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連載1回:アメリカとイスラエルの「特別な関係」:巨額の軍事援助で結びつくアメリカとイスラエル

中岡望ジャーナリスト
イスラエルのミサイル攻撃で破壊されたガザ地区の建物(写真:ロイター/アフロ)

本記事は連載の1回目の記事です。

2回は「バイデン政権が前のめりでイスラエルを軍事支援する理由」

3回は「プロテスタント・エバンジェリカがイスラエルを支持する理由」

4回は「アメリカ社会とユダヤ系アメリカ人の関係」

5回は「補論:なぜ諜報大国イスラエルはハマスの攻撃を阻止できなかったのか」

を取り上げます。

【目次】(記事の字数:5017字)

■アメリカ人の56%は「親イスラエル」/■アメリカのイスラエルに対する軍事援助の経緯/■イスラエルへの軍事援助総額は約23兆円/■アメリカとの技術援助で構築されたイスラエルの防衛体制/■一方的な軍事援助から武器提供の相互依存へ

アメリカ人の56%は「親イスラエル」

 多くの日本人は、イスラエル・ハマス戦争を見ていて、どうしてアメリカはそこまでしてイスラエルを支援するのか不思議に思っているのではないか。このテーマを歴史的、政治的、社会的、宗教的な観点から5回に分けて分析する。また、イスラエル・ハマス戦争の表面だけ見ていては、アメリカとイスラエルの間にある「特別な関係」の全体は見えてこない。最初にアメリカとイスラエルの間に「特別な関係」があると語ったのは、ケネディ大統領である。

 イスラエル・ハマス戦争は泥沼化しつつある。10月6日のハマスの奇襲で始まった戦争は、イスラエル軍のガザ地区への反撃で民間人を含む2万人以上の犠牲者を出している。国際社会はイスラエルに人道的立場から休戦を求めているが、イスラエル政府は応じる様子はない。むしろ、この機会を利用してハマスの徹底的な破壊とガザ地区の完全支配を目指しているかのようである。そうしたイスラエルを支持し続けているのがアメリカである。

 イスラエルが強硬な姿勢を崩していない理由のひとつは、アメリカ政府の支援があるからだ。バイデン大統領は「先制攻撃を仕掛けたハマスはテロ集団であり、イスラエルには“自衛権”がある」と主張し、イスラエル支持の政策を続けている。バイデン大統領は、人道的な観点からイスラエル政府に対して“一時的な休戦”を求めてはいるが、戦争を終結させようとはしていない。イスラエルに寄り添った政策を取り続けているのは、世界でアメリカだけである。

 アメリカの軍事援助がなければ、ガザ地区でのイスラエル軍の行動は変わっていただろう。イスラエル軍はガザ地区を破壊し尽くすほど激しい爆撃を加え、地上作戦も凄惨を極めている。イスラエルに「自衛権」があるとしても、その軍事行動は「自衛権」を逸脱し、やや異常である。アメリカのウクライナへの軍事援助はロシアに対する“防衛”が目的であるが、イスラエルへの軍事援助は“攻撃”を目的とするもので、根本的に質が異なる。

 バイデン政権が積極的にイスラエルを支援するのは、アメリカ国民のイスラエルに対する好意的な態度が背景にある。ピュー・リサーチ・センターの調査(2023年8月21日、「How Americans view Israel, Netanyahu and U.S.-Israel relations in 5 Chart」)は、「アメリカ人は一般的にイスラエルとイスラエル人に対して肯定的な見方をしている」と指摘している。同調査によれば、アメリカ人の55%がイスラエルに「好意的」である。「非好意的」は41%に留まっている。男性だけで見ると、「好意的」は58%、「非好意的」は41%である。女性だけでは、「好意的」が53%とやや男性より少ないが、それでも過半数を上回っている。「非好意的」は42%と男性よりやや増えている。他の調査でも同様な結果が出ており、アメリカは「親イスラエル」であるといえる。

アメリカのイスラエルに対する軍事援助の経緯

 建国当初、イスラエルは主にイギリスとフランスから援助を受けていた。アメリカはイスラエル建国にそれほれほど積極的に関わった訳ではない。1948年にイスラエルが独立を宣言した時、アラブ諸国はイスラエルを攻撃した。その時、アメリカはイスラエルへの武器供与を拒否し、他の国にも武器を売らないように圧力を掛けている。1956年にイスラエルはアメリカに軍事的な支援を求めたが、アイゼンハワー大統領は断っている。最も積極的にイスラエルを支援したのはフランであった。だが、次第にアメリカとイスラエルの関係は緊密になり、ケネディ大統領はイスラエルとの関係を「特別な関係」と表現している。そうした変化の背景にはアメリカ国内のユダヤ系アメリカ人の影響があった。

