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トランプの研究(11):コミー前FBI長官議会証言とトランプ大統領の命運‐「コミー・メモ」全訳

中岡望ジャーナリスト
上院諜報委員会で証言するジェームズ・コミー前FBI長官(写真:ロイター/アフロ)

内容

1.コミー証言で苦境に立つトランプ大統領

2.急激に低下するトランプ大統領の支持率

3.スキャンダルの発端

4.コミー前長官の反撃

5.コミー前長官の特別委員会に提出された書面による陳述の全訳

6.陳述書から読み取れるもの

1.コミー証言で苦境に立つトランプ大統領

トランプ大統領は、ジェームズ・コミーFBI長官を解任した時、彼が反撃に転じ、事態がここまで深刻になるとは予想もしていなかっただろう。コミー前長官が、大統領との二人だけの会話の内容を詳細に記した「コミー・メモ」の存在が明らかになり、さらに上院でのコミー前長官を召喚して公聴会も開かれた。公聴会に先立ってコミー前長官が委員会に提出した「陳述書(Statement for the Record)」は、まるで小説まがいの内容が詳細に記録されていた。さらに公聴会でのコミー前長官の証言で、トランプ大統領がFBIのロシアの大統領選挙に介入した件に関する捜査を妨害した事実が明らかになった。トランプ大統領は9日にホワイトハウスのローズ・ガーデンで行われた記者会見で、「コミー前長官の議会での証言は不誠実そのものである。ロシアとの結託はない。司法妨害もない。彼は嘘つきだ」と、コミー前長官を激しく批判した。その後に行われたルーマニア大統領との共同記者会見の場で、ABCの記者がマイケル・フリン安全保障担当補佐官(当時)に対するFBIの捜査を中止するようにコミー長官(当時)に要請したのかとトランプ大統領に質問した。これに対して大統領は「私はそんなことは言っていない。もし言ったとしても何が悪いのか」と強気の発言を行った。さらに「私が捜査を中止するように不適切な圧力をかけたと主張するコミー前長官との会話に関して宣誓を行った上で100%進んで証言を行うつもりだ」と自らの潔白を主張した。

こうした動きに加え、トランプ大統領の法律顧問はコミー前長官が大統領との会話のメモを『ニューヨーク・タイムズ』にリークしたことに関して訴追請求を行う準備をしていること明らかにした。コミー前長官はメモを知人を通して『ニューヨーク・タイムズ』の記者に渡した事実は認めている。

問題のポイントは、大統領がFBIの捜査を終始するように指示したかどうか、すなわち「司法妨害(obstruction of justice)」を行ったかどうかである。もし司法妨害を行ったと判断されれば、それは大統領の弾劾の根拠になる。ニクソン大統領とクリント大統領は弾劾に掛けられたが、弾劾の理由は司法妨害と偽証であった。トランプ大統領がホワイトハウス内での会話を録音しているとも言われ、そのため、今回の事件とウォーターゲート事件の類似性が指摘されている。これからしばらくの間、アメリカの政治はトランプ大統領の行為の真偽と、それが司法妨害にあたるのかどうかを巡って展開されるだろう。トランプ大統領は徹底的にコミー前長官を攻撃し続けるだろう。議会やメディアは、記録テープの提出を求めるだろう。今後の事態の進展は予想がつかない。

ただ、その結果がどうあれ、この事件がトランプ大統領に大きなダメージを与えることは間違いない。大統領就任以来、トランプ大統領は横柄な態度や傲慢な発言、ツイッターを通しての虚偽の情報発信を繰り返してきた。メディアの批判も無視し、唯我独尊ぶりを誇示してきた。だが情勢は一気に変わった。厳しい批判の中でもトランプ大統領を守り続けていた与党共和党の中にもトランプ大統領を批判する動きが出始めている。トランプ大統領は危機を乗り切ることができるのか。現時点では可能性は低いが、“弾劾”を求める声は確実に強くなってくるだろう。危機を乗り切ったとしても、大統領としての求心力が大幅に低下することは避けられないだろう。

今回の事件の推移を整理しておく必要がある。また、なぜコミー前長官は大統領との会話をメモとして残していたのかも、大きな疑問のひとつである。本当にトランプ大統領とコミー前長官の間に何があったのか。2回に分けて、今回の事件の全容を分析する。本稿には「コミー・メモ」の全訳を掲載する。それは下手な小説よりもはるかに面白い内容である。

2.急激に低下するトランプ大統領の支持率

『ウォール・ストリート・ジャーナル』とNBCの共同世論調査(5月11日から13日に実施)では、コミー長官解任に関して、回答者の29%が「支持する」、38%が「支持しない」、32%が「分からない」と答えている。共和党支持者の58%が支持しているのに対して、民主党支持者の66%が容認できないと党派で評価が大きく分かれている。無党派では、支持は21%、不支持は36%であり、これが標準的なアメリカ人の評価といえる。

