被害を出した3つの台風経路
表1 10月の大きな台風被害
表1 10月の大きな台風被害

 大災害が発生した台風の数では、9月、10月、8月の順ですので、10月も7~9月と同様、台風に対して警戒が必要な月です。

 10月の台風は、8月から9月の台風と同様に、急速に発達しやすいことに加え、北緯25度を越えて北上してくると、進行速度が早くなることから、特に海難が大きくなる傾向があります。

 台風21号は週明けにも上陸の可能性がありますが、もし上陸すると、台風の統計資料が整備されている昭和26年(1951年)以降では、歴代3位になります(表2)。

表2 上陸日時が遅い台風(昭和26年(1951年)以降)
表2 上陸日時が遅い台風(昭和26年(1951年)以降)

昭和54年の台風20号による釧路港付近の海難

 昭和54年(1979年)10月12日に日本の南海上で870ヘクトパスカルという、観測史上最低気圧を観測した台風20号は、非常に強い勢力を保ちながら、10月19日9時40分頃、和歌山県白浜町付近に上陸しています。

 上陸時の中心気圧は965ヘクトパスカルでしたが、普通の965ヘクトパスカルの台風以上に、広い範囲で猛烈な風が吹き荒れています。

 首都圏では、昼頃から千葉県館山で最大瞬間風速が毎秒50.0メートル、東京で毎秒38.2メートルを記録するなど、猛烈な暴風雨となり、昼過ぎには国・私鉄、首都高速道路が全面ストップしています。地下鉄までも全面ストップとなっていますが、これは、私鉄との相互乗り入れがあり、一部区間は地上を走っているからです。

 朝方は雨がやや強かったものの風はそれほどではなく、通常通りに通勤・通学ができていたため、都心から郊外の住宅地への帰宅手段がなくなったことで大量の帰宅難民が発生しています。また、多くの人が同時に電話をかけたため、電話回線がパンクし、混乱に輪をかけました。

 夕方以降、交通機関が回復してきましたが、その影響は翌日まで残っています。

 台風20号は、時速80から95キロメートルという猛スピードで日本列島を縦断し、東北地方を通過する頃から温帯低気圧の性質を持ち、再発達をして暴風域は広がっています。

 10月19日23時頃に釧路付近に再上陸していますが、釧路港を中心に大きな海難が発生しています。

 北海道の東海上から千島列島近海ではイワシ、サバ、サンマなど秋漁の最盛期で、スケトウ漁も始まるという一年で最もにぎわう季節であったために釧路港は300隻の漁船と20隻の貨物船で満杯となり、入りきれない約20隻が港外に錨をおろすという状況でした。  

 加えて、台風の移動が早かったために、馴染みのない釧路港に緊急に入ってきた船も少なくなかったと言われています(図3)。

図3 昭和54年の台風20号による釧路港付近の海難(図中の丸数字が遭難船の場所)
図3 昭和54年の台風20号による釧路港付近の海難(図中の丸数字が遭難船の場所)

 台風20号では37隻762名が遭難し、高波等の人身事故の8名を加えた770人が生命の危機にさらされています。海上保安庁等は遭難船からヘリコプターで乗員をつり上げるなどして自力等で難を逃れることができなかった128人を救助しています。

 しかし、図3の丸1の船で35人、丸2の船で23人、丸3の船で8人が亡くなっています。

 台風は夏だけのものではありません。10月の台風も危険です。

タイトル画像、図1、表2の出典:気象庁ホームページ

図2、図3、表1の出典:饒村曜(1997)、10月に大きな被害をもたらした台風、気象、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事