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サウスカロライナ州共和党予備選挙:トランプ前大統領の得票率は60%を割り込み、「圧勝」とはいえない

中岡望ジャーナリスト
共和党穏健派の「希望の星」となったニッキー・ヘイリー候補(写真:ロイター/アフロ)

【目次】(字数6300字)

■露呈したトランプ前大統領の弱点/■ヘイリー候補はまだ死なず/■「トランプ支持派」と「共和党穏健派」の闘い/■共和党は「トランプの党」、「MAGAの党」になった/■無党派層が選挙結果を決める/■トランプ前大統領とバイデン大統領の支持率の差は僅差/■大統領選挙は「アメリカの民主主義」を巡る争い

■露呈したトランプ前大統領の弱点

 注目されていたサウスカロライナ州の共和党大統領予備選挙の結果が出た。開票率99%の段階でトランプ前大統領の得票数は45万1905票、得票率は59.8%であった。対抗馬候補のニッキー・ヘイリー元国連大使(元同州知事)の得票数は29万8681票、得票率は39.5%であった。

 多くのメディアは「トランプ圧勝」と報じた。だが、詳細に分析すると、とても「圧勝」とは言えない現実が明らかになる。選挙後、ヘイリー候補は「私は会計士だ。40%は50%でないことは分かっている。しかし、40%は小さなグループではない。共和党予備選挙で、他の候補者を望んでいるという多くの有権者がいる」と語っている。そして選挙活動を続けると断言した。

 同州の予備選挙でヘイリー候補が勝利することは当初から誰も予想していなかった。世論調査も圧倒的なトランプ勝利を予想していた。RealClearPoliticsによれば、選挙前の世論調査の平均得票率はトランプ前大統領が60.8%、ヘイリー候補が37.5%であった。その中でUSATodayの調査ではトランプ前大統領は63%、ヘイリー候補は35%と厳しい結果がでていた。結果は、ヘイリー候補の得票率は39.5%と、世論調査の結果を上回った。

 サウスカロライナ州は極めて保守的で、宗教的な州である。年齢的にも高齢者が多い。ヘイリー候補は同州の知事であったが、かつての盟友たちはほぼ全てトランプ支持派となっている。ヘイリー候補は共和党内の中道派や穏健派を代表する候補者であった。最初から勝ち目はなかったが、何等かのサプライズを起こすかもしれないという期待はあった。同州は「オープン・プライマリー(open primary)」で、党派に関係なく予備選挙で投票できる。反トランプの共和党穏健派に加え無党派の一部もヘイリー候補に投票すると期待されていた。穏健派、無党派、都市部の有権者、高学歴の多くはヘイリー候補に投票した。

 サプライズは起こったのか?投票結果をどう評価すれば良いのか?筆者は「小さいが確実にサプライズは起こった」と考えている。トランプ候補の59%に注目するか、ヘイリー候補の39%に注目するかで、選挙結果の解釈が変わってくる。ヘイリー候補が指摘するように40%の得票率は間違いなく「小さなサプライズ」であった。同時に大統領選挙の行方を占う重要な数字でもある。59%を強調する人は「トランプ圧勝」と分析し、39%を強調する人は、投票結果の中にトランプ前大統領の弱点を見ている。

 トランプ陣営は圧倒的な勝利を収めることでヘイリー候補に選挙運動を断念させることを狙っていた。だがトランプ前大統領は60%を下回る支持しか得ることができなかった。これは決して“圧勝”ではない。ヘイリー候補の息の根を止めることはできなかった。言い換えれば、予備選挙で勝利し、共和党大統領候補に指名されても、本選挙で共和党内の反トランプ勢力の動向を無視できない状況が明らかになったといえる。

■ヘイリー候補はまだ死なず

 CNNは選挙直後の記事で「サウスカロライナ州の敗北はヘイリー候補の選挙運動の弔いの鐘を意味するものではない」と書いている(2月24日、「Trump may have won South Carolina, but Haley could still come out on top」)。すなわち、ヘイリー候補はまだ勝利する可能性が残っていると指摘している。

 その理由は、まず選挙資金がある。ヘイリー候補が2023年第4四半期に集めた献金は2400万ドルに達しており、第3四半期の倍であった。さらに2024年1月には980万ドルの資金を集めている。他方、トランプ前大統領は依然として潤沢な資金を持っているが、訴訟費用や賠償金、金利支払いなどで巨額の資金を必要としており、今後、資金的に厳しい状況に置かれる可能性がある。他方、ヘイリー候補の大口の献金者は、サウスカロライナ州の選挙後に献金を続けると明言している。