また6月7日に『ワシントン・ポスト』とABCの共同世論調査の結果が発表された。上院諜報委員会でコミー前長官の公聴会開催の前(実施日は6月2日から4日)に行われたものである。調査では「トランプは2016年の大統領選挙にロシアが介入した可能性に関する捜査に協力していると思うか、あるいは捜査を妨害していると思うか」との問いに対して、全体の56%が大統領は捜査妨害を行っていると答えている。政党別の支持者でみると、民主党支持者の87%、無党派の58%、共和党支持者の17%が大統領は捜査妨害をしていると答えている。大統領に対する信頼は大きく低下している。ただ、共和党支持者のトランプ大統領支持が非常に高いのが注目される。トランプ大統領が強気の姿勢を取っているのは、こうした背景があるのかもしれない。

6月8日に行われたロイターの世論調査では、トランプ大統領支持が38%、不支持が58%であった。ギャロップの調査(6月8日)でも、同様に不支持率は58%、支持率は37%と、ロイター調査とほぼ同じ結果であった。ギャロップ調査では、3月28日に不支持率が大統領就任後最低の59%を記録したが、今回の調査結果はそれに続くものであった。政権発足後、4カ月余で不支持率が60%というのは異常といっていい数字である。

3.スキャンダルの発端

トランプ大統領に何が起こったのか。発端は5月9日に始まる。トランプ大統領は突如、コミーFBI長官を即刻解任すると発表した。大統領は、解任の理由としてジェフ・セッション司法長官とロッド・ローゼンスタイン司法副長官からコミー長官の解任を勧める書簡を受け取ったからだと説明した。3枚の勧告書は、大統領選挙中のコミー長官のヒラリー・クリントン民主党候補の私的アドレス使用事件に関する調査の仕方が不適切であったことを指摘し、「コミー長官はFBI長官の職にふさわしくない」と書かれていた。トランプ大統領は「解任理由は単純である。コミー長官が良い仕事をしてこなかったからだ」と説明した。

だが、これは誰の目から見ても納得できる理由ではなかった。大統領選挙直前にコミー長官は決着が付いていると思われていたクリントン候補の私的メール事件の再捜査を行うと発表し、それがトランプ候補の勝利の要因のひとつになった。当時、民主党はコミー長官の行動は政治的であり、選挙干渉であると解任をオバマ大統領に要求したが、長官は解任されることはなかった。トランプ大統領にとってコミー長官は大恩人であった。大統領就任直後の1月22日、トランプ大統領は大統領執務室にコミー長官を呼び、長官を“ジェームズ」と呼びかけ、感謝の意を表した。

誰もこの解任を予想していなかった。コミー長官は、直接大統領から解任を伝えられるのではなく、テレビ報道で知ったほどである。コミー長官にとって、それは忠誠を示してきたトランプ大統領の裏切りであった。FBI長官は大統領が指名し、議会で承認されなければならない。しかし、政治的中立を維持するために任期は10年と長く設定されている。大統領がFBI長官を解任できるかどうかの法的な規定は存在しない。過去に解任されたFBI長官はひとりいる。1993年にクリントン大統領によって解任されたウィリアム・セッション長官である。同長官は公私混同が激しく、大統領は何度も辞任を求めたが、拒否し続けていた。そのためクリントン大統領はジャネット・レノ司法長官に指示し、同長官が倫理的に職務にふさわしくないという辞任勧告の書簡を送らせるという手続きを取ってセッション長官の解任に踏み切った。今回も、トランプ大統領はコミー長官の解任に際して前例にならって司法長官と副長官の解任勧告の書面を準備した。

コミー長官解任の伏線は前日の8日の議会の公聴会にあった。公聴会でサリー・イエーツ前司法長官代行が、マイケル・フリン前安全保障担当補佐官がロシアと密接な関係にあり、ロシア政府から脅迫を受けていたという証言したことだ。FBIはフリン前補佐官とロシアの関係を調査しており、この証言が捜査を促進させる可能性があった。さらにコミー長官は、その捜査のための予算増額を求めていた。加えて、コミー長官が議会で、トランプ大統領がオバマ政権がトランプ陣営の盗聴を非難していたが、その主張は偽りであると証言したことも、トランプ大統領の怒りを買い、解任に結びついたと思われる。

