リーマンショック後の「派遣切り」とBCP 被災しても企業は従業員を本当に守れるのか?

日比谷公園に年末年始の失業者支援を目的に開設された「年越し派遣村」(写真:Fujifotos/アフロ)

自然災害や大規模事故など不測の事態が発生した際でも、企業が事業を継続できるようにしておくための計画をBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)と呼ぶ。会社にとって特に重要な事業をあらかじめ選び出し、いかなる事態に陥ろうとも、その事業だけは優先的に早期に再開できるように対策を講じておくというものだ。政府も企業にBCPの策定を呼びかけ、内閣府のアンケートによれば、今では大企業の64%、中堅企業の32%がBCPを策定している。

10年前のリーマンショックでは、自動車産業や電機メーカーなどを中心とする製造業で大規模な「派遣切り」が行われた。千代田区の日比谷公園につくられた年越し派遣村が、阪神・淡路大震災や中越地震などの被災地の避難所とかぶって見えた。大企業がつくり出した被災地ー。あの光景を見て「従業員を守るためのBCP」という言葉に違和感を覚えた。「BCPは、使い方を間違えれば、派遣切りの道具になる」。企業が生き残るために主要な事業を明確にしておくということは、逆な見方をすれば、それ以外を切り捨てることにも使えるということだ。派遣社員が次々に姿を消していく中で、経営の姿勢に不安や疑問を感じた正規社員も少なくなかったはずだ。

2011年3月、東日本大震災が発生すると、中小企業でも、従業員の解雇が相次ぎ社会的な問題になった。「会社が倒産しそうになれば人員整理するのも、やむを得ないのではないか?」。厚生労働省のホームページには「震災に伴う解雇について」企業の経営者らから寄せられた相談内容が今も多数載っている。

東日本大震災に伴う労働基準法等に関するQ&A(第3版)

あの時、企業がBCPを策定していたら、はたして企業は社員を解雇しなかったのだろうか。あるいは、もっと解雇がしやすい状況になっていたのか。今となっては、それを知ることはできないが、リーマンショックや東日本大震災における企業の対応を通じて、危機に直面した時、経営の本音が表れることだけはわかった気がする。

「いかなる時も社員の命と生活を守る」などと立派な理念を掲げている企業でさえ、危機に直面すると真逆なことを平気で行ったりする。

社員は、そんな経営者の言動を冷ややかな目で見ているのだろう。だから、会社の防災活動やBCPにもなかなか協力を得られない。

避難訓練への参加も、安否確認メールへの登録も、社員にとっては、会社からの一方的な押し付けとしか、感じてもらえない。

熊本地震で自宅が被災したという、ある電機メーカーの技術者から「BCPなんて言葉だけだ」という、きつい発言を聞いた。自分が会社のBCPにとって必要な人間で、災害時でも会社にかけつけなくてはいけないことはわかっていたが、「本震後に自宅が被災する中、上司から、家族への心配の言葉もなく、すぐに会社に来てくれという電話を受け取ったとき、カッとして会社にはしばらく出社しないことを決めた」という。「家族のことも心配してくれないような会社で働き続ける必要があるのかと思った」と心境を打ち明けてくれた。

一方、先日の北海道胆振地震では、地域一体が停電する中、車のバッテリーで電源を取り、営業を再開したコンビニに称賛の声があがった。しかし、本当に称賛されるべきは、その店舗で働き続けた従業員やアルバイトだ。おそらく彼らも被災者であり、BCPなんて言葉も知らない。彼らはどんな想いで働き続けたのか、どうして働くことができたのか、ここに紙切れのBCPでは表すことができない、しかし災害時に企業が生き抜くために最も重要な要素が隠されているように思う。

どんな企業でも、災害時に従業員を強制的に働かせることなどできない。自分が働くことが自分の生活を守ることはもちろん、地域・社会全体のためにもなる。そこまで従業員が理解していなければ、立派なBCPでも絵に描いた餅になる。

だからこそ企業は、事業を守ることより先に、まずは社員を守ることを考える必要がある。社員が職場で被災しないようにする、被災時でも社員が安心して社内に留まれるように備蓄を充実させる、被災しても一定の給料は支払い続けられるように財務面の対策を講じておく。そして、会社の存在意義と、その理念を果たすためには、全従業員の存在が不可欠であることを経営者の口から従業員一人ひとりに伝える。

熊本地震で被災した再春館製薬所の西川社長は、被災して事業が止まる中、従業員やその家族にまでねぎらいの言葉をかけ「待ってくださってるお客様のために、私たちが前を向き、一緒にこの困難を乗り越えていこう」とのメッセージを送った。繰り返す余震で不安が高まる中、この言葉がどれだけ社員を勇気づけたことだろう。同社はBCPは策定していなかったが、全社員が団結していち早く営業を再開し、地域の避難生活者の支援までを行った。

再春館製薬所 震災から復旧までの記録

企業のBCPへの取り組みは進み、最近の災害では、高度でテクニカルな議論が多くなった気がする。一方で、こうした基本的な安全対策が蔑ろにされていないか心配にもなる。リーマンショックから10年。災害も多発する中、各企業はもう一度、従業員一人ひとりの命と生活を守るためにBCPを見直してみる必要があるのではないか。