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ミサイル等の有事関連情報を伝える全国瞬時警報システム・Jアラートは、特別警報等の気象関連情報も伝える

饒村曜気象予報士
避難警報用のスピーカー(ペイレスイメージズ/アフロ)

北朝鮮のミサイル開発関連で全国瞬時警報システム(通称は「Jアラート」)が注目されています。

Jアラートは、内閣官房が発表する弾道ミサイル情報などの有事関連情報だけでなく、気象庁が発表する特別警報などの気象関連情報も伝達するシステムです。

緊急情報を住民に瞬時に

全国瞬時警報システムは、通信衛星と市町村の同報系防災行政無線通信や有線放送電話を直結し、緊急情報を住民へ瞬時に伝達するシステムのことです。

総務省消防庁が平成16年度(2004年度)から開発および整備を進めてきたもので、一部の地方公共団体で運用が開始されたのは平成19年です。

対処に時間的余裕がない大規模な自然災害や弾道ミサイル攻撃、国民の保護のために必要な情報を、通信衛星を利用して、「国から住民まで直接瞬時に」伝達することができるというのが最大の特徴です。

Jアラートで伝達される情報には、内閣官房が作成する弾道ミサイル情報などの有事関連情報と、気象庁が作成する特別警報など気象関連情報があります(表)。

そして、原則として市町村等が設置した同報無線等の装置を自動起動するもの、市町村が自動起動するかどうか設定できるもの、自動起動しないもの の3種類があります。

どれも重要な情報ですが、自動起動する情報のほうが、より重要な情報です。

表 Jアラートで伝達される情報
表 Jアラートで伝達される情報

Jアラートでの情報の伝達

Jアラートによる情報伝達は、図1のように、内閣官房と気象庁から消防庁送信システムに入り、人工衛星を通じて市町村のJアラート受信機に送られます。

図1 Jアラートによる情報の伝達
図1 Jアラートによる情報の伝達

そして、衛星回線のバックアップ用として、インターネット(地上回線)があり、確実に自動機動装置を作動させ、防災行政無線やケーブルテレビ、コミュニティFMなどに送られ、放送されます。

また、登録が必要ですが、登録者には緊急速報メールが届きます。

Jアラートを「有事関連情報を伝達するもの」と考えている人が多いのですが、気象庁が発表する特別警報等の気象関連情報も伝達されるのです。

Jアラートがスタートした頃、福井や和歌山で地方気象台長をしていましたが、個人的には、気象関連情報が10年に1回くらい放送されることはあっても、有事関連情報が放送されることはまずないだろうと考えていました。

しかし、その後、特別警報に相当する自然災害が多くなり、有事関連情報も現実味を帯びてきました。10年たったら様変わりです。

しかし、逆に言えば、10年も前に現在起きていることのに対する危機対応を考え、実行していた人がいたことになります。頭が下がります。

気象庁から消防庁への特別警報の伝達

気象庁では、平成25年8月30日から特別警報を発表しています。

これは、次の3つの大災害がきっかけとなっています。

平成23年3月11日の東日本大震災では、気象庁は大津波警報などを発表しましたが、必ずしも住民の迅速な避難に繋がりませんでした。

平成23年9月3日に高知県に上陸した台風12号では、気象庁は警報によって重大な災害への警戒を呼びかけたものの、災害発生の危険性が著しく高いことを有効に伝える手段がなく、関係市町村による適時的確な避難勧告・避難指示の発令や、住民自らの迅速な避難活動に必ずしも結びつきませんでした。

平成24年7月の九州北部豪雨では、大雨・洪水警報や土砂災害警戒情報等で警戒を呼びかけ、このとき使われた「これまでに経験したことがない」という言葉が、ニュース等で大きく取り上げられたものの、緊急事態にあるという危機感が地域住民に素早く伝わりませんでした。

このため、災害に対する気象庁の危機感を伝えるため、特別警報が創設されました。

警報が発表されるときは、重大な災害が予想されるときでしたが、特別警報は、警報の中でも重大な災害がおこるおそれが著しく大きい場合に発表されます。

そして、特別警報の発表に際し、気象庁から消防庁への伝達ルートが新たに加わりました(図2)。これは、Jアラートの整備が進み、Jアラートというルートでの特別警報伝達が可能になったからです。

図2 特別警報の伝達の流れ
図2 特別警報の伝達の流れ

Jアラートを聞いたら

Jアラートで伝達される情報は、命に直接かかわる情報です。

この情報を聞いたときは、「命を守るための行動」をただちに実行する必要があります。

総務省では、弾道ミサイルが日本の領土・領海に落下する可能性があると判断した場合には、「屋内避難」を呼びかけるので、屋外にいる場合には、直ちに近くの建物等への避難を呼びかけています

気象関連情報は、ほとんどが特別警報が発表されたときのものです。

特別警報には、気象等に関するもの、津波に関するもの、火山に関するもの、地震(地震動)に関するものの4種類があり、いろいろなルートを通じて伝達されます。そして、Jアラートでも伝達されます。

気象庁では、特別警報が発表された時の対応にについて、「ただちに地元市町村の避難情報に従うなど、適切な行動をとってください」と呼びかけています

そして、次のように補足しています。

◎すべての現象に共通すること

お住まいの地域は、これまでに経験したことのないような、重大な危険が差し迫った異常な状況にあります。

この数十年間災害の経験が無い地域でも、重大な災害の起こるおそれが著しく高まっていますので、油断しないでください。

◎気象の場合

重大な災害が既に発生していてもおかしくない状況です。周囲の状況に注意し、ただちに地元市町村の避難情報に従うなど、適切な行動をとってください。

◎津波の場合

ただちに高台や避難ビルなど安全な場所へ避難してください。

◎火山噴火の場合

警戒が必要な範囲からの避難や避難の準備をしてください。

◎地震(地震動)の場合

震度6弱以上の緊急地震速報を特別警報に位置づけます。周囲の状況に応じて、あわてずに、まず身の安全を確保してください。

図表の出典:饒村曜(2015)、特別警報と自然災害がわかる本、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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