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「債務上限引上げ」「デフォルト」騒ぎは何だったのか、イデオロギーと党利党略に翻弄されるアメリカ政治

中岡望ジャーナリスト
下院での投票で「財政責任法」が可決され、事務所に戻るマッカーシー下院議長(写真:ロイター/アフロ)

「債務上限引上げ問題」の背後にあるイデオロギー対立

 アメリカの政治的対立の背後には常にリベラル派と保守派のイデオロギー対立が存在する。リベラル派である民主党議員は、政府が社会問題の解決のために積極的な役割を果たすべきだとする“大きな政府”を志向しているのに対して、保守派の共和党議員は、政府が個人的な事柄に対する関与すべきではなく、社会的な問題は個々人の努力、あるいは市場を通して解決すべきだとする“小さな政府”を支持する。債務上限引上げ問題も、その対立の延長線上にある。

 なぜ共和党は「デフォルト」という大きなリスクを犯してまで債務上限の引き上げに反対したのか。それは、債務上限引上げを拒否することでバイデン政府に圧力を掛け、歳出削減を勝ち取るためであった。債務上限引上げ問題は、共和党が政府と交渉するための“手段”であって、それ自体は目的ではない。

 共和党にとって歳出削減の対象は福祉プログラムである。今回のバイデン大統領とマッカーシー下院議長の交渉で最大のテーマのひとつが、「フードスタンプ(The Supplemental Nutrition Assistance Program―補助栄養補給プログラム)」の受給資格を巡る問題であった。アメリカでは貧困者に現金を給付するのではなく、「フードスタンプ(食券)」を支給する。受給者は食券を使ってスーパーマーケットなどで食糧を購入する。共和党は食券の給付条件の厳格化を求めた。それは、民主党にとって、受け入れがたい要求であった。この議論の詳細は後で説明する。

 共和党は、貧困は個人の努力が足りないのが理由であると主張する。福祉プログラムは、人々を福祉プログラムに依存させ、怠惰にすると考える。福祉プログラムは富裕層の税金で賄われており、富裕層の減税を主張する。富裕層は自らリスクを犯し、成功したのであり、高所得は当然の報酬であり、高い所得税を課すのは不当であると考える。共和党が常に富裕層の減税を主張する理由である。

 また、失業保険があるから人は一生懸命、仕事を探さず、失業率が高留まると考える。確かに、筆者がアメリカの大学にいたころ、アメリカの失業保険制度は潤沢なため急いで仕事を探さず、受給期限一杯、失業保険を受給し、ゴルフを楽しむという人物に会ったことがある。保守派の経済学者は、失業保険制度を廃止すれば、人はもっと一生懸命に仕事を探し、低賃金の仕事でも受け入れると主張する。それによって失業保険給付は減り、財政赤字が縮小し、失業率も低下すると考える。新自由主義の発想であり、勝者の論理である。

 共和党は、政府が個人的なことがらに関与することを嫌う。国民健康保険制度を拒否し、あくまで個人が個人的に保険会社と契約すべきことであり、国が強制すべきものではないと主張する。個人の“自己責任”こそが、社会の基本にあるべきだと考える。共和党にとって、“平等な競争”が保証されれば、“結果の不平等”は個人の責任であると主張する。「格差」があって当然であり、「格差」は社会的に好ましいとさえ考える。

 これに対してリベラル派の民主党は、人は様々な理由から失業や病気などの不幸に見舞われる。好んで失業したり、病気に罹るわけではない。失業したり、病気になれば、社会全体で支えるべきだと主張する。また努力すれば成功する訳ではない。幸運もあれば、不運もある。不幸な状況に陥った人は、社会全体で支えていくべきだと考える。そもそも「平等な競争」などありえない。富裕層の子弟は恵まれた状況から競争を始める。貧困家族の子弟は、貧困の連鎖に絡み取られ、成功の機会が奪われている。社会にとって大事なのは、ありえない「平等な競争」ではなく、「結果の平等」である。一生懸命に生きている人を支えていくことが政府の仕事だと考える。

