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「1億円かけてPCR検査を始めた理由」コロナと戦う医師に聞く①

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:アフロ)

宇都宮市で新型コロナウィルスの治療に年365日体制で対応してきた「インターパーク倉持呼吸器内科クリニック」の倉持仁院長が11月、東京都心部にもクリニックを開く。「その時々で、必要と思うことに取り組んできた」と語る倉持院長。院長の発言は炎上することもあるが、筆者はむしろ院長の地域コミュニティでの取り組みや、クリニックの働き手支援に関心を持っている。

筆者は、院長と同じ1972年生まれ。また、院長はTwitterや著書でコロナ戦記を記してきたが、筆者も2020年から子育て家庭や教育現場がどのような状況にあったか記録・報道して本にまとめており、100年に一度の出来事を後世に伝えたいと行動している。

2020年からの倉持院長の取り組みを振り返り、医療の課題や今必要なことを連載で考えたい。

【倉持仁さんプロフィール】

1972 年栃木県宇都宮市生まれ。東京医科歯科大学医学部医学科卒業。2015年に呼吸器内科専門のクリニックを立ち上げ、敷地内の別棟に発熱外来を作る。サーズ、新型インフルエンザ等を経験し、栃木には工場があり海外との往来も多いためだった。他に、働き手のために院内保育園を開設、市の病児保育事業もしてきた。コロナ禍では2020年12月に自院でのPCR検査を開始。その後、PCR検査センターを5箇所に設置(宇都宮・那須塩原・浜松町・大宮・水戸)。2021年3月 コロナ軽症〜中等症専用病棟を10床設置。2021年8月 コロナ患者専用の外来点滴センター開設。2022年4月コロナ接触者用臨時外来(テント、後にバス)設置。著書に『倉持仁の「コロナ戦記」 早期診断で重症化させない医療で患者を救い続けた闘う臨床医の記録』

どこで受診?Twitterが役立った

【先生は独自の取り組みをしてきましたが、まず2020年8月にコロナ発熱外来サポートデスクのTwitterアカウントを作成したきっかけはなんですか?】(以下、筆者)

【倉持】(以下、敬称略)当時、患者さんが受診できなくて、どこで診てもらえるか情報交換をしていました。「News23」っていうテレビ番組にコメントを頼まれた際、都内で感染した妊婦さんの奥さんがいる男性の報道をしたんですね。私は「コメントするのはいいんだけど、この人困ってるでしょう」って言って、私の知っている先生とか何人かに聞いたんですけど、どうしようもなくて。

 それで、困ってる人がいます、誰か助けてくださいってTwitterで発信してみたら、その地域の人が細かい情報をすぐ教えてくれたんですね。ここは診てくれますよとか。これはすごく役に立つと気付いてサイトを作って、もらったダイレクトメールの情報をそのままそこに載せると、隣の市に行けば診てもらえますとか、情報ツールとして役に立ったんです。ダイレクトメールをサイトに載せる役割だけ、うちの職員にやってもらってですね。その地域の情報がどんどん集まる。しばらく受診できない、よく分からないって状況が続いた間は、流行が来るとそのニーズが高まって使われていた感じだったんですね。

 その後も、私のTwitterに「どうしたらいいですか」みたいな相談はあって。今は遠隔診療、オンライン診察ができるようになりました。最近の話ですけど、いつも診てくれてる先生も診られない、往診してくれてるファストドクターみたいなのも後日じゃないと来られないなんていうケースがあった。その時は私がたまたま東京にいたので、隣の千葉県だったんですけど、そこまで行って診てきたこともあります。

PCR検査を始めた本当の理由

【早期診断のために精度の高いPCR検査を自院でできるようにしたり、2020年から独自に取り組んだ流れについてお話しいただけますか】

【倉持】最初は2019年の11月に、妙な肺炎が出たらしいよって話になって、2月ぐらいにわれわれの病院に、中国から帰ってきた人でコロナかもっていう患者さんが受診して、検査を希望されたんですね。

 その時に保健所さんに「コロナかもしれないから、検査をやってくださいよ」って話して、2時間、3時間やりとりしたんですけど、結局検査はやってもらえなかった。医者が必要だって認めて、患者さんもやってほしいって言ってるのにやれないという事態に初めて出くわしたんです。通常の医療で、今まで皆保険制度の中でそういうことはなかったので。同じケースが何度も続いたんですね。

【保健所がやらない理由は何だったんですか】

【倉持】それは、後からだんだん分かりました。当時、50万人の人口の宇都宮でPCR検査できる体制って、1日12検体だけだったんですよ。さらに保健所は、国が作ったルールに従ってしか検査できないので、1人の患者さんに対してサンプルを2通り、確か唾液と鼻で両方採って12人分のキャパしかなかったですね。だから当時、保健所さんはそういう必要性が出ると現場にやってきて、サンプルを採取して自分たちで検査していたので、キャパシティ的に検査できないっていう状況で。

