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味覚障害、疲れ…「後遺症の診断書とケアが必要」コロナと戦う医師に聞く②

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
問診する医療従事者、イメージ(写真:アフロ)

宇都宮市で新型コロナウィルスの治療に年365日体制で対応してきた「インターパーク倉持呼吸器内科クリニック」の倉持仁院長が11月、東京都心部にもクリニックを開く。「その時々で、必要と思うことに取り組んできた」と語る倉持院長。

筆者は、院長と同じ1972年生まれ。院長の発言は炎上することもあるが、筆者はむしろ院長の地域コミュニティでの取り組みや、クリニックの働き手支援に関心を持っている。また、院長はTwitterや著書でコロナ戦記を記してきた。筆者も、2020年に子育て家庭や教育現場がどのような状況にあったか記録・報道して本にまとめており、100年に一度の出来事を後世に伝えることも大事だと思っている。2020年から起きたことと、倉持院長の取り組みを振り返るインタビューを5回にわたって紹介する。

1回目はこちら 

臨床医の感覚で対応する

【前回はTwitterやPCR検査を始めた理由を伺いました。後遺症フォロー外来も、早い段階から始めましたね】

【倉持】第2波のころからでしょうか。その時は、そもそも通常の医療機関で見てもらえない。保健所さんの検査体制も、全然追い付いていなかったんですね。かかった後に調子が悪いという声をたくさん聞いていて、それに対して何をどうしたらいいか分からなかったわけです。そういう患者さんには、どんな症状があるのか、まずお話をお聞きして、われわれの所でできる検査をして調べて、一緒に治療していく。最初は、手探り状態で始めたんですよ。

【時間がたってからの後遺症も言われるようになっています】

【倉持】波が来て終わると、そういう後遺症の患者さんは一定の割合で増えます。例えば味覚障害って、一般の方の認識だと、味が薄くなるとか味がしなくなるっていう感覚だそう。でも患者さんの話をよく聞くと、牛乳を飲むとコーラの味がするとか、ごま油がかかった酢豚を食べるとガソリンの臭いがするとか、単純な味覚障害じゃないんですよ。風邪の時、鼻が詰まっているから味がしないっていう、味が弱まるとか薄く感じるじゃなくて、変わっちゃうんですね。

 これは鼻の異常じゃなくて、脳の異常ではないかと。嗅球っていう、鼻の所にある脳神経自体の問題ではなくて、脳で違うふうに感じている状態なんだなって、患者さんを診れば分かるんです。それに気付き出した頃に、ブレインフォグとか不眠とかうつとか言われるようになったんですけど。

 味がしないのは嫌だから食べないとか、変な味がしちゃうから食べないって言って、避けちゃうんですね。脳梗塞になって腕のリハビリをしましょうっていうのと同じで、毎日できるだけ食べて変化があったかとか、その症状に意識をフォーカスしていくと比較的早く治っていくんですよ。違いに自分で気付く。だけどそういうことって、科学的なエビデンスがないので、臨床医の感覚で言うしかないんですけれども。

診断書があれば周囲も納得

【ブレインフォグとかうつとか、精神症状も気になります】

【倉持】コロナって、急性期疾患って思われてるんですね。それはなぜかというと、初めに国がそういうことを言ったからなんですけど、かかった時に熱がそんなに高くなくてつらくなければそれでいいっていう方針になんですが、最初の症状が軽かった人の中でも、いろんな後遺症が残ることが分かってきたんですね。

 例えばそれで、会社に戻って仕事し出したら集中できないとか、頭がぼうっとするとか、疲れちゃって動けないとか、ただのサボりじゃないのって職場からも家族からも思われるんです。それはなぜかっていうと、かかった時に軽症だったからですよ。

 重症でもないのに、肺炎にもなってないのに、そんなことになるわけないだろうっていう概念が広がっている。本人は、コロナになってから調子が悪くて全然仕事ができないんだけど、みんなにサボりだって言われて。自分の体がつらい状況なのに、どこの病院も診てくれないですし、診たとしても「分からない」って言われて。例えば頭がぼうっとするから、従来のMRIの検査をすれば何か異常が出るかっていったら、何も出ないんですね。

 今の医療の力では、コロナの後遺症を正しく判断・診断できる状態にないので、「うつ病だろう」とか言われて放置される方がたくさんいたんです。あるいは肺炎があったとて、よく中等症の2とか重症とか言っていますけど、重症ケース以外は治療しないのが当たり前になっているんです。だから怖いんですね。後遺症や、肺炎の影が残っていても、治療を受けられない状況があって、東京から受診に来る方もいますし、多分1000人ぐらいそういう患者さんを診ています。

 主に脳と筋肉と、それから呼吸機能が障害されるんですね。そういう分野の検査をして、どうもそうらしいねっていうことで診断します。まずは、周囲の理解を得ることが大事なんです。家族とか職場に、ちゃんと診断書が必要であれば出してあげて、休まなきゃ駄目だよと。どういう症状で悩んでいるか、ちゃんとくみ取ってもらう。例えば立っていると足がしびれるとか、お風呂に入って頭が洗えないとか、息が切れるとか。それで肺機能検査をやったり、筋力を測ったり、脳の検査も必要に応じてして、現状の説明をするんです。

【エビデンスは難しいけれど、診断書があれば理解を得られると】

【倉持】実際に話を聞いて検査をして、そうしたらやっぱり損なわれてるわけですよ、その機能がね。そこであなたはちゃんと休まなきゃ駄目ですよっていう診断書を出してあげれば、実はそんな深刻だったんだねと職場も初めて気付いて理解が得られ、本人の不安が取れて、やっと治療に向かえるわけです。それでしばらく定期的に通院していくと、早い人だと1カ月~2カ月、長い人でも1年たてば大体治ってきます。

 肺の薬を使ったり、筋力がないようであれば少しずつリハビリを一緒に行って、改善を確認していったり、あるいは一部、漢方薬を使ったり、いろんな方法があるんです。第1波の時に、病院内でクラスターを起こしてひどい肺炎になった看護師さんがいるんですけど、その方は呼吸不全がまだ残っていて。もう4年目ですよね。そういう方もいることは確かです。そもそも後遺症を診る医療機関が少なかったり、コロナが軽症だったら治療しなくていいよという間違った情報が広がったり、そういったことが影響していて、コロナに対する臨床医学的な所って日本はほとんど進化・進歩していないんです。(つづく)

倉持院長プロフィール 1972 年栃木県宇都宮市生まれ。東京医科歯科大学医学部医学科卒業。2015年に呼吸器内科専門のクリニックを立ち上げ、敷地内の別棟に発熱外来を作る。サーズ、新型インフルエンザ等を経験し、栃木には工場があり海外との往来も多いためだった。他に、働き手のために院内保育園を開設、市の病児保育事業もしてきた。

コロナ禍では2020年12月に自院でのPCR検査を開始。その後、PCR検査センターを5箇所に設置(宇都宮・那須塩原・浜松町・大宮・水戸)。2021年3月 コロナ軽症〜中等症専用病棟を10床設置。2021年8月 コロナ患者専用の外来点滴センター開設。2022年4月コロナ接触者用臨時外来(テント、後にバス)設置。著書に『倉持仁の「コロナ戦記」 早期診断で重症化させない医療で患者を救い続けた闘う臨床医の記録』

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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