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福岡・大分・島根で発表された「特別警報」 は平成24年の九州北部豪雨等がきっかけで誕生

饒村曜気象予報士
気象衛星赤外画像(平成29年7月5日21時)

7月5日から6日にかけ、梅雨前線に湿った空気が流れ込んだ影響で大雨となり、西日本各地で大きな被害が発生しています(図1)。

図1 地上天気図(平成29年7月5日21時)
図1 地上天気図(平成29年7月5日21時)

福岡・大分・島根の各県に対し、気象庁では雨に関する特別警報を発表しました。

大雨特別警報などの注警報には、今年の出水期から具体的なタイムスケジュールがついています(図2)。

図2 大分市の大雨特別警報(平成29年7月5日22時58分)
図2 大分市の大雨特別警報(平成29年7月5日22時58分)

命を守る行動をとるための特別警報は、5年前の九州北部豪雨等が切っ掛けとなって創設されたもので(平成25年8月30日開始)、これまでの警報より強く警戒を迫るもののです。

特別警報は4種類

特別警報は、これまでの警報より強く警戒を迫るもので、従来は警戒が発表されていても迅速な避難行動とならなかったものを、確実な避難行動に移してもらうのが狙いで作られました。

今まで、警報が発表されるときは、重大な災害がおきるときでしたが、特別警報が発表されるときは、警報の中でも特に危険な状態が迫っている時です。

特別警報には、津波に関する特別警報、火山に関する特別警報、地震動に関する特別警報、気象等に関する特別警報の4種類があります(表1)。

表1 気象等に関する特別警報以外の特別警報
表1 気象等に関する特別警報以外の特別警報

特別警報のうち、気象等の特別警報が対象とする現象は、複数の府県にまたがる広い範囲で、甚大な災害が同時多発的に発生する現象で、都市機能の麻痺や、多くの集落が孤立し、復旧に長時間を要する現象です。

そして、気象等に関する特別警報には、大雨、暴風、高潮、波浪、暴風雪、大雪の特別警報がありますが、洪水特別警報はありません(表2)。洪水については、指定河川洪水予報などで警戒が呼びかけられるからです。

表2 気象等に関する特別警報
表2 気象等に関する特別警報

今回、福岡県等に発表されている大雨特別警報は、「台風や集中豪雨により数十年に一度の降雨量となる大雨が予想される場合の雨を要因とする指標」を超えたための発表です。

特別警報のきっかけ

平成23年3月11日の東日本大震災では、気象庁は大津波警報などを発表しましたが、必ずしも住民の迅速な避難に繋がらなかった例がありました。

また、同年の台風12号では、台風が大型で、動きが遅かったため、台風周辺の非常に湿った空気が同じ場所に長時間流れ込み、西日本から北日本にかけて、山沿いを中心に広い範囲で記録的な大雨となり、土砂災害、浸水、河川のはん濫等によって、和歌山県、奈良県、三重県を中心に100人近い死者・行方不明者がでるという大きな被害が発生しました。気象庁は警報によって重大な災害への警戒をよびかけたものの、災害発生の危険性がいちじるしく高いことを有効に伝える手段がなく、関係市町村長による適時的確な避難勧告・指示の発令や、住民自らの迅速な避難行動に必ずしも結びつきませんでした。

さらに、平成24年(2012年)7月11日から14日は、本州付近の梅雨前線に向かって南から非常に湿った空気が流れ込んだため、九州北部を中心に大雨となっています。熊本県阿蘇市阿蘇乙姫では、1時間に80 mm 以上という猛烈な雨が4時間続き、2日間で平年の7月の降水量を超えるなど、記録的な雨が降りました。河川のはん濫による浸水害や土砂災害が多発し、熊本県、大分県、福岡県で死者・行方不明者31名の被害があり、気象庁は九州北部豪雨と命名しました。

気象庁では、大雨・洪水警報や土砂災害警戒情報等で警戒をよびかけ、さらに重大な災害が差し迫っている場合に一層の警戒をよびかけるため、本文を記述せず、見出し文のみの短文で伝える気象情報の発表を初めておこないました。しかし、そこで使われた「これまでに経験したことがない」という言葉が、ニュース等で大きく取り上げられたものの、緊急事態にあるという危機感が地域住民に素早く伝わりませんでした。

これらが切っ掛けとなって創設されたものが特別警報で、開始されたのは平成25年8月30日です。

特別警報が発表となったら命をまもる行動を

特別警報が発表されたときの基本行動は「緊急的な行動」です。

市町村は、ただちに最善を尽くして身を守るよう住民によびかけをおこない、特別警報が発表され非常に危険な状況であることを住民に周知します。

住民も、避難所に避難するか、外出することが危険な場合は家の中で安全な場所にとどまるかなど、ただちに命を守る行動をとります。

特別警報が発表される時には、避難が終わっているという前提があります。

これは、遅くとも、警報の発表段階で自治体の指示に従い避難する、あるいは、指示がなくとも自主判断で避難するという考えです(表3)。つまり、特別警報が発表された時に、避難が終わっていない場合は逃げ遅れとなります。

表3 避難指示と避難勧告 
表3 避難指示と避難勧告 

「避難行動」とは、決められた避難所に必ず行くことと考えている人が多いのですが、「避難」とは、命を守るための避難であり、「少しでも安全な場所」へ移動するということです。

例えば、夜中の豪雨で家の外に出るのが危険になった場合、家の中で一番安全な場所(例えば、崖と反対側にある二階の部屋)を探してそこに移動するという考えかたです。

避難途中で災害に巻き込まれるという事態は、絶対に避けなければなりません。

図の出典:気象庁ホームページ

表の出典:饒村曜(2015)、特別警報と自然災害がわかる本、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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