 その検査に使われる機器類も、全部指定されていたんですね、鼻をぐりぐりする棒はイタリア製のこれを使わなきゃいけないとか、お料理作るのに貝印の菜箸でやらなきゃいけないみたいなのが。第1波の時って、イタリアとかヨーロッパから物が入ってこなくなった。だから国が作ったマニュアルどおりにやろうとすると、材料がなくてできない。元々キャパシティがない。そういう理由で、検査を絞らざるを得なかったっていうのが後から分かったんですけれども、これはちょっと困ったなと。最初は、診断するためにCTとかで代用して、症状がひどい患者さんを見落とさないようにしていました。

【明らかに肺炎が見えるという方だけ?】

【倉持】そうですね。それでレントゲンの装置もコロナ患者さん専用に駐車場の隣に作って、怪しければCTも撮ろう、と始めていたんです。ちょうど安倍総理がいらっしゃった時の2020年の5月ですかね、ずっと一般の検査会社でも検査できるようにしようっていう流れがあって、そこでやっと一般の検査会社に検査が出せるようなルールを国が作ったんですね。でも今度、そこに乗せてやろうとすると、まず市とか県と契約しなきゃいけないんですよ、コロナの検査をしますと、受託するみたいに。

 保健所の職員が採って検査せよっていうのが国のマニュアルであったのが、今度は国側とか県がそれを委託するからその医者がやるべしと。今思えば指定感染症、今の感染症法の2類とか5類とかいった枠内でそういう仕組みを動かそうとしていたんですよね。結局、検査もなかなかできない。市とか県との契約の手続きだけで1カ月かかったりですね。そのうえ、検査会社に外注に出す。それがまた時間がかかる。1日~2日かかってしまう。

 あとは当時、PCR検査って1万5000円ぐらいだったんですけど、そのまま医療機関がお金を払うんですよ。だから防護服を着てN95マスクを着けてサンプル採って、それで検査に出すと、赤字になっちゃうんですね。患者さんからはお金を取れないんですよ。保険診療内で認められたケースでやった場合には、1万5000円の検査代をもらったら、1万5000円をそのまま検査会社に払う仕組みになっていたんですね。利益が全然出ないんですよ。そうすると誰もやらない。

 一方、患者さんの診断には、必要なのでやるしかないでしょうって、まずは外注でお願いしたんですけど、検査すればするほどお金が払えなくなる。うちがつぶれちゃうっていうことで、その年の第2波の時だった。ちょうど「モーニングショー」とかテレビに出て知ったんですけど、その月だけPCRの補助金が出ていたんですよ。これはもらわなきゃと思って、でも知ったのが9月だったんですね。「その補助金制度は8月でもう終わってます」と。

 さらに言うと、当時PCRの機器があちこちで必要になり、機械自体がない。補助金も出ない。患者さんを診ることは必要ですけど、検査をやればやるほど病院の持ち出しになって、病院が維持できなくなってしまう。こうなったら補助金なんか関係ないと、11月に機械をそろえたんです。その時に、8台ぐらいPCRの機械があって、全部買いました。あと安全キャビネットといって、患者さんの感染性のサンプルを安全に扱えるブースみたいのがあるんですよね。陰圧になっていて、中で手を入れてドラフトっていう作業をするんですけど、ちょうどあったので、買ってですね。

医学に必要なことをやっているだけ

【ちなみに、おいくらぐらい使ったんですか】

【倉持】多分、PCRが一台400万ぐらいしてですね。安全キャビネットが500万ぐらいして4台買ったのかな。それ以外にマイナス70度の冷凍庫とかが必要で。1億近く使って、お金がないから銀行に借りるわけです。

 でも私は、基本的に医学に必要なことをやっているだけなんです。自分の経験に基づいて、例えば受診できない患者さんが受診できるようにするとか、検査をして正しく診断する。それをやっていくために、行政に頼んでもなかなかやってくれない、保健所さんだと大変過ぎる。検査会社に出せば、お金がもたない。だったら自分で借金してでも、必要なんだからやりましょうって。

【患者さんの費用は、途中で安くされたんですね】

【倉持】検査自体は、自費の患者さんに関しては、最初1万5000円で始めて、途中から5500円に。宇都宮市民がメインだったんですけれども、ここに行けば検査と診断ができるようだって知られるようになった。元々、クリニックには発熱外来を作ってあったんです。いろんな感染症の経験をしていたので、隔離スペースがある。検査できて換気がされて、紫外線で殺菌できる部屋ですね。それで検査さえできれば、速やかに診療ができる体制ができたんです。PCR検査を始めたのが、2020年のクリスマスイブでした。

 そこで、他の地域でなかなか検査できませんっていう相談がTwitter上でもいっぱいあって、できる所から作っていきましょうと。最初は県内の那須塩原市から言われたんです。「観光客が多い所で、でも検査してくれる病院がなくて何とかしてくれませんか」って。それで市と協力して検査体制を整えて、宇都宮から行きやすい水戸にも作って、大宮も作って、あと東京の浜松町ですね。

 那須塩原市だけは頼まれたんですけど、それ以外は検体がちゃんと安全に運べるところを選びました。あんまり遠いと古くなって正確な結果が出せなくなってしまいますので。水戸、大宮、浜松町で採ったものを宇都宮に持ってきて検査したんです。

(つづく)

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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