 第2にトランプ陣営はバイデン大統領の年齢(81歳)を問題としているが、トランプ前大統領も77歳で、同様に年齢問題を抱えている。ABCの世論調査では、59%の回答者がバイデン大統領とトランプ前大統領はいずれも職務を全うするには高齢すぎると答えている。これに対してヘイリー候補は52歳と若い。年齢だけでなく、バイデン大統領とトランプ前大統領には記憶傷害の疑いがある。トランプ前大統領はヘイリー候補と民主党のナンシー・ペロシ前下院議長を混同する発言を行っている。ヘイリー候補は、大統領候補は医療チェックを受けるべきだと暗にトランプ前大統領を批判している。

 第3にスーパーチューズデーでヘイリー候補が躍進の可能性があることだ。16州で当時に選挙が行われ、そのうち11州の予備選挙ではオープン・プライアリーかセミ・オープン・プライマリーで選挙が行われる。共和党員として登録していなくても、共和党の予備選挙で投票できる。もし無党派層が大挙してヘイリー候補に投票すれば、状況が大きく変わる可能性がある。11州の代表数は874人と多く、ヘイリー候補は一気に獲得代表数を増やす可能性がある。

 世界情勢もヘイリー候補に有利に作用する可能性がある。特にロシアのアレクセル・ナバリヌイの獄死はアメリカでも深刻に受け止められているが、トランプ前大統領はロシアに対して毅然とした態度を取ることはできないでいる。ヘイリー候補はトランプ前大統領とプーチン大統領を攻撃することで支持を拡大する可能性がある。ヘイリー候補は「プーチンは私たちが関連を持ちたくない人物であり、友人にはしたくない人物である」と語っている。こうした状況を踏まえ、CNNの記事は「ヘイリーは、現在、選挙運動を止める理由はない」と指摘している。

 さらに言えば、ヘイリー候補には2028年の大統領選挙がある。中途半端な撤退は、将来の可能性を潰すことになる。今は、共和党穏健派のリーダーとしての地位を固める絶好のチャンスである。多くの有権者は若い指導者を求めている。もし共和党を「オカルト政党」から「健全な保守主義の政党」に変える新しい政治理念を打ち出すことができれば、ヘイリー候補は共和党内に確固たる政治的基盤を作り上げることができるだろう。

■「トランプ支持派」と「共和党穏健派」の闘い

 共和党のエスタブリッシュメントは「脱トランプ」を目指していた。最有力の候補者はフロリダ州のデサンティス知事であった。同知事はトランプ前大統領よりも右寄りの立場を取り、トランプ前大統領の支持基盤に食い込もうとした。だが、トランプ批判は意図的に避けていた。その試みは支持を得ることはなく、撤退を強いられた。他の挑戦者も、トランプ批判を避けた。その中で公然とトランプ批判を展開したのはヘイリー候補だけであった。彼女はデサンティス候補と逆の戦略を取った。共和党穏健派や無党派に支持を求めた。その結果、予備選挙は「トランプ前大統領」対「ヘイリー候補」の戦いではなく、「トランプ支持派」対「共和党穏健派」の闘いとなった。言い換えれば、「保守」と「リベラル」の代理戦争の意味合いを持っている。

 ヘイリー候補は共和党穏健派の“希望の星”であり、共和党穏健派は簡単にはヘイリー候補を見捨てることはない。『ワシントン・ポスト』は、サウスカロライナ州の選挙で「ヘイリーは反トランプ派のシンボルになった」と指摘している(2月24日、「Haley is now a stand-in for the anti-Trump contingent」)。

 ヘイリー候補は3月2日のアイダホ州、2月27日のミシガン州予備選挙、3月2日のミズリー州の党員集会とアイダホ州の党員集会、さらに3月5日に16州で同時に予備選挙が行われるスーパー・チューズ・デーを目指して動き始めている。16州のうち11州はオープン・プライマリーかセミ・オープン・プライマリーである。無党派が動員できれば、ヘイリー候補は健闘するだろう。ヘイリー候補がトランプ前大統領を破ることは不可能であるが、伝統的に予備選挙で穏健派の共和党の候補者を選んできたマサチューセッツ州やバーモント州でヘイリー候補がどの程度の得票率を獲得できるかが注目点である。こうした州で予想を上回る結果を出せば、予備選挙の戦いはまだ続くだろう。ヘイリー候補は軍資金が続く限り、敗北宣言はしないだろう。そうした戦いを通して、ヘイリー候補は全国的な知名度を高めていくことになる。