 1967年の第3次中東戦争でイスラエルはフランスの援助を受けられなかったが、6日でアラブ諸国の連合軍を破り、ガザ地区を占拠した(なおイスラエルは1995年にガザ地区から撤兵している)。これ以降、アメリカは積極的にイスラエルへ武器の輸出を始めた。

 アメリカとイスラエルの関係が密接になった。当時、アメリカは中東におけるソビエトの影響力の増大を懸念し、イスラエルを冷戦下での戦略的な同盟国と見るようになる。当時、アメリカは中東から原油を輸入しており、中東の安全はアメリカの重大な関心事であった。中東の安定は両国の共通の利害であった。

 1973年の第4次中東戦争の時、キッシンジャー国務長官の説得でニクソン大統領はイスラエルへ弾薬を提供した。だが1975年にフォード大統領はイスラエルへの武器の売却を中止する決定を下した。本格的なイスラエルへの武器供与が始まったのは、カーター政権の1979年からである。アメリカのイスラエル政策は揺れたが、基本的にアメリカの外交政策は政治家やエリートの思惑で決まっている。

 2016年にオバマ大統領はイスラエルと「覚書(the Memorandum of Understanding)」に調印し、10年間で380憶ドルの武器をイスラエルに提供する約束をした。2018年から同覚書に基づいてイスラエルへの本格的な武器輸出が始まった。ナタニヤフ首相は、この「覚書」を「歴史的な取り決め」と表現し、オバマ大統領に感謝の意を表している。この取り決めにユダヤ系アメリカ人は歓喜した。

イスラエルへの軍事援助総額は約23兆円

 これ以降、アメリカ政府はイスラエルに対して巨額の経済援助と軍事援助を与えるようになる。米議会調査局の報告『U.S. Foreign Aid to Israel』(2023年3月1日)は、アメリカのイスラエルに対する援助を「イスラエルは第2次世界停戦以降、累積額でアメリカの最大の被援助国である。アメリカの歴代政権は国民のイスラエルに対する熱い支持を受け、連邦議会と協力して、イスラエルの安全保障のために援助を行ってきた」と指摘している。

 さらに同報告は、アメリカがイスラエル援助を続ける背景として、「中東政策」と「民主的価値観の共有」、1948年のイスラエル建国以来の「歴史的な結びつき」を指摘している。「アメリカ政府と議会はイスラエルを中東地域で重要なパートナ(vital partner)とみなしてきた」と書いている。またアメリカ国内のイスラエル・ロビーの影響力も無視することはできない。主要なイスラエル支援団体であるAmerican Israel Public Affairs CommitteeやChristian United for Israel、J Steerは、巨額の資金を使って米議会で極めて大きな影響力を行使し、アメリカ政府や米議会に圧力を掛け、イスラエル援助を継続させてきた。

 1946年から2023年の間にイスラエルに対する軍事援助と経済援助の総額は1580憶ドルに達している(為替相場145円で換算すると22兆9100万ドルになる)。主要な内訳は、軍事援助1440憶ドル、ミサイル防衛援助99億ドル、経済援助344億ドルである。経済援助は1947年から2007年の期間に行われたが、現在は行われていない。現在の援助は軍事援助だけである。

 2002年の連続テロ事件後、アメリカの軍事援助はイラクとアフガニスタンに向けられるようになった。それでも援助額は第3位であった。2021年に再びアメリカの最大の被援助国になったが、2022年にウクライナ戦争の勃発で、アメリカの軍事援助は主にウクライナに向けられるようになった。

 イスラエルはアメリカの軍事援助を使って、アメリカからF-35戦闘機と第5世代ステルス戦闘機などを購入している。現在までにイスラエルは50機のF-35戦闘機を購入している。同報告は「アメリカの軍事援助でイスラエルは最も技術的に洗練された兵器を持つ国のひとつになった」と指摘している。2022年にはアメリカの軍事援助は、イスラエルの軍事予算の約16%を占めている。

 2023年度(2022年10月1日から2023年9月30日)に米議会は「米イスラエル共同防衛プログラム」に5億2000万ドルの予算を供出することを承認している。この中にはミサイル防衛のための5億ドルが含まれている。これに加えて「覚書」の規定に従って、米議会はミサイル防衛のために38億ドルと、その他の軍事・非軍事援助として約9900万ドルの予算を承認している。