解任発表前日の月曜にトランプ大統領はセッション司法長官とローゼンスタイン副長官と会談し、コミー長官解任の理由を協議している。さらにトランプ大統領は11日に行われたNBCニュースとのインタビューの中で「私は司法長官と副長官の勧告がなくてもコミー長官を解任するつもりだった」と語っている。とすると、どんな理由でコミー長官が解任されたのかという疑惑が浮かんでくる。さらにトランプ大統領はコミー長官の下でFBIは混乱してきたと指摘し、コミー長官は「目立ちたがり屋(showboat)」で、「スタンドプレイをする人物(grandstander)」で、「この1年間、コミー長官の下でFBIは混乱していた」と個人攻撃を加えた。さらにトランプ大統領はコミー長官に自分がFBIの捜査対象になっているかどうか質問し、長官が「捜査対象になっていないと」答えたことも明らかにした。

だが、この発言を受け、マッケイブFBI長官代理は「トランプ大統領の発言は正しくない。FBI職員の大多数はコミー長官と良好な関係を享受していたし、長官はFBI内で大きな支持を得ていた」と反論している。辞任に当たってコミー長官は職員宛てに書簡を発表し、職員から惜しまれながら職場を去った。

さらにトランプ大統領はコミー長官を貶める発言をしている。コミー長官が3月に自分の地位を維持するために会食の機会を求めてきたことを明らかにした。すなわちコミー長官はその地位に留まりたいがゆえに大統領に媚びを売ったと言いたかったのであろう。これに対してコミー長官のスタッフは、トランプ大統領は嘘をついていると反論。嫌がるコミー長官を夕食に誘ったのはトランプ大統領であったという。コミー長官は、会食の際にトランプ大統領がコミー長官に「個人的な忠誠(personal loyalty)」を誓うように求めたことを明らかにした。この要求に対してコミー長官は、個人的な忠誠は誓わないが、自分は「正直(honesty)」であると答えている。

コミー長官解任をきっかけに、民主党はかねてから疑惑が取り沙汰されていたロシア政府の大統領選挙への干渉を調査する特別検察官の任命を主張した。共和党議員の中にも、解任には反対しないものの、タイミングが悪すぎると印象を漏らす議員もいた。解任発表の翌朝、下院監視委員会のジェイソン・シェフィッツ委員長(共和党)は、司法省監察長官にトランプ大統領のコミー長官解任理由を調査することを要求している。下院の司法委員会の17名の民主党委員はコミー前長官解任に関する公聴会の開催を要求し、司法委員長に宛てた書簡の中で「コミー長官解任の明確な説明が必要である。現在まで政府は何の理由も提示していない」と指摘している。

4.コミー前長官の反撃

今回の解任事件が大きなスキャンダルに発展する契機となったのは、トランプ大統領から屈辱的な扱いを受けたコミー前長官が反撃に出たからである。12日にコミー前長官はトランプ大統領の会食での会話の録音が存在していることを明らかにする。その事実が報道されると、トランプ大統領はツイッターで「ジェームズ・コミーは自分が情報をリークし始める前に録音テープがなくなることを望んでいる」と書いたが、その意味は、録音が存在していれば、自分の発言の嘘がばれると、コミー前長官の発言に信憑性がないと訴えたのである。だが、この発言は逆に録音が存在することをトランプ大統領が暗に認めたこと、さらにコミー前長官を脅迫したと受け取られた。記者の質問に対してスパイサー報道官は、録音の存在を繰り返し否定。録音の存在の報道を受けて、上院諜報委員会の共和党委員はホワイトハウスから録音を入手する方法の検討を始めた。

トランプ大統領がホワイトハウス内で録音していることが明らかになれば、ニクソン大統領のウォーターゲート事件と重なることになる。ニクソン大統領はホワイトハンス内で秘密裏に録音を行っており、この録音が公表されたことがニクソン大統領の弾劾、辞任に結びついた。共和党の大物議員ジョン・マケイン上院議員は、「今回の事件は規模と内容においてウォーターゲート事件を上回るものだ」という厳しいコメントを発表している。15日の朝、一部の共和党議員がトランプ大統領にコミー前長官と会食した際の録音を公表するように求めた。リンゼイ・グラハム上院議員は「もしトランプ大統領とコミー長官の会話の録音があるならホワイトハウスはそれを議会に渡すべきである」と語った。

5月13日にコミー前長官は上院の公聴会で証言。その時の冒頭の発言が、上院諜報委員会の公聴会前の6月7日に公表された。15日付けの『ワシントン・ポスト』が、さらにトランプ大統領に打撃を与えるニュースを掲載した。トランプ大統領は10日に行われたロシアのセルゲイ・ラブロフ外相とセルゲイ・キスリャク駐米大使との会談の席でロシア側に「機密情報」を漏らしたと報道したのである。そのこと自体に違法性はないが、伝えたのが同盟国イスラエルからの機密情報であったことから安全保障上の深刻な問題として受け取られた。ポール・ライアン下院議長(共和党)は、トランプ大統領に「事実関係の説明」を求めた。国家安全保障担当のマックマスター補佐官は報道を否定。またロシア政府もトランプ大統領が機密情報をロシア側に提供した事実はないという声明を出すなど、対応に追われた。

