関西国際空港の開港で設置された初めてのドップラーレーダーが更新
近年、気象庁のレーダーは、降水粒子の移動方向や速度までも観測することができるドップラーレーダーになっています。これは、物体へ同じ波長の電波が発射しても、近づいてくる場合の反射電波は波長が短く、遠ざかる場合の反射電波は波長が長くなるというドップラー効果を用いて、物体が近づいてくる、あるいは、遠ざかる速度をも求めることができるレーダーです。
少し前まで、ドップラーレーダーの探知範囲は通常であれば100キロメートル程度しかないという問題があり、全国をカバーするには数百台が必要と、事実上不可能でした。
このため、ドップラーレーダーが最初に使われたのは、広い範囲の観測を必要としない空港からです。
まず空港にドップラーレーダー
航空機の離発着に大きな影響を及ぼす空港周辺の地上から高度数100メートルの間で発生する風向や風速が急激に変化している場所を観測できますので、ドップラーレーダーは航空機の安全運行に大きく寄与します。
また、発達した積乱雲から発生する冷えて重くなった空気による強い下降気流であるダウンバーストは、離発着の航空機にとって非常に危険な風です。地面付近にある飛行機がダウンバーストに遭遇すると、地面にたたきつけられて大事故となるからです。
また、発達した積乱雲に伴って発生する激しい渦巻きである竜巻も、上昇気流といっても飛行機が巻き込まれると大きなダメージを受けて大事故となります。
ドップラーレーダーはダウンバーストや竜巻が直接映るものではありませんが、ダウンバーストや竜巻を発生させる可能性が高い雲(回転する雲)をとらえることができます。
平成6年に開港した関西西国際空港には、日本ではじめて、航空用の気象ドップラーレーダーが設置されたのは、このような理由からです。
以後、羽田空港や成田空港などにも設置され、全国の9空港にドップラーレーダーが設置されています。
新しいドップラーレーダー
初めて導入された関西空港のドップラーレーダーですが、3月3日に最新鋭レーダーに更新されます。一週間後の10日には東京国際空港(羽田空港)も最新鋭レーダーとなります。
この最新鋭レーダーは、これまで360度の観測に30秒かかっていたところが15秒に短縮となりますが、それ以上に大きな改善は、これまで水平方向の電波に加え、垂直方向の電波でも観測するようになったことです。
二重偏波ドップラーレーダーと呼ばれるもので、横と縦の波で雲の中にある雨や雪、ひょうなどの粒の形までわかります。粒の形によって反射してくる電波の強さと、実際に地上に降る雨の強さとの関係がかわりますが、これまでは、形がわからないので、統計的な平均値を用いて推定していました。
二重偏波ドップラーレーダーは、粒の形がわかりますので、雨や雪の強さをより正確に観測することが可能なレーダーなのです。
ドップラーレーダーの欠点である狭い探知範囲を克服する技術
どんなにレ-ダ-が進歩しても、その有効範囲は地球の曲率のために限度があります。つまり,遠くにある背の低い雲は,図1のように地平線の下にかくれて探知できないからです。高い山にレーダーを設置すれば、探知範囲が広がりますが限度があります。このため、1台のレ-ダ-が観測できる範囲は200~400キロメートル位ですので、日本全国をカバーするには20台位のレーダーが必要です(図2)。
ドップラーレーダーの探知範囲が100キロメートル以下と通常のレーダーの4分の1であれば、単純に計算して16倍の320台のレーダーが必要となり、事実上不可能でした。
このため、気象庁では10年近い歳月をかけ、気象研究所でデータ処理の技術開発を行い、遠くにある雨雲からの反射電波を処理することが可能となり、探知範囲が400キロメートル程度まで伸ばしています。
このため、空港にあるレーダーだけでなく、平成17年度からは、既存のレーダー観測所のレーダーを順次ドップラーレーダーへ取り替えています。そして、平成25年3月14日からは全国20ヶ所のレーダーが全てドップラーレーダーとなっています。
今後、ドップラーレーダーのように、二重偏波ドップラーレーダーが空港設置だけでなく、日本全国をカバーし、適切な防災情報の発表する時代になると期待されています。
図の出典:饒村曜(2000)、気象のしくみ、日本実業出版社。