 もうひとつ付け加えておこう。共和党が債務上限引上げを拒否したもうひとつの理由は、2024年の大統領選挙を有利に展開するためであった。共和党内の極右勢力は、バイデン政権を追い詰めるために、この問題を利用したのである。仮にデフォルトという事態になっても、それをバイデン政権の責任に転嫁できる。極めて党利党略的な思惑が存在していた。

アメリカで政府が本当に「デフォルト」に陥る可能性はあったのか

 事柄の本質を見極めることは重要である。「現象的な問題」が「本質的な問題」であるとは限らない。アメリカの「債務上限引上げ問題」は、そうした種類の問題であった。多くのメディアは、デフォルト騒ぎだけに注目していた。確かにアメリカ政府がデフォルトに陥れば、金融市場に留まらず、世界経済に甚大な影響が及ぶ。だがアメリカの政治や歴史を詳細に検討すれば、本当にデフォルトが起こるとは思えない。最初から“チキンゲーム”であることは明らかだった。

 今年の1月にアメリカ政府は既に債務上限額に達していた。財務省の資金が底をついていた。特別措置で資金を捻出する状態であった。債務上限の引き上げが承認されなければ、財務省の資金は枯渇し、公務員の給与支払い、年金や医療保険の支払いは止まってしまう。政府機関の閉鎖や公務員の一時解雇も起こる。財務省証券の利払いができなくなる。財務省証券の格付けが引き下げられる。デフォルトに陥れば、財務省証券は売られ、長期金利は上昇する。その結果、アメリカ経済はリセッションに陥り、株価は大暴落し、アメリカ経済のみならず、世界経済も大混乱に陥るという最悪の事態も起こりうる。トランプ前大統領は、それでも債務上限の引き上げを認めるべきではないと主張し、共和党内の極右グループはトランプ前大統領に同調した。しかし、共和党議員の中には穏健派も多い。共和党は下院の多数派を占めるが、最終的に下院は債務上限引上げを認めるのは間違いなかった。下院の共和党議員は222議席、民主党は212議席である。現在、1議席は空席になっている。過半数は218議席で、穏健派の共和党議員6名が民主党に同調すれば、債務上限の引き上げは承認される。ただ、どう政治的に“落としどころ”をつけるかが問題だった。それには政治的な儀式が必要であり、それがバイデン大統領とマッカーシー下院議長の会合であった。

 共和党は財政赤字の拡大を阻止するために、債務上限引上げを拒否し、政府に財政支出の削減を迫った。では、現在、アメリカ政府はデフォルトに陥るほど財政的危機に直面しているわけではない。デフォルトは、政府に債務返済能力がない場合に起こるものである。問題になったのは法的あるいは手続き的な問題である。1960年以降、債務上限の引き上げは78回行われている。そのうち共和党政権の下では49回、民主党政権の下では29回であった。債務上限の引き上げが拒否された例は一度もない。極めて事務的に処理されてきた問題であり、政治化する種類の問題ではない。既に決まっている政策を執行するための措置である。

 さらにアメリカ政府に支払い能力の問題はない。市場が財務省証券を購入しないという状況にはない。財務省証券の格付けは最高のAAAであり、最も信頼度の高い証券である。財務内容はどうか。2023年1月時点の政府債務は31兆4000憶ドルである。GDP比では123.4%である。同比率が最高を記録したのは、2021年3月で、132.4%であった。だが、その後、比率は低下している。バイデン政権のコロナ対策費やインフラ投資政策などで比率が2021年後半から2022年全般にやや上昇したが、その後、再び低下に転じている。財務状況は良い方向に進んでいた。共和党が主張しているように歳出を急激に減らさなければならない状況にはない。

 アメリカ政府の債務のGDP比率123.4%はどう評価すべきか。日本政府の債務残高とGDPの比率は256.0%である(OECDのデータ)。アメリカ政府の比率の倍である。OEC加盟国全体では124.3%であり、アメリカの比率は平均値を下回っている。フランスは116.9%、イギリスが103.6%、ドイツが77.4%である。こうした国際比較を見ても、アメリカ政府の財政状況は危機的な状況とは言えない。大幅な歳出削減が必要だという共和党議員の主張には根拠はない。