だが、翌日の16日、トランプ大統領自らが機密情報のロシア側への提供をツイッターで認め、それまでのホワイトハウスの説明を覆した。ツイッターでトランプ大統領は「自分はロシアと情報を共有する“絶対的な権利”を持っている」と説明している。さらに誰がその情報をメディアにリークしたのか探し出すと逆切れしている。さらにCNNが、ホワイトハウスはトランプ大統領のロシアに提供した機密情報の内容の詳細を報道しないようにメディアに圧力をかけたことを暴露した。

16日付の『ニューヨーク・タイムズ』が追い打ちをかける記事を掲載する。それはトランプ大統領がコミー長官に前国家安全保障担当のマイケル・リン補佐官とロシアとの関係に関するFBIの調査を中止するように求めたというものである。その会談はフリン前補佐官が解任された直後の2月14日に行われたものである。コミー前長官は、その際の会話の内容を詳細なメモとして残していた。メモに書かれた会話の内容には、トランプ大統領が「この調査を終わらせ、フリンを自由にして欲しい。フリンは好人物だ」と語った内容などが含まれていた。ホワイトハウスは当然のことながら、トランプ大統領はコミー前長官に調査を辞めるように求めたことはないと否定する声明を出した。

この記事を受け、18日に持たれたコロンビア大統領との共同記者会見の席で、トランプ大統領は「コミーは非常に人気のない人物であり、彼を解任したことで自分は賞賛されると思っている。私が解任を決めた時、それは民主党を含めた超党派的決断だと思っていた」と、個人攻撃を繰り返した。

「コミー・メモ」の存在でトランプ大統領は窮地に追い込まれる。捜査中止を求めたトランプ大統領の行為は「司法妨害」に当たり、弾劾の要件を満たす可能性があるからだ。さらに、それまで否定し続けてきたトランプ大統領とロシアのビジネス関係や金銭的なやり取りが再び大きな疑惑の対象となった。議会は党派を超えて、「コミー・メモ」の提出命令とコミー前長官の議会での証言を要求し始めた。さらに上院諜報委員会は17日、FBIに対して「コミー・メモ」の提出を求めた。上院司法委員会の委員4名がホワイトハウスとFBIに書簡を送り、トランプ大統領とコミー長官が交わした会話に関する書類を5 月24日までに提出することを求めた。グラスリー司法委員会委員長は「我々はすべてのメモの提出を求めている」と語っている。下院の監視委員会も同様な要求をFBIに対して行う一方、コミー前長官に委員会で証言を求めることを決めた。

5.コミー前長官の特別委員会に提出された陳述書の全訳

本稿では、このスキャンダルの実態を分析する。「事実は小説より奇なり」というが、コミー前長官の委員会に提出した書面での冒頭陳実は極めて興味深い内容である。A4で7ページと比較的長い文面であるが、以下で、その全文を紹介し、その後に証言の内容と今後の展開について分析を加える。文書による陳実は「Statement for Record-Senate Select Committee on Intelligence」という標題がつけられている。また、非常に興味深いことですが、コミー前長官の書面による陳述にはFBIの諜報活動の裏側を知る内容も含まれている。

【以下、陳述書の全訳】

バー委員長、ワーナー委員をはじめとする委員会の皆さん。今日、委員会にお招きいただいたこと感謝します。今日、私は、皆さんがご関心を抱かれている課題に関して、私が大統領選挙当選後と、大統領就任後にトランプ大統領と行った会話について証言するように求められています。私と大統領との間の会話のすべてを詳細に証言することはしませんが、私が思い出せることはすべてお話します。委員会に関連する情報をお話しするように努めます。

1月6日に行った背景説明

私は1月6日の金曜日大統領選挙で当選したトランプ次期大統領に初めてニューヨークのトランプ・タワーの会議室で会いました。トランプ次期大統領と新しい安全保障チームにロシアが選挙に介入した件に関する諜報機関の捜査に関する背景説明を行うために、私は諜報機関(IC=Intelligent Community)の幹部たちと一緒にトランプ・タワーに行きました。背景説明が終わった後、私は会議室に一人残り、次期大統領に捜査中に得た情報の中に大統領個人に関する際どい(salacious)な問題(訳注:捜査対象になりえる可能性のある問題)が含まれていることを説明しました。

ICの幹部は様々な理由から(次期大統領に関する)資料は際どい(salacious)内容で、まだ裏付けが取られていない資料が存在することを次期大統領に伝えておくことが重要だと考えていました。そう考えたのは、次のような理由からです。(1)私たちはメディアが間もなくその資料を報道することを知っており、ICが資料の存在を知っていること、それが次期大統領からまもなく発表されることを隠しておくべきではないと信じていたからです。(2)まだ権限のない次期大統領にそうした資料に関する情報を提供することになり、防御的な説明(defensive briefing)を行うことで、その行動の影響を弱めることができると考えたからです。

