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「休校家庭にお弁当配布」3.11経験した福島のママが今、行動する理由

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
11日、福島市の子どもカフェたまごで配布したお弁当(フェイスブックより)

福島市の子ども食堂「子どもカフェたまご」は11日、市販のお弁当を100円で提供した。新型コロナウイルスの影響で突然の休校になり、留守番している子どもたちや、食事作りが大変になっている親たちのために企画したという。子どもカフェ代表の斎藤真智子さん(43)は、東日本大震災を経験した母親でもある。思いがけず3.11当日の活動になり、改めて「地域で、つながりを作ることの大切さ」を思う。

○子ども食堂と学習支援、3月は中止

子どもカフェたまごは、2018年に斎藤さんが始めた子ども食堂だ。月一回、土曜日に昼食を提供し、その後は工作をして楽しむ。毎月、小学生を中心に50人ほどが利用する。

それ以外に、学習支援の日も設けており、子どもたちと一緒に宿題したり、おやつを食べたりしている。学習支援は20人ぐらいが参加する。会場は、地域の集会所を借りている。斎藤さんのママ友やかつての同僚など、7人が中心スタッフで、ボランティアが加わる。

参加費は大人が300円、子どもが50円。企業や自治体等の助成金を得て、年間に必要な資金の3分の2ほどは確保し、食材の提供もあるが、すべてはまかなえず、スタッフが負担している。

3月は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、子ども食堂や学習支援も中止になった。休校で困っている親子のために、支援を決めた。「今回の休校では、親が働いていても働いていなくても、週の真ん中あたりは食事作りがきつくなってくると思って、水曜日に設定しました」。11日は、市販のお弁当を用意して、100円で配布。57個を、いつも活動している集会所で渡し、持ち帰ってもらった。3月中は週に一回、何か提供したいと考えている。

○震災後、母子で避難した

斎藤さんは、小学6年生の子を持つ。「調理や託児の仕事をする中で、地域に難しい家庭があると気づきました。核家族化が進み、ひとり親も増えています。団地は共働きが多く、子どもだけで留守番する家庭もあって、子どもが孤立しています。学童保育は近くにあるものの、入りたい時に入れない人もいます」

斎藤さんの子は、小さく生まれて大変な時期もあったという。東日本大震災が起きた2011年3月は、4月に幼稚園に入る直前で、制服もそろえ、日常生活を送っていた。ところが、福島第一原発事故の影響と子どもの体調を考え、震災の1週間後には、母子で県外に避難することになった。

福島市の幼稚園に籍を置きながら、避難先で保育所の一時預かりなどを利用し、行ったり来たりの生活をした。小学校入学を機に、福島市に戻ることを決め、最後の半年は幼稚園に通えた。

〇地域のつながりを作っていきたい

震災後の不安定な生活だけでなく、子育ての過程で、いじめや発達上の悩みも経験している斎藤さん。孤立する子どもたちや、高齢者の支援をしたいとの思いが強くなり、子どもカフェを始めた。

今回、休校中の支援活動の初日が、3月11日になった。「お弁当を受け取りに来た子どもたちには、今日は震災のあった日だから、心を寄せてね、と呼びかけました。いる場所はそれぞれだけど、同じお弁当を食べて、祈りを深めて、つながっているねって」

斎藤さん自身も、震災後の生活を振り返り、目標を再確認した。

「一人暮らしの高齢者や、高齢者だけの世帯も多いので、このカフェを利用してほしいです。子どもと高齢者をつなげるために、新年度は、地域の人にもっと協力を呼びかけていきたい。こういう時だからこそ、自分にできることを考え、地域とのつながりをゆっくりでも作っていけたら」

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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