「債務上限引上げ」問題発生から「財政責任法」成立までの経緯

 アメリカでは債務上限を引上げるには議会の承認が必要である。1月、イエレン財務長官がマッカーシー下院議長宛てに書簡を送り、既に債務上限に達したこと、当面は“特別措置”で資金を捻出できるが、それにも限界があることから、債務上限の引き上げを求める書簡を送った。財務省証券の利払いができなければ、財務省証券はデフォルト(債務不履行)に陥る。メディアは大きく反応した。アメリカの財務省証券がデフォルトになれば、金融市場は大混乱に陥り、アメリカ経済がリセッションになるだけでなく、世界経済が大混乱に陥ると懸念されたからである。アメリカ国内では、政府機関が閉鎖され、公務員の給与支払いが滞り、社会保険や医療保険の支払いができなくなる。多くの公務員はレイオフ(一時解雇)を命じられるだろう。

 問題の本質は、財務省証券がデフォルトに陥るかどうかではなかった。常に歳出削減、特に福祉関係や医療関係などの予算削減を求める共和党が、バイデン政権が歳出削減を認めなければ、債務上限引上げを承認しないという戦略を取ったことが問題の発端である。過去、債務上限引上げは形式的に行われ、政治問題になることはなかった。だが、共和党は財政に関する政治的目標を達成するために過激な戦略を取ってきた。クリントン政権の時、下院の多数派を占めた共和党は予算案を承認せず、政府機関は閉鎖に追い込まれたことがある。アメリカの新会計年度は10月1日に始まるが、予算は翌年の1月まで承認されなかった。こうした事態に国民は反発し、最終的に共和党は予算案の承認を強いられた。結果的に共和党は世論の批判を浴び、翌年の1月に予算を承認したケースがある。

 債務上限引上げ問題が最初に大きな政治問題となったのは、オバマ政権の2011年である。この時、S&Pは財務省証券の格付けを引き下げた。だが、最終的にはオバマ政権と共和党は妥協し、債務上限は引き上げられ、デフォルトという事態は起こらなかった。民主党はオバマ政権の経験から教訓を得た。それは「債務上限引上げ問題で共和党と協議しない」ということだ。

 今回の問題は、2011年の状況の繰り返しであった。政府機関の閉鎖、財務省証券のデフォルト、経済のリセッションへの突入という悪夢のシナリオを背景に共和党がバイデン政権に歳出削減を迫った。3月にマッカーシー議長はバイデン大統領に協議を求めた。だが、バイデン大統領は「債務上限引上げ問題は議会の責任であり、政府は関与しない」と申し入れを拒否した。これを受け、共和党は4月に独自の債務上限引上げと歳出削減案を盛り込んだ法案を下院で可決成立させた。それでもバイデン大統領は妥協の姿勢を見せなかった。メディアはデフォルトの危機を煽った。妥協が成立しなければ、本当にデフォルトが起こるかもしれない、と。バイデン大統領とマッカーシー議長のどちらが先に降りるかという“チキンゲーム”の様相を呈した。

 最終的に5月22日、バイデン大統領は広島G7サミット後の外交日程をキャンセルし、ワシントンに急遽戻り、両者の会談が開かれた。その会談では合意は得られなかったが、バイデン大統領は会談後、「楽観的だ」と合意の可能性を示唆。会談に先立ち、イエレン長官は再度マッカーシー議長に書簡を送り、デフォルトを回避する最終日のXデーは6月1日だと伝えた。その後、長官はXデーを6月5日と修正する声明を出した。