国家情報長官は、私が(次期政権で)FBI長官の地位に留まること、当該の資料の存在がFBIのカウンター・インテリジェンス(反諜報)活動の任務を複雑にしていることから、資料のその部分の背景説明を私が個人的に行うように頼んできました。次期大統領に与える当惑を最小にするために私が一人で説明することで合意しました。FBIの幹部と私は、私が背景説明を行うことは筋が通っていることで意見は一致しましたが、背景説明を行うことで彼(トランプ)自分の個人的な行動がFBIのカウンター・インテリジェンス捜査の対象になっているかどうか分からないまま大統領に就任するという状況を作り出すことになるかもしれないと懸念していました。

FBIのカウンター・インテリジェンス捜査は、一般に知られている犯罪捜査と異なることを理解しておくことは重要です。FBIのカウンター・インテリジェンス捜査の目的は、敵対する外国政府がアメリカに影響を与えるか、国家機密を盗むために利用しているテクニカルかつ人的な手法を理解することです。FBIは、そうして得た情報を駆使して外国政府の試みを阻止します。時には、そうした阻止行動は、外国政府が取り込もうとしているか、影響を与えようと目標にしている個人に注意を喚起する形を取ることがあります。時には、攻撃されているコンピュータ・システムを保護することも含まれます。時には、外国政府に取り込まれた人物を二重スパイに転向させたり、外交政府の大使館に駐在する諜報担当者に制裁を加えたり、追放することで、そうした行為が行われていることを公表する活動も含まれます。時には、諜報活動を阻止するために、刑事訴追を行うこともあります。

敵対国の本質は良く理解されているので、カウンター・インテリジェンス捜査は、FBIが意識的か無意識のうちに外国政府のスパイとなっていると疑っている人物に焦点を当てる傾向があります。アメリカ人が外国政府が取り込もうとしている対象になっているか、あるいは外交政府のスパイとして非公然に活動していると信じる根拠がある時、FBIは当該のアメリカ人に対する“捜査を開始”し、司法権限を使って当該アメリカ人と外国政府の関係の特徴を深く理解することで諜報活動を阻止することができます。

そうした文脈の中で、1月6日の会議に先立って、私とFBIの幹部は、次期大統領にFBIは次期大統領を捜査対象にしないと確約すべきかどうかについて議論しました。事実、トランプ大統領は捜査対象になっていませんでした。FBIは、トランプ次期大統領を対象にカウンター・インテリジェンス捜査を始めてはいませんでした。私たちは、状況から正当化できるなら、私が(次期大統領に捜査対象になっていないことを)保証すべきであるということで合意しました。トランプ・タワーでの一対一の会談の間に、背景説明に対する次期大統領の反応を見ながら、次期大統領は直接(私に)質問しませんでしたが、私は(捜査対象ではないという)確約を与えました。

私は、次期大統領との最初の会話をメモとして記録しておくべきだと感じました。正確を期すために、会合が終わって直後に、私はトランプ・タワーの外に止まっていたFBIの車に乗ってラッップ・トップを使って会話を記録し始めました。それ以降、トランプ氏と一対一の時に交わした会話をすぐに書面で記録として残すことは、私の習慣となりました。過去には、そんな習慣はありませんでした。私はオバマ大統領と一対一で話したことは2度あります(電話で話をしたことは1度もありません)。最初は法執行政策について議論した2015年です。2度目は2016年で、短い時間ですが、オバマ大統領が私に「グッバイ」といった時です。いずれの場合も、私は会話の記録を残していません。私は4か月間にトランプ大統領と差しで9回話をしたことを覚えています。そのうち3回は直接、6回は電話で話をしました。

1月27日の夕食

大統領と私は1月27日の金曜日、午後6時半、ホワイトハウスのグリーン・ルームで夕食を一緒にしました。大統領は、その日の昼時に私に電話を掛けてきて、その日の夜の夕食に私を招待しました。大統領は、私の家族全員を招待したいが、今回は私だけを招待し、次回は家族全員を招待すると言いました。電話での会話から、他に誰が招待されているか分かりませんでした。ただ、私は他の人も招かれていると思っていました。

夕食は二人だけで、私たちはグリーン・ルームの中央に置かれた小さい卵型のテーブルに着席しました。二人の海軍の客室係が給仕し、食事や飲み物を出すとき以外は部屋に入ってきませんでした。

