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能登半島地震―急激に高まるホテル需要。避難生活者の受け入れの可能性は?

中澤幸介危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長
高岡駅前のホテルロビーに掲示された被災支援者へのメッセージ(筆者撮影)

「1月1日の地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、災害支援のため、全国からお集まりいただいている皆様、誠にありがとうございます。朝早くから夜遅くまで、お疲れ様でございます。当館で少しでもお身体をお安めくださいませ」

1月6日、富山県高岡駅前のホテルは大きな荷物を持った人や作業服を着た人が受付で列を作っていた。ロビーには、被災者や支援者へのメッセージが掲示されている。

「普段なら落ち着いている時期」とフロント係の女性はこぼす。令和6年能登半島地震では震度5強を観測し、多くの家屋が被害を受けたが、比較的新しいホテルは被害を免れた。しかし、地震の直後はそれまでの予約が相次いでキャンセルになったという。ところが、がっかりする暇もなく、今度はそれをはるかに上回る申し込みの波が押し寄せた。宿泊客の多くは、東京や大阪、近県からのメディアや医療関係者、専門家、電力・ガス・水道といったインフラ業者、配送業者など、能登半島地震に関する仕事の関係者だ

高岡駅前のホテルフロント(筆者撮影)
高岡駅前のホテルフロント(筆者撮影)

地震で大きな被害を受けた石川県七尾市までは車で1時間強。高岡インターチェンジから氷見を通って七尾に抜ける能越自動車道は、地震直後は通行止めだったが、5日から時速50キロメートル制限という条件付きで解除された。高岡に活動拠点を設ければ毎日、奥能登までも往復が可能になる。宿泊者の多くが長期滞在者で、かつ一定数のまとまった数の予約が多いという。

こうした現象は金沢市内でも起きているようだ。高岡駅前のホテルに宿泊するキー局のスタッフは、金沢市も含め宿泊地の確保が困難だったと明かす。本格的な復旧が始まれば、ここに保険や建設業者、住宅の危険度を判定する応急危険度判定士らも加わり、空き部屋の争奪戦が起きることが予想される。

被災者受け入れをどうする?

一方、珠洲市で被災し、避難生活を続ける上村さん(仮名)は、「市外に避難した人も、市内に留まっている人も、特に被害が強かった珠洲市・輪島市・能登町・穴水町の避難者を一時的にでも被災地外に出した方がいいと強く感じるようになってきています。避難対象者が5万人いると見られるのですが、受け入れ施設が相当程度足りていません。一時的でも受け入れていただけるホテルや旅館を探しています。北陸三県のホテルや旅館などで受け入れてもらえるよう、何らかの形で訴えたい」と話す。

被災地内にあるホテルは――。奥能登はもともとビジネスホテルが少ない地域だが、観光地として知られる七尾市の和倉温泉では、20ほどある旅館やホテルが被害を受け、すべて休業をしている状態だ。壁が崩れ落ち、ガラスは割れ落ち、道路は液状化などの現象でタイルが捲れあがっているところも散見される。復旧には少なくとも数か月がかかると見られる。

被災した和倉温泉のホテル(1月6日、筆者撮影)
被災した和倉温泉のホテル(1月6日、筆者撮影)

能登地方の大きな被害がないビジネスホテルの多くも、新規予約は受け付けていない状況。避難者の一時受け入れ先としても期待されるホテルだが、現時点で被災者を受け入れているホテルは、和倉温泉にある旅館など、一部にとどまる。復旧が優先で避難者への空き部屋の提供には手が回りそうもない。かつ、被害を受けていないホテルは既にメディアや復旧業者の対応に追われ、「空き」が出てくるには相当の時間を要する。

広域避難や他県のホテル活用も

解決策として考えられるのは、広域避難や他県のホテルを活用する方法だ。広域避難とは、一市町村の中で住民の避難を完結することが困難となるような広域的な災害が発生した際、他の市町村等へ行政界を越えた避難をすること。東日本大震災以降、内閣府を中心に検討が進められ、首都圏における大規模水害時などの切り札ともされている。同一都道府県内での広域避難と、都道府県の区域を越える場合があり、それぞれ災害対策基本法において、市町村間の連携方法などが規定されている。いずれの方法でも重要になるのは市町村、あるいは都道府県間の連携である。

東京都の小池知事が1月5日に、住宅が損壊するなどした世帯を対象に都営住宅への入居を受け入れると発表した。賃料や敷金、駐車料を免除して1年間住めるようにするという。当面は100戸程度の提供とし、需要に応じて拡充も検討するようだ。

これを機に全国で避難者の受け入れなどを検討することはできないか――。被災地には他県から広域消防援助隊を乗せた大型バスが次々と到着している。こうした大型バスを活用して被災者を外に搬送するのも手だ。今後はボランティアなどの受け入れも始まり、被災地へのバス輸送が始まることも想定される。さまざまなリソースを活用して、全国で被災地を支えていくことが大切だ。

危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長

平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。数多くのBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務アドバイザー、平成26年度~28年度地区防災計画アドバイザー、平成29年熊本地震への対応に係る検証アドバイザー。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」「LIFE~命を守る教科書」等がある。

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