■共和党は「トランプの党」、「MAGAの党」になった

 トランプ前大統領はMAGA運動の狂信的な支持層を動員することで、予備選で勝利を収めてきた。「MAGA」とはトランプ前大統領のスローガン「Make America Great Again」の頭文字を取ったものである。政治専門サイト『The Hill』は「共和党は今やMAGAの党」と「トランプの党」になったと指摘している(2024年2月24日、「Five takeaways from the South Carolina GOP primary」)。これはトランプ前大統領が党内の反トランプ派を排除することで共和党に対する支配力を一層強めていることを意味している。

 トランプ前大統領は、保守的なキリスト教徒であるエバンジェリカルと低学歴の白人労働者、党内右派勢力を結集することで「トランプ連合」と呼ばれる「右派ポピュリスト集団」を作り上げてきた。こうした人々は熱狂的なトランプ支持者であり、2020年の大統領選挙でバイデン候補に選挙を盗まれたと信じて疑わず、トランプ前大統領の発言にまったく疑問を抱かない人々である。選挙結果を覆す目的で行われた2021年1月6日の議会乱入事件も正当な行為であると主張し、トランプ前大統領に対する様々な訴訟は「民主党の陰謀」であると信じている。

 アメリカでは保守とリベラルの間でジェンダー問題や中絶問題、LGBTQを巡る問題、宗教的自由を巡る問題など「文化戦争」が展開されている。保守派は伝統的なアメリカの価値観を取り戻すことを主張し、キリスト教倫理を国家の柱にすることを求めている。トランプ前大統領は、「失われゆく伝統的なアメリカ」に対する保守派の「恐怖」と「怒り」、「焦燥感」を煽り、巧みに共和党内に支持基盤を構築してきた。

 だが、トランプ前大統領がトランプ連合に依存すればするほど、共和党穏健派はトランプ前大統領から離反するのは間違いない。もし大統領選挙で共和党支持層の40%が棄権するか、バイデン大統領に投票すれば、トランプ前大統領の勝ち目はなくなる。さらにトランプ前大統領は刑事訴訟問題を抱えている。AP通信のVoteCastの調査によると、もしトランプ前大統領に裁判で有罪判決が下されれば、トランプ前大統領に投票しないと答えた共和党支持者は20%に達している。トランプ前大統領は有罪判決を受け、収監される可能性がある。トランプ前大統領自身も「自分は最初の投獄される大統領になるかもしれない」と語っている。選挙と同時にトランプ前大統領の行く手には大きな不確実性が存在している。

 トランプ前大統領はサウスカロライナ州の予備選挙が終わった後、「共和党は統一された」と勝利宣言を行ったが、その言葉とは逆に共和党内部の分裂がより鮮明になったといえる。ニューハンプシャー州の予備選挙でもトランプ前大統領の得票率は54%程度に留まっている。ヘイリー候補の得票率は43%であった。これは共和党内に根強い反トランプ派が存在していることを示している。多くのメディアは、予備選挙での勝利を「トランプの圧勝」と表現しているが、冷静に分析すれば、トランプ前大統領は内心は穏やかではないはずである。

■無党派層が選挙結果を決める

 ギャラップ社の2022年の調査では、共和党内の保守派は74%、穏健派は22%、リベラル派は4%であった。穏健派とリベラル派が26%占めている。だが、今回の予備選挙では、その比率は40%に増えている。それだけ共和党内でのトランプ前大統領に対する反発は強くなっているといえる。

 選挙の結果を決めるのは無党派の動向である。アメリカ全体でみると、2023年の調査では、登録有権者のうち49%が無党派であった。共和党支持は25%、民主党支持は25%である。トランプ前大統領が大統領選挙で勝つためには共和党内の穏健派と無党派層の支持を取り付ける必要がある。MAGAの支持だけでは、大統領選挙で勝利できない。ニューハンプシャー州の予備選挙でヘイリー候補は予想以上に検討したが、その背景には無党派層の支持があった。