大統領は、私にFBI長官に留まりたいかどうか聞きました。私は奇妙な感じでした。なぜなら大統領は既に過去の話し合いで2度、私に留任して欲しいと言っており、私も大統領に留任するつもりだと確約していたからです。大統領は、多くの人がFBI長官になりたがっており、昨年、私が権力を乱用(注:ヒラリー・クリントン候補の電子メール問題の再調査を選挙直前に発表したこと)したことから、辞任したいというのであれば受け入れると言いました。

私は直観的に、わざわざ二人だけの会食を設定をしたり、大統領が私のポストに関してあたかも初めて議論するかのような態度を取ったことから、夕食の場で私にFBI長官に留まりたいと言わせることで、(大統領と私の間に)恩着せがましい関係(patronage relationship)を作ろうとしていることを感じました。FBIが政府の中で伝統的に独立した地位を与えられているということを前提とすれば、そのことは私を非常に当惑させました。

私は、自分の仕事が好きで、FBI長官として10年の任期を務めるつもりであると答えました。それから、夕食で落ち着かない気持ちになっていたので、私は、政治家が使う意味で私は“頼りにならない(not reliable)”かもしれないが、大統領に真実を語るので、私は信頼できると付け加えました。私は政治的に誰の味方でもなく、政治的な意味では頼りにならないと付け加えました。そうした立場を取ることが大統領にとって最も利益に叶うことになると言いました。

少し間をおいて、大統領は「私には忠誠心が必要だ。私は忠誠心を期待している」と言いました。その発言の後の奇妙な沈黙の時間が流れ、私は身動きせず、何も語らず、表情も変えることはありませんでした。私たちは、黙って、ただお互いを見つめ合っていました。それから会話は始まったのですが、夕食の終わりが近くなった時、大統領は再びこの問題に言及しました。

以前、私はなぜFBIと司法省がホワイトハウスから独立していることが重要なのか説明したことがあります。それはパラドックスだと言いました。すなわち、歴史を見てみると、何人かの大統領は、“問題”は司法省から発生するため司法省を(ホワイトハウスの)支配下におくべきだと判断したことがあります。しかし、(ホワイトハウスと司法省の)境界を曖昧にすることは、最終的には、司法制度と司法の役割に対する国民の信頼を損なうことになり、問題をより困難なものにしてしまいます。

夕食が終わりに近づくと、大統領は私の仕事の問題に話を戻し、私が留任を望んでいるなら非常に嬉しいと言い、私についてジム・マティス(国防長官)やジェフ・セッション(司法長官)から高い評価を聞いていると付け加えました。さらに大統領は「私には忠誠心が必要だ」と言いました。私は「私はいつも大統領に対して正直です(You will always get honesty from me)」と答えました。大統領は一呼吸おいて、「私が欲しいのは、まさにそれだ。正直な忠誠心だ(honest loyalty)」と言いました。私も一呼吸おいて、「私からそれを得ることはできます(You will get that from me)」と言いました。夕食後、すぐに私はメモを書いたのですが、私たちは“正直な忠誠心”という言葉を異なった風に理解していた可能性があります。しかし、そのことをさらに議論しても生産的ではないと思っています。“正直な忠誠心”という言葉を使うことで、非常に奇妙な会話を終えることができました。私の説明で大統領が期待すべきものは何かが明確になったと思います。

夕食中、大統領は1月6日に私が大統領に背景説明した際どい内容の資料に言及しました。大統領は以前と同じように、その説明(allegations)に不快感を示し、強く否定しました。大統領は、疑惑の対象となっている事件が起こっていないことを証明するために私に捜査するように命令すると言いました。私は、事件を捜査することは私たちが大統領を個人的に捜査している(実際は捜査していない)という噂を生む可能性があること、事件が起こっていないことを証明するのは非常に難ししことから、大統領は(捜査について)用心深く考えてみるべきだと答えました。大統領は自分も考えてみるが、私にも考えるようにと言いました。

大統領との会話をメモに取ることが習慣になっていたので、夕食の直後、詳細な内容をメモにして、そのメモをFBIの幹部に見せました。

2月14日の大統領執務室

2月14日、私は予定されていた大統領に対する反テロリズムに関する背景説明を行うために大統領執務室に赴きました。大統領は執務机に座っており、私たちのグループは机のこちら側に半円形に置かれた5つの椅子に、大統領と対面する形で座りました。副大統領、CIA副長官、国家反テロセンター長官、国土安全保障長官、司法長官、それに私が半円形に置かれた椅子に座りました。私は直接大統領と向かい合い、CIA副長官と国家反テロセンター長官の間に座りました。部屋には他に少数の人がおり、私たちの背後に置かれた椅子に座っていました。