 アメリカのイスラエルへの軍事援助の資金は、国防総省から直接アメリカの兵器製造企業に渡される。製造された武器はイスラエルに送られる。資金はアメリカ国内で還流しているのである。

 アメリカのイスラエルへの軍事援助は、アメリカの軍事産業に大きな恩恵をもたらした。イスラエルの進歩派の雑誌『Tablet』は「アメリカのイスラエルへの援助は過去10年間で急増している。軍事援助の増加によってもたらされたアメリカの恩恵は援助額よりもはるかに大きい」、「軍事援助はアメリカの武器製造企業にとって裏口から補助金を提供する役割を果たしている」と指摘している(2023年7月17日、「End U.S. Aid to Israel」)。アメリカの軍事援助で、アメリカの軍事産業とイスラエルの軍事産業の間に「特別な関係」が作り上げられた。

アメリカとの技術援助で構築されたイスラエルの防衛体制

 イスラエルは2021年にミサイル防衛システム「Iron Dome」を構築している。アメリカは共同開発に30億ドルの資金を提供している。2014年に両国政府は同システムの部品生産をアメリカで始める一方、アメリカのミサイル防衛局がIron Dome技術を取得できる協定に調印している。Iron Domeは領土を攻撃するミサイルの90%を打ち落とす能力を持っていると言われている。ただ今回のハマスの奇襲攻撃では数百発のミサイルが同時に発射され、それを打ち落とすことはできず、その能力に疑問が持たれている。

 イスラエル・ハマス戦争が始まって、イスラエル軍がハマスの「地下トンネル網」を攻撃しているというニュースが伝えられた。トンネルを水浸しにする作戦も行われるとの報道もある。この作戦は、アメリカ政府の援助を受け、以前から準備されていたものである。2016年から両国政府は協力してトンネルを探知し、攻撃するシステムの構築を行ってきた。特に2014年以降、ハマスは積極的にトンネルを作り、物資の密輸やイスラエルへの侵入のために利用していた。トンネル探査システムは、発掘音を音響システムや耐震システムを使って探知するものであった。このシステムは石油や天然ガスを探査する際に使われる技術を応用したものである。

 米議会は2016年度の「国家防衛権限法」で「アメリカ・イスラエルトンネル防止協力プログラム」の予算を承認している。同年度の援助額は4000万ドルであった。そのプログラムの目的は「アメリカあるいはイスラエルの脅威になる地下トンネルを探知し、トンネルの地図を作成し、無力化する」ことであった。2021年にイスラエルはガザ地区を取り囲む境界40マイル(約64キロ)をカバーする「反バリアーシステム(anti-tunnel barrier)を構築している。

一方的な軍事援助から武器提供の相互依存へ

 2001年の連続テロ事件以降、アメリカはテロリストの活動を察知するために、積極的にイスラエルの軍事企業が開発したITを駆使した諜報システムを利用し始める。両国の間に軍事面での協力は強化され、一方的な関係から相互依存的な関係へと徐々に変わっていった。

 アメリカの軍事援助はイスラエルを世界有数の軍事産業国家にした。現在、イスラエルは製造した武器の70%を輸出し、現在、世界第10位の武器輸出国になっている。戦闘機や戦車、ミサイル防衛システム、無人飛行機、サイバー・セキュリティ製品、レーダー。電子通信システムまで広範な武器を製造・輸出している。イスラエルの3大武器輸入国は、インド、アルゼバイジャン、ベトナムである。アメリカも2019年にイスラエルから15億ドルの武器を購入している。購入しているのは主にハイテク関連の武器である。

 アメリカが、今回の戦争でイスラエルを支援する背景には、こうした両国の間の「特殊な関係」が存在している。だが、今回のイスラエル・ハマス戦争は、そうしたアメリカとイスラエルの「特別な関係」に少しずつ亀裂を生じさせている。その問題は、第2回で分析する。

ジャーナリスト

1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。アメリカの政治、経済、文化問題について執筆。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。ハーバード大学ケネディ政治大学院研究員、ハワイの東西センター・ジェファーソン・フェロー、ワシントン大学(セントルイス)客員教授。東洋英和女学院大教授、同副学長を経て現職。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。アメリカ政治思想、日米経済論、マクロ経済、金融論を担当。著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など。contact:nakaoka@pep.ne.jp

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