 今までのトランプ陣営の選挙戦略を見る限り、共和党内のMAGA運動支持者を動員することで支持基盤を固めてきた。トランプ前大統領は党内保守派の支持を得るために極めて保守的な政策を打ち出している。ちなみにトランプ前大統領は連邦法で中絶を禁止するという保守派の主張を受け入れている。他方、ヘイリー候補は、そうした規制に批判的である。より右にシフトするトランプ前大統領は党内の穏健派と無党派層を離反させることになるのは間違いない。

■トランプ前大統領とバイデン大統領の支持率の差は僅差

 多くのメディアはトランプ前大統領が勝利すると決めつけているが、本当だろうか。RealClearPoliticsによれば、トランプ前大統領とバイデン大統領の平均支持率は46.1%対44.2%である。その差はわずか1.9ポイントに過ぎない。誤差の範囲である。両者とも50%を得ていない。クイニピアック大学の調査(2月19日)はバイデン大統領が4ポイント、NPR/PBSの調査(2月1日)でもバイデン大統領が1ポイント、トランプ前大統領をリードしている。もし本選挙に突入してトランプ前大統領が「トランプ連合」寄りの姿勢をより強めれば、無党派層が離反するのは間違いない。2022年の中間選挙で大勝を予想された共和党が議席を伸ばせなかったのは、中絶問題が有権者の反発を招いたからである。

 可能性は低いが、もしトランプ前大統領が無党派を取り込むために軌道修正すれば、トランプ連合の反発を招くのは間違いない。

 興味深いのは、バイデン大統領とヘイリー候補が争った場合である。RealClearPoliticsの平均支持率ではバイデン大統領の40.1%に対してヘイリー候補は45.0%である。その差は4.9ポイントで、トランプ前大統領よりもヘイリー候補の方がバイデン大統領を破る可能性は大きい。直近の8件の世論調査を見ると、Marquettの調査で16ポイント、CNNの調査で13ポイント、ヘイリー候補がバイデン大統領をリードしている。トランプ前大統領よりもヘイリー候補のほうが勝利する可能性は高いのである。

 党内の指名争いと本選挙は基本的に異なる。本選挙では政策論争が全面に出てくる。慣例では、大統領候補同士の公開討論会は2回か3回行われる。パフォーマンス以上に政策の内容が問われる。かつてケネディ候補とニクソン候補が初めてテレビを通して公開討論を行い、それまで圧倒的に優勢であったニクソン候補が一気に支持を失った例もある。同様にクリントン対ブッシュの大統領選挙でも、公開討論会が勝敗を決める決定的な役割を果たし、クリントン候補に勝利をもたらした。乱暴で横柄なトランプ流パフォーマンスはMAGAの支持者には熱狂的に受けいれられるが、無党派を含め多くの有権者をどこまで惹きつけることができるか疑問である。

■大統領選挙は「アメリカの民主主義」を巡る争い

 トランプ前大統領はアメリカ民主主義を根底から作り替えようとしている。ヘイリー候補は「トランプの後に混乱がついてくる」と警鐘を鳴らしている。バイデン大統領も、大統領選挙はアメリカの民主主義を巡る争いであると語っている。トランプ前大統領とMAGAグループは、ハンガリーをモデルにアメリカ政府を権威主義的な政府に作り替えようとしている。本当にアメリカ国民は、そうしたアメリカを望んでいるのだろうか。

 現状のままであれば、トランプ前大統領が共和党の大統領候補に指名されることは間違いない。ただ刑事裁判で有罪判決が出た場合、状況は大きく変わるだろう。他方、民主党のバイデン大統領も立候補を辞退する可能性は残されている。11月の投票日まで、まだいろいろなドラマが起こりうる可能性は十分にある。まだトランプ前大統領に「当確」を出すのは早すぎる。

ジャーナリスト

1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。アメリカの政治、経済、文化問題について執筆。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。ハーバード大学ケネディ政治大学院研究員、ハワイの東西センター・ジェファーソン・フェロー、ワシントン大学(セントルイス)客員教授。東洋英和女学院大教授、同副学長を経て現職。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。アメリカ政治思想、日米経済論、マクロ経済、金融論を担当。著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など。contact:nakaoka@pep.ne.jp

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