大統領は背景説明を終わるように指示し、グループの面々に謝意を表し、全員に向かって、私と二人で話をしたいと言いました。私は椅子にそのまま座っていました。出席者が大統領執務室を出て行ったのですが、司法長官が私の横でグズグスしていました。大統領は司法長官に礼を言って、私と二人で話をしたいと言いました。最後に執務室を出たのは、ジャレッド・クシュナー(大統領の娘婿で上席補佐官)でした。彼も私の椅子の側に立っていて、私と社交的な挨拶を交わしていました。それから大統領は私と話をしたいので、クッシュナーに部屋を出るように言いました。

大時計の側にあるドアが閉まり、私たちは二人だけになりました。大統領は「私はマイク・フリン(国家安全保障補佐官)と話をしたい」と、話の口火を切りました。フリンは、前日に辞任していました。大統領は、フリンはロシア人と話をした際、何も間違ったことはしていないが、フリンは副大統領に間違った報告をしていたので辞めさせざるを得なかったと言いました。大統領は、フリンについて別の懸念もあると付け加えました。大統領は、その懸念について具体的な話はしませんでした。

それから大統領は、機密情報の漏洩問題について長々と話を続けました。私も同じ懸念を持っており、現在も懸念を抱いています。大統領が漏洩について数分話した後、ラインス・プリーバス(首席補佐官)が大時計の側のドアを少し開け、顔をのぞかせました。彼の背後に一団の人が待っているのが見ました。大統領はプリーバスに手を振ってドアを閉めるように合図し、「すぐ終わるから」と言いました。ドアは閉められました。

それから大統領はマイク・フリンの話に戻り、「彼は好人物で、今まで苦労してきた人物だ」と言いました。大統領は、フリンはロシア人との電話のやり取りで何も悪いことはしていないが、副大統領に誤った情報を与えたと繰り返しました。さらに「私は、あなたにこの問題をさらに追及しないでもらいたい。フリンを放っておいて欲しい。彼は良い奴だ。あなたはこの問題を終わらせることができると期待している(I hope you can see your way to let this go, to letting Flynn go. He is a good guy. I hope you can let this go)」と言いました。私は、「彼は好人物です」とだけ答えました(事実、私がFBI長官に就任した当初、マイク・フリンは国防情報局局長で私の同僚で、彼とは良い関係でした)。私は、「私がこの問題を終わらせる(I would “let this go”)」とは言いませんでした。

大統領はすぐに情報漏洩の問題に戻りました。それから私は、立ち上がり、大時計の隣のドアから外に出て、そこで待っていた大きな集団をかき分けて進みました。その集団の中にプリーバス氏と副大統領がいました。

私はすぐにフリンに関する会話の極秘のメモを作成し、FBIの幹部とこの問題について議論しました。私は、大統領は12月にフリンがロシア大使と行った会話について虚偽の説明を行った件についてフリンの捜査を中止することを私たちに要求している(requesting)のだと理解しました。私は、大統領がロシアに関する広範な捜査あるいは大統領選挙との結びつきの可能性について話をしているとは思いませんでした。私が間違っている可能性がありますが、私は大統領がフリンの辞任に関連して起こった事柄とフリンの電話の内容に関する議論にだけ焦点を当てていると解釈しました。それにも拘わらず、独立した捜査機関としてのFBIの役割からすれば、大統領の要請は非常に問題でした。

FBIの幹部は、大統領の要請で捜査に影響を及ぼさないようにすることが重要であるということで、私に同意してくれました。また、私たちは大統領の要請を守る気はありませんでした。また、私たちは、(この要請は)大統領との差しでの会話で行われたため、私の説明を裏付けるものは何もないという結論に達しました。セッションズ司法長官はロシア関連の捜査に関与したくないと思われていたので、彼に報告しても意味がないという結論になりました(セッション長官は2週間後にロシア問題に関与しないと公表しました)。副司法長官の役割は、十分に自らの役割を果たせない司法長官に代わって役割を果たすことです。

私たちは、事態について議論をした後、大統領の要請を秘密にしておき、将来、捜査が進展した後に問題の対処の仕方を決めることにしました。その後、捜査はフルスピードで進展しましましたが、捜査チームのメンバーあるいは彼らを支援する司法省の弁護士の誰一人として大統領の要請について知りませんでした。

その直後に私はセッションズ司法長官と話をしました。その機会を利用して、私は司法長官に、今後、大統領と私が直接コミュニケーションを図らないで済むように懇願しました。私は司法長官に、起こった事態(大統領の要請)は不適切で、決して起こってはならないことだと話しました。司法長官は辞任を求められており、その一方で司法長官に報告する(部下の)FBI長官はその職に留まっています。司法長官は何も答えませんでした。今まで議論した理由から、私は大統領がフリンに対するFBIの今後の捜査に言及したことは言いませんでした。

