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入学式「欠席を決断」「前日に中止」「出てよかった」…それぞれの思い

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
例年なら喜びも大きい入学シーズンだが…(写真:アフロ)

例年なら、真新しいランドセルや制服を身に付けた子どもたちの笑顔が見られる季節。新型コロナウイルスの感染拡大により4月7日、緊急事態宣言が出され、入学式の延期・中止など急な変更が相次いだ。決行した学校でも「迷った末に欠席した」「出られてよかった」と保護者たちの意見が分かれた。振り回されたモヤモヤが残るだけでなく、新学期の自宅学習や、子どものケアを心配する関係者は少なくない。

〇入学式当日の朝、欠席を決断

感染防止のため「密集・密接・密閉」を避けなければいけないと言われている中で、大人数が集まる入学式に抵抗を感じるー。そんな声は、各地で上がっていた。

東京都中央区に住むAさんの家庭は、悩んだ末、6日に開かれた区立小学校の入学式を欠席した。筆者の「学校再開・休校延長」の記事を見たということで、父親のAさんから、「中央区についても取材してほしい」とメッセージをいただいた。入学式までの動揺と、いま思うことを聞いた。

入学式をどうするか、いつごろから考えていたのですか。

先週は仕事が忙しく、4月3日のお昼ごろまで、「当面は休校だから、入学式もなくて当然」と思っていました。翌週に緊急事態宣言が出るかもしれないと言われているタイミングでしたし…。

妻に「6日月曜に入学式。その後、給食ありで3日に一度の分散登校をする」と聞き、慌てました。子どもはYouTubeに夢中で、特に何も感じていなかったようです。

数十人が参加する保護者のグループラインが、騒然となりました。欠席するか出席するかで、真剣にやりとりしました。私は行かないのが当然だと思い、入学式なしで休校になることを願っていました。

どのような働きかけをしましたか?

学校のサイトでは、実施を前提とした告知で、学校に連絡を入れました。私の思いをお話ししたところ、「現場も混乱していて、先生たちもどうなるかわからない」とのことでした。

とても丁寧に対応してくださいました。わかったことは、学校側は区の指示を待っていること。そこで、教育委員会に電話をしました。「保護者の間で、欠席か出席かで揺れている。自主判断でお休みしていいのか?そういう声が出ている」と伝えました。

「一斉休校しないと意味がない。登校した児童がいる限り、潜伏期間の問題があるから、他の児童はいつ合流すればいいかわからない。完全なリスク回避回避はできない」「学校側は、こうしている間にも、指示を待っていますよ。柔軟な姿勢と、迅速な対応を見せてほしい」と話しました。

また、「金曜日の今日中に決めないと、明日から土日で、フレキシブルな対応ができないのでは」と話しました。世田谷区は、金曜日に分散登校日と入学式の取り止めを発表していたからです。

入学式前の週末はどうしていましたか?

金曜日の夕方、ツイッターに投稿を始めました。区議会議員につながって、区長に働きかけの要望をしました。

土曜日にもう一度、区の教育委員会に電話したらつながらなくて、警備員に、担当者がいるのは月曜日からですと言われました。みんなが待っているサイトの更新は金曜日の日付けで止まり、土日は動きがありませんでした。この間、保護者の間では大混乱です。

当日の決断と、いま思うことを教えて下さい。

そのまま月曜日の入学式当日になり、緊急事態宣言が出る気配が濃厚な中、入学式は決行。サイトは「分散登校は、今週だけなし。その後は検討する」という内容に、やっと更新されました。

入学式は、我が家は欠席しました。決めたのは、当日の朝です。ギリギリまで、区の判断を待っていたので。

ある段階までは、半分以上の家庭が行かないつもりと聞いてましたが、前日の夜、校庭での入学式に切り替わると連絡があり、8割ぐらいの方が出席したらしいです。行っていないので、正確にはわかりませんが…。

