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コロナ、大雪、地震のトリプル複合災害に備えろ

中澤幸介危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長
2011年3月12日に発生した地震被害を伝える「長野県北部地震栄村震災記録集」

緊急事態宣言に大寒波。今もし、ここに地震が加われば、トリプル災害の悲劇に見舞われることになる。

冬期に地震が起きないなどということは決してない。過去に発生した大地震として、東日本大震災の翌日(12日未明)に長野県北部を震源として発生した直下型地震を振り返ってみたい。平年以上の積雪に覆われる山間地を、マグニチュード6.7、最大震度6強の揺れが襲った。

国道や県道は被災し、いくつかの集落が孤立。地震の揺れに伴う直接的な犠牲者こそ出なかったが、負傷者は50人近くに上り、避難生活中に災害関連死が3人出た。雪崩やブロック状積雪の崩落なども発生したことが後の調査で明らかになっている。

最も被害が大きかった長野県下水内郡栄村の「栄村震災記録集」は当時の被災状況を生々しく伝える。

http://www.vill.sakae.nagano.jp/fs/3/7/3/5/_/document.pdf

総人口1800人、世帯数820戸の村で、住宅全壊33棟、大規模半壊21棟 半壊148棟、加えてライフラインが長期にわたり止まる状況に陥った――。

今、大地震が発生したらどう対応すればいいのか。

内閣府と消防庁では、昨年12月17日に「冬期における避難所の新型コロナウイルス感染症等への対応について」http://www.bousai.go.jp/pdf/1217_korona.pdfという文章を都道府県など自治体に通達している。主な内容は下記の通り。

①換気を前提とした避難所の設備・備蓄等の確保

②避難所外避難者を含めた被災者の支援

③ホテル・旅館等の活用を含めた可能な限り多くの避難所の確保

④関係部局における新型コロナウイルス感染症に関する情報の共有

①においては、暖房具を使用しながらでも、気候上可能な限り、常時換気(難しい場合には 30 分に 1 回以上、数分間程度、窓を全開にすることによる換気)を行うことを求めるとともに、換気により室温を保つことが困難な場面が生じることから、室温低下による健康被害が生じないよう、避難者等に温かい服装を心がけるよう周知することを盛り込んでいる。また、避難所における暖房や保湿等に必要な設備や、毛布、防寒着等の防寒対策に係る備品等について、平時からの確保に努めることも掲げた。

②については、避難所外避難者に対しても、物資の提供や安否確認等の支援が適切に行われるよう、対応を検討しておくことが重要としている。また、車中泊による避難について、特に冬期においては車内の温度や湿度、換気の管理が困難であることなどから、可能な限り避ける必要があるとしている。やむを得ず車中泊している避難者に対しては、防寒対策に十分注意するよう注意喚起すること、夜間等の就寝時にエンジン、エアコンをつけたままにすることは一酸化炭素中毒となる危険性があることについて、十分周知することを求めている。

③については、豪雨対策と同様、通常の避難所の確保とともに、ホテル・旅館をはじめとする民間施設や国の研修所等を発災時に円滑に避難所として活用できるよう協定など準備をしておくことを挙げている。

最後➃は、都道府県及び市町村の防災担当部局らとの情報共有である。

ただし、この通達では、大雪までは考慮されていない。数メートルの豪雪の中、はたして避難所を開設できるのか? 山間地ではホテルなどもない。こうした状況をどう乗り切るのかを今から考えておく必要がある。

まずは自助。雪下ろしで大変な状況だろうが、地震が来るかもしれないという危機感を持ち、少しでも被害を軽減できるよう、再度、家具類の固定をしっかり行い、備蓄も多めに確保しておく。栄村では地震の後に家のドアが開かなかったという報告も見られた。雪の重さに加え、地震で家がゆがみドアが開かなくなる。可能なら、窓からの脱出についても考えておいた方がいい。雪下ろしの重要性はここで改めて言うまでもないが、豪雪災害の死亡原因で最も多いのは雪下ろしと落雪であることから十分気を付けて実施する必要がある。

共助は、真冬の災害では最も重要かもしれない。道路の積雪や被災もあることから、消防がかけつけるまでにはかなりの時間がかかるはずだ。2014年11月に長野県白馬村を震源に発生した長野県神城断層地震では、消防がかけつけるまでの間に隣近所が助け合い、一人の死者も出さなかったことから「白馬の奇跡」とも呼ばれたが、集落内の連絡体制などを今一度見直してほしい。

最後に公助。新型コロナの対応や除雪でただでさえ大変な状況であろうが、今できることは、少しでも災害発生時に大変な状況にならないよう、あらかじめ住民に防災を呼び掛けておくことではないか。いつ災害がおきてもおかしくないことを伝え、除雪だけでなく、家具類の転倒防止や備蓄などをしっかり見直してもらうことが大切だ。それでも地震が発生した際には、消防団などと連携し、いかに住民を安全に避難させるかを考えておく。これ以上の災害など考えたくもないだろうが、災害が起きてからでは遅い。思考停止に陥らず、どう対応するかだけでも話し合うことから始めてほしい。

危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長

平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。数多くのBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務アドバイザー、平成26年度~28年度地区防災計画アドバイザー、平成29年熊本地震への対応に係る検証アドバイザー。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」「LIFE~命を守る教科書」等がある。

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