 会談後、両者のスタッフの間で協議が継続し、26日にバイデン大統領とマッカーシー議長の電話会談が行われ、両者の間で「基本合意」に達した。その合意を受け29日、「財政責任法」が作成され、下院に提出された。下院では、賛成314票、反対117票で可決。共和党議員71名と民主党議員46名が反対した。222人の共和党議員のうち、151名が賛成したのである。6月2日に上院で同法案は63対36で可決した。民主党議員5名と共和党議員31名が反対した。上院の票決で反対票を投じた民主党議員には、左派ポピュリストのベニー・サンダース上院議員とエリザベス・ウォーレン上院議員が含まれている。反対した共和党議員の中には、テッド・クルーズ議員、リンゼイ・グラハム議員、マルコ・ルビオ議員といった大物議員が含まれている。同日、バイデン大統領は法案に署名した。イエレン長官が指摘した6月5日の直前に、債務上限引上げ問題は解決した。

 バイデン大統領は法案が成立した2日の夜、国民に向かって演説を行い、「合意に達したことは極めて重要であり、アメリカ国民にとって非常に良いニュースだ。私たちは経済崩壊を避けることができた。歳出を削減すると同時に赤字を削減することになる」と、成果を誇った。大統領は「アメリカ民主主義が機能する唯一の道は妥協と同意である」と、「財政責任法」が両党議員の支持を得た“超党派法案”であることも大きな成果であると指摘した。マッカーシー議長も「共和党が一致団結して臨んだことでバイデン大統領を交渉の場に就かせた」と、共和党の勝利を讃えた。

債務上限引上げ問題を“武器”として使った共和党の戦略

 共和党は過去において予算案の承認拒否や債務上限の引き上げを拒否する戦略を取ってきた。過去の経緯からすれば、共和党が歳出規模の縮小、福祉関係予算の削減を実現するために、債務上限引上げを政治的な「武器化(weaponization)」にすることは不思議なことではない。

 共和党の戦略は、昨年11月の中間選挙で共和党が過半数を確保したときから始まっている。債務上限引上げ問題を武器化することにトランプ前大統領も同意し、また共和党議員を扇動した。同前大統領の影響下にある下院の財政保守派の議員集団「フリーダム・コーカス」が強硬な姿勢を取った。下院議長選挙で「フリーダム・コーカス」はマッカーシー院内総務(当時)の議長就任に反対した。その結果、議長選挙は15回行われ、最終的にマッカーシー議長は、財出削減を強力に主張する「フリーダム・コーカス」の要求を飲んだ経緯もある。その後の「債務上限引上げ問題」でマッカーシー議長が強硬な姿勢を取った背景には、「フリーダム・コーカス」の存在があった。

 共和党の戦略を立案したのはトランプ政権の行政管理予算局長で予算問題を熟知し、現在は保守派シンクタンクCenter for Renewing Americaの理事長を務めるラッセル・ヴォートである。彼は104ページの歳出削減のメモを「フリーダム・コーカス」のメンバーに提供し、同時にホワイトハウスとの交渉の仕方、メディア対策などでアドバイスを行っている。

 共和党はバイデン大統領に圧力を掛ける目的で、4月に下院で「債務上限引上げ」と「歳出削減案」を織り込んだ独自の法案(「Limit, Save, Grow Act」)を成立させた。内容は債務上限を1.5兆ドルに引き上げる代わりに10年間で4.5兆ドルの歳出削減を求めるものであった。法案の具体的内容は、①2024年度予算の歳出を2022年度の水準に戻すこと、②毎年の歳出規模を1%増に留めること、③軍事予算は削減対象にしないこと、④バイデン政権の目玉である学生ローン免除政策の阻止、⑤内国歳入庁(日本の税務署に相当)の予算とスタッフの削減、バイデン政権の成果のひとつである「Inflation Reduction Act」に織り込まれている気候変動、医療保険に関する予算の削減、⑥フードスタンプの支給条件の厳格化、⑦メディケイド(低所得者向け医療保険)の受給資格者に就労を義務化、⑧クリーン・エネルギーに対する減税措置の廃止などが盛り込まれていた。共和党の戦略は巧妙で、同法案を成立させることで、共和党主導で交渉のベースを作った。