区には、こういう流れになった説明をしてほしいです。なぜ、学校再開にそんなにこだわったのか、話し合いの過程を知りたいです。

〇「迅速な対応と説明、必要だった」

ある政治家は、中央区の対応に関して、こう語る。

「3日に一度の分散登校については、かなりの苦情の声が寄せられたそうです。ギリギリまで判断を遅らせたので、不満の声は当然でしょう。教育委員会も苦労していて、職員一人ひとりが頑張っているのは事実です。

一方で世田谷区長は、先週金曜日中に、分散登校や入学式の緊急取り止めについて、ウェブサイト上で真摯に謝罪しています。そういった対応が必要だったのではないでしょうか」

〇都立高、入学式前日に延期決定

高校生の子を持つBさんは4月6日、テレビのニュースを気にしていた。「あした、東京都立高の入学式なんですが、緊急事態宣言が出たら、どうなるかと思って…」

入学式後の休校は決まっており、オンライン授業の案内も受けたという。受験勉強のためにタブレットを買い、通信環境も整えていたため、その点は問題がない。せっかく合格した学校だから、入学式は祝いたかった。保護者の参列は認められなかったが、学校の外から見守りたいと思っていた。

だが、親子ともそれなりの距離を電車で移動することになる。感染が拡大する中、「移動していいものか?大人数で集まっていいのか」という心配があり、そもそも入学式が開かれるのかどうかもわからず、やきもきした。

Cさんの子どもは、自分自身で「高校の入学式を欠席する」と決めていた。親としては、「節目なのだし、出席を勧めたほうがよかったのではないか」と悩んでいた。結局、都立高の入学式の延期が、前日の夕方に決まった。

〇出席か欠席か…考え分かれた

このように、入学式の前後、モヤモヤと悩んで過ごした保護者は少なくない。入学式というのは、それぞれの成長段階で一度きりのイベント。保護者も子どもも、これからも頑張ろうと前向きになる大切な日だ。そうした心情を尊重し、心配なく出られる時期まで、早めに「延期」を決断する選択もあったと思う。

子どもを持つ医師から筆者に、「入学式・始業式を取りやめるよう、発信して」というメッセージが届いていた。

「罹患率が高い自治体の、人数が多い学校だったら、私は出席しません。取るべき社会的距離と言われている2メートルは、確保できないでしょう。私たち医師は、自分の子に触れるのも、一緒に食事をするのも避けています。ある医師は、自宅に帰るのをあきらめて、我が子に会えない。いつまで続くかもわからず、こんな悲しいことはありません。

一般の人だって、親か子どもが感染したら、同じことが起きます。家にいて子どもと過ごせる、一緒に食事できるのは、当たり前のようですが、かけがえのないことです。もっとそれを実感してほしい」

各地でも、入学式を急きょ、延期や中止にした自治体もあるが、決行した学校も多い。校庭で開いたり、座席の間隔をあけたり、体育館の窓を開けたままにしたりと対策を考えたようだ。反対派ばかりではなく、「節目の行事は、縮小しても開いてほしい」「参加できてよかった」という保護者や子どもの声もある。

「出席したい。でも感染リスクがあるなら、命を優先する」と迷いに迷って入学式を欠席した家庭と、出席した家庭。双方の間で今後、ぎくしゃくする場面もあるかもしれない。

〇休校中の生活・学習・心身のケアを

この記事は、自治体や学校の批判をするものではない。誰もが経験したことのない事態であり、現場の先生たちが迷いながら頑張っているのは、多くの人が理解している。

ただ、重大な方針を決める際に、「当事者の心情の尊重」「素早い判断と説明」が欠かせないということが、改めて浮き彫りになった。保護者もまた、こういうときにどう行動するか、考えるきっかけになっている。

そしていま、本来なら一から人間関係や生活リズムを築く新学期が、宙ぶらりんの状態だ。教科書やドリルすら手元になく、休校中の子どもの過ごし方・オンラインを含めた学習・心身のケアについて、具体的な対応が求められている。

もちろん、同じように疲弊してストレスを感じている保護者や先生たちのサポートも、忘れてはいけないと思う。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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