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台風通過後に大きな災害が起きる 「安心」こそ最大の敵 

中澤幸介危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長
(写真:アフロ)

台風12号が通過した後こそ注意が必要だ。近年の豪雨災害は、台風通過後に起きているケースが多い。異例のコースを進んでいる台風12号だが、その通過後も、警報・注意報など気象情報に留意するとともに、天気図や雨雲レーダーを見るなど状況を正しく把握し、安全行動を継続させる必要がある。

つい先日、平成に入って最大の被害をもたらした「平成30年7月豪雨」は、台風7号の通過後に、梅雨前線の南下と、台風から変わった温帯低気圧などにより西日本の広範囲で記録的な大雨を降らせたことはまだ記憶に新しい。

死者40人以上を出した平成29年7月九州北部豪雨は、台風3号が通過後に梅雨前線が南下し大雨をもたらし、福岡県、大分県を中心に大規模な土砂災害が発生した。

さらに、鬼怒川の決壊を引き起こした平成27年関東・東北豪雨は、台風18号の通過後に台風から変わった温帯低気圧に太平洋上からの湿った暖かい空気が流れ込み、西日本から北日本にかけて広い範囲で大雨となった。

土砂災害やがけ崩れにより広島市で70人以上の死者を出した平成26年8月豪雨は、台風12号と11号という2つの台風一過に日本列島に停滞した前線がもたらした局地的な豪雨だった。

台風の直撃による被害を防いでも、その後の予期せぬ気象変化により大災害が起きているのが近年の豪雨災害の特徴だ。

気象庁が27日に開いた台風12号に関する緊急会見によれば、「通常の(台風の)西から東のコースの場合、台風通過後には、乾いた北寄りの風に変わって、大気の安定度が増すのに対し、今回の東から西のコースは、台風通過後に湿った南風が入るため、大気の不安定な状態が続き、通過後も大雨が続く恐れなどがある」という。どの程度、大気の不安定な状況が続くのか、しばらくは気象状況をしっかり注視していくことが必要だろう。

すべての災害に求められる被害拡大の防止

台風に限らず、大きな事故や災害が起きた後に、それに伴う別の災害(二次災害)によって被害が拡大することは少なくない。

例えば、地震が起きれば繰り返し余震が発生するし、土砂崩れも起きる。ため池の決壊も起こり得る。

津波なら、第1波到達後も、第2波、第3波が繰り返し襲って来る。

何が起き得るのかをあらかじめ正確に予測することは極めて難しく、それゆえ、大きな事故や災害が起きた後は、まず安全を確保した上で、周辺状況を確認し、いかに二次災害に巻き込まれないようにするかを一人ひとりが考え、行動する必要がある。

アメリカの消防では、緊急事態における行動の優先順を「LIP」という言葉で教えられるという。LIPは、Life Safety:生命の安全、Incident Stabilization:災害の安定化(被害拡大の防止)、Property Conservation:財産の保護、の頭文字をとったもの。緊急時に、生命の安全を優先するのは当然だが、命が守れたら、それ以上、被害に巻き込まれないように事故現場を安定化させ、その上で、初めて財産の保護を行う。この優先順位が守られなければ、消防士自らが命を落とすことになりかねないため、くどいほどにこの基本を徹底させているのだろう。

しかし、これは消防に限った話ではなく、すべての人に共通する危機管理の鉄則と言ってもいい。

災害時でも生活や財産を守りたくなるのは当然だ。それゆえ、二次災害の防止は見落とされやすく、一旦危機がすぎされば、すぐに普通の生活に早く戻りたがる。一度被害を免れたからといって油断するのではなく、その時こそ、LIPという言葉を思い出し、改めて周辺状況を確認し、確実な安全行動を心掛けてほしい。

危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長

平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。数多くのBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務アドバイザー、平成26年度~28年度地区防災計画アドバイザー、平成29年熊本地震への対応に係る検証アドバイザー。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」「LIFE~命を守る教科書」等がある。

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