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総選挙と「台風の目」 12年ぶりに本物の台風の影響か

饒村曜気象予報士
気象衛星「ひまわり」赤外画像(2017年10月17日3時00分)

本来の意味ではない「台風の目」

 「台風の目(眼)」あるいは「台風」という言葉は、本来の意味の他に、「社会に多大な影響をあたえるもの(人)」という意味でも広く使われています。

 選挙などでは、「この選挙区では○○候補が台風の目だ」ということが、よく言われます。

 昭和55年頃(1980年頃)だと思いますが、ある新聞社を見学した時に、新聞記事のデータベースの話で、「台風というキーワードで記事を選ぼうとすると、台風そのものの記事のみでなく、選挙の記事まで選んで使いにくいので改良を考えている」という説明がありました。

 選挙を台風で例えることが何時から一般的になったのかよく分かりませんが、昭和時代末期の総選挙では、盛んに「台風の目」という言葉が使われていました。

 最近の総選挙でも、「台風の目」という言葉は使われていますが、「風が吹いている」という言葉の方は多く使われている印象があります。

 いずれにしても、台風という言葉が、本来の意味以外に色々と使われているということは、台風が国民生活に非常に大きな影響を与え、あるいは、馴染みの深い現象の反映といえると思います。

台風21号と総選挙

 フィリピン東海上で、10月16日に台風21号が発生しました。

 台風21号は、今後、発達しながら北上する見込みで、10月21日(土)には日本の南海上に達する予報です(図1)。

図1 台風21号の進路予報(平成29年10月17日3時の予報)
図1 台風21号の進路予報(平成29年10月17日3時の予報)

 台風21号の情報については、常に最新のものを入手して下さい。

 まだ、予報円が大きく、どこに向かうのははっきりしていませんが、台風が目をもつまで発達するのは確実です。また、日本付近には前線が停滞しています(図2)。台風がどこに向かうにせよ、前線を刺激して大雨をもたらす可能性があります。

図2 予想天気図(平成29年10月18日9時の予想天気図)
図2 予想天気図(平成29年10月18日9時の予想天気図)

 平成29年(2017年)の第48回総選挙は、選挙運動期間中から投票日まで、平成17年(2005年)の第44回総選挙以来、12年ぶりに本物の「台風の目」に影響される総選挙になりそうです。 

平成17年(2005年)の総選挙

 平成17年(2005年)の第44回総選挙は、9月11日が投票日でした。

 選挙期間中の9月6日に台風14号が沖縄近海を通って長崎県に上陸し、日本海を北東進しています。また、投票日前日の9月10日には台風15号が南西諸島南部を通って東シナ海を北西進しています(図3)。

図3 地上天気図(平成17年9月6日9時と10日9時の地上天気図)
図3 地上天気図(平成17年9月6日9時と10日9時の地上天気図)

 当時の新聞には、候補者を台風の目に例えた記事の他、台風の目そのものの記事も掲載されています。

広い選挙区をくまなく回って、身近な所を大切にする候補であることを訴え、台風の目になって風を吹かす、という。(9月4日の毎日新聞)

◇3区 …ただ、無党派層でまだ4割程度の支持にとどまっている。台風の目とみられた○○は勢いがみられず…。(9月4日の朝日新聞)

通過後も、台風の目の後方からの吹き返しが強いと予想されているため、同気象台は「九州北部や熊本県で強風が吹く恐れがある」と警戒を呼びかけている。(9月7日の毎日新聞)

福岡管区気象台は「九州山地が大きな「ついたて」となり、風が弱まった」と話す。同気象台によると、台風14号は台風の目が大きく、九州を横断的にすっぽり包むくらいの大きさだったという。(9月8日の朝日新聞)

大型台風14号が各地に被害をばらまきながら北へ進んでいる。これを追うように、プロ野球界の「星野台風」がただいま迷走中だ。リーグ優勝は「阪神か中日か」で大詰めだというのに、ファンはこの薄ぼんやりした台風の目にくぎ付けになる。(9月8日の産経新聞)

10月の台風は発達する

 台風というと、発生数と上陸数が一番多い8月、あるいは、発生数と上陸数は8月より少し少ないものの、秋雨前線を刺激する9月を思う人が多いと思います。

 しかし、猛烈に発達する台風が多いのは10月です。

 中心気圧が900ヘクトパスカル未満になるような、猛烈に発達する台風は、気象庁が台風の統計をとりはじめた昭和26年(1951年)以降、36個発生していますが、その3分の1は10月の発生です(図4)。

図4 中心気圧が900hPa未満となった台風(台風発生月別)
図4 中心気圧が900hPa未満となった台風(台風発生月別)

 台風中心気圧の記録である870ヘクトパスカルは、昭和54年(1979年)の台風20号によって観測していますが、この20号も10月の台風です。

 中心気圧が900ヘクトパスカル未満になるような、猛烈に発達する台風は、近年減少していますが、これは、昭和62年(1987年)10月1日より(アメリカの1988会計年度より)、費用がかかって危険な飛行機による台風観測が廃止となったことが影響しています(表)。

表 年代別の中心気圧が900hPa未満となった台風数
表 年代別の中心気圧が900hPa未満となった台風数

 台風による飛行機観測がなくなったことから、台風の中心気圧は、気象衛星の観測をもとに統計的手法で求めているため、極端に低い中心気圧がでにくくなったからです。とはいえ、10月が多いという傾向は続いています。

 10月になると、日本近海の海面水温が低くなっていますので、北上とともに衰弱傾向がありますが、衰弱したとしても、けた違いの風と雨で大きな被害をもたらすことがありますので、台風に対する警戒が8月、9月と同様に必要です。

 日本の今後を左右する総選挙に影響を与えるかもしれない台風21号が接近中です。

 自治体では、普段なら防災に携わっている人が、選挙事務に動員されているために、手薄になっている可能性があると思います。

 最悪、前線を刺激して大雨が降り続いて地盤が緩んでいるところに台風が直撃し、大災害が発生する可能性もありますので、台風情報に注意し、早めに十分な警戒が必要です。

タイトル画像、図1、図2、図3の出典:気象庁ホームページ。

図4、表の出典:気象庁ホームページ等をもとに著者作成。 

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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