3月30日の電話

3月30日の朝、FBIの事務所にいる私に大統領から電話が掛かってきました。大統領は、ロシア関連の捜査は国のために行動する大統領の能力を阻害する“雲(cloud)”であるという言葉で表現しました。大統領は、自分はロシアとはまったく関係なく、ロシアの間抜け者とは関りはなく、ロシアを訪問した際には自分の発言が録音されていることを常に考えていたと言いました。大統領は、“雲を晴らすために(lift the cloud)”私たちに何ができるかと質問しました。私は、私たちはできるだけ迅速に捜査を行うこと、十分な捜査で何も発見できなければ、非常に良いことだと返答しました。大統領は同意し、それから捜査で自分に起こっている問題について再度強調しました。

さらに大統領は、前の週に議会でロシアに関連する公聴会が開かれた理由について質問しました。私は、その公聴会で司法省の指示に従ってロシアとトランプ政権の間で行われた可能性がある連携(coordination)について捜査が行われていることを証言しました。私は、議会の民主共和の両党の指導部からもっと情報を提供するように要請があったこと、グラスリー上院議員が捜査の詳細の説明が行われるまで副司法長官の承認を延長したことを説明しました。私は議会の指導者に対して、FBIが誰を捜査しているのか、またトランプ大統領個人はFBIの捜査対象でないことを議会の指導者に正確に説明しました。私は、以前、説明したことを大統領に思い起こしてもらいました。大統領は「私たちはその事実を公表しなければなければならない」と繰り返し言いました。

彼はさらに続けて、トランプ政権の中で何か不正なことを行った“中心的な存在でない”同僚(satellite associates)がいるなら、その人物を見つけ出すことは良いことだと言いました。しかし、大統領自身は何も悪いことはしていないと主張し、私に大統領が捜査対象でないということを公表する手立てを見つけて欲しいと言いました。

大統領は、大統領の外国との交渉能力を阻害している“雲”を強調して、話を終えました。そして、私に自分が捜査対象になっていないことをなんとか聞き出して欲しいと言いました。私は、大統領に彼に、私たちに何ができるか考えてみると応えました。そして、私たちは捜査をできるだけ十分かつ迅速に行いますと言いました。

その会話を交わした直後に、(その時、セッションズ司法長官はロシア関連の事件に関して関与しないという立場を明らかにしていたので)私はダナ・ボーンテ(Dana Boente)副司法長官代行に電話し、大統領との電話での会話の内容を報告し、私は副司法長官代行の指示に従うと言いました。それから2週間後に大統領から再び電話が掛かってきましたが、彼からの指示は何もありませんでした。

4月11日の電話

4月11日の朝、トランプ大統領から電話が掛かってきて、大統領が個人的に捜査対象になっていないことを“公にする(get out)”するようにという要請に関して、私が何をしたかという質問されました。私は大統領の要請は副司法長官代行に伝えたと答えました。大統領は“雲”は自分が仕事をするうえで邪魔になっていると返事をしました。さらに、大統領は、自分の部下に副司法長官代行と連絡を取らせると言いました。私は、要請はそうした方法で処理すべきだと応えました。ホワイトハウスの法律顧問が司法省の幹部にコンタクトを取って、その要請をすべきであり、それが伝統的なチャネルだと言いました。

大統領は「そうする」と答えて、「私はあなたに対して非常に誠実だ。非常に誠実だからこそ、こうした事(that thing)をしたのだ(Because I have been very loyal to you, very loyal, we had that thing you know)」と付け加えました。私は返事をせず、”that thing”が何を意味しているのか質問もしませんでした。私は、問題を処理する方法はホワイトハウスの法律顧問に副司法長官代理に電話をさせることですとだけ言いました。大統領は、そうしようと返事をし、電話は切れました。

これが、私が大統領と話した最後の会話です。

【以上が陳述書の全文】

6.陳述書から読み取れるもの

コミー前長官の陳述書を読んでまず感じたのは、FBIの捜査に脅えるトランプ大統領の姿である。傲岸不遜とも思われるトランプ大統領の姿は、そこにはない。小心な人物の姿である。なぜトランプ大統領とコミー前長官の関係は悪化したのか。単にFBIの捜査だけが理由だったのだろうか。また、今回のスキャンダルはどう発展するのだろうか。一部のメディアでは“弾劾”の可能性を報道しているが、実際はどうなのか。本稿は長くなったので、次回にそうしたテーマについて分析することにする

ジャーナリスト

1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。アメリカの政治、経済、文化問題について執筆。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。ハーバード大学ケネディ政治大学院研究員、ハワイの東西センター・ジェファーソン・フェロー、ワシントン大学(セントルイス)客員教授。東洋英和女学院大教授、同副学長を経て現職。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。アメリカ政治思想、日米経済論、マクロ経済、金融論を担当。著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など。contact:nakaoka@pep.ne.jp

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