「財政責任法」に、どんな内容が盛り込まれているのか

 「債務上限引上げ問題」と「デフォルト」問題を巡る茶番劇はあっけなく幕を閉じた。共和党の強硬派はデフォルトも辞さないと強硬姿勢を取っていたが、共和党内には多くの穏健派議員もいる。下院の採決で共和党の票は賛成149票、反対71票と割れたことからも分かるように、破局を望む議員は多数派ではない。“チキンゲーム”の結末は予想された通りの結末を迎えた。

 では、「財政責任法」で何が決まったのか。最大の問題である「債務上限」に関して、2025年1月まで適用除外が決まった。すなわち次の大統領が誕生するまで、上限引上げを巡る問題は起こらないことになる。ただ、2024年の選挙で民主党大統領が誕生し、共和党が引き続き下院の多数を占める状況が起これば、共和党は「債務上限引上げ」を武器として使い、再び同じ問題が繰り返される可能性はある。いずれにせよ、同法の成立で債務上限引上げ問題は決着した。

 共和党の方はどうか。歳出削減でバイデン政権から譲歩を勝ち取っている。同法では、財政赤字を2.13兆ドル削減することが盛り込まれた。その内訳は、2024年度予算と2025年度予算に上限が設定され、今後10年間で1.3兆ドルの余剰を作り、2026年から2029年の間、裁量的歳出に強制的な上限が設定され、5530億ドルの余剰を作る。共和党の主張する歳出削減も盛り込まれている。予算額の増加は抑えられた。

 総枠としての合意と同時に、個別政策に関する合意も成立した。今回の交渉で最大の問題となったのは、上述したように「フードスタンプ」の受給条件である。これは貧困層に食券を与える制度である。このプログラムは、レーガン大統領のころから保守派の攻撃の的であった。レーガン大統領はフードスタンプを使ってアルコールを買った女性を「welfare queen(福祉の女王)」と呼んで攻撃した。「税金を使ってアルコールを飲んでいる」と批判したのである。

 今回の交渉のなかで、福祉政策を象徴する「フードスタンプ」や「メディケイド(低所得医療保険制度)」の「Work Requirement(労働条件)」を巡って議論が行われた。共和党は支給条件を厳格化することで、受給者を減らし、予算削減することを求めた。現行法では、扶養家族のいない50歳未満の成人がフードスタンプをもらうには、1ヵ月最低80時間の労働をするか、訓練プログラムに参加する必要がある。今回の見直しで、労働条件の適用対象が49歳から54歳に引き上げられた。他方、ホームレスや退役軍人、18歳までフォスター家族に育てられた人には適用除外となる。また、今後3ヵ月以内に「労働条件」を満たさないと、受給資格を喪失することになる。こうした措置は2030年に失効する。

 ただ皮肉なことに、議会予算局の試算では、2023年から2033年の間にフートスタンプの歳出は21億ドル増加する。共和党議員の主張とは程と遠い結果であり、共和党の陰の戦略家ヴォートは「マッカーシー議長は共和党の価値観を裏切りった」と批判している。

 他方、バイデン大統領が妥協を迫られた政策もある。バイデン大統領は「Inflation Reduction Act(インフレ抑制法)」で、富裕層の脱税などをチェックするために内国歳入庁にたいする予算増加と職員増加を決めていた。だが今回の合意で、14億ドルの予算は取り消され、職員増加も抑制された。また共和党はバイデン政権の目玉政策である環境政策、クリーンエネルギー政策、や学生ローン免除政策などの見直しも迫ったが、必ずしも成功しなかった。大枠の歳出削減では共和党の主張が通ったが、個別の政策ではバイデン政権は守り抜いたともいえる。

 ただ、この程度合意に達するために、こんなに大騒ぎしなければならなかったのかというのが偽らざる印象である。アメリカの政治は常にイデオロギーに翻弄されているのが現実である

ジャーナリスト

1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。アメリカの政治、経済、文化問題について執筆。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。ハーバード大学ケネディ政治大学院研究員、ハワイの東西センター・ジェファーソン・フェロー、ワシントン大学(セントルイス)客員教授。東洋英和女学院大教授、同副学長を経て現職。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。アメリカ政治思想、日米経済論、マクロ経済、金融論を担当。著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など。contact:nakaoka@pep.ne.jp

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