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小1の新たな居場所「民間学童保育」・放課後に英語教育は必要?

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
英語は大事だが…(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

来年4月に小学校に入学する家庭は、学童保育探しをして放課後の過ごし方を考えていると思います。保育園と違って学校は早く終わってしまい、公立の学童保育は、地域によっては満員…。子どもを狙った事件やSNSがらみのトラブルが報道される中、夏や冬の長期休暇もあり、心配は尽きません。「英語や習い事をさせたいけれど、働く親の送り迎えは難しい」という問題も。そうした悩みに答える、民間企業が運営する学童保育が増えています。その実態はどうなのでしょうか。

〇公立学童保育は「遊びと生活の場」

筆者の娘は昨年、学校で初めての夏休みを迎えた。保育園は長期休みがなかったから、働く親にとっても初めての経験だ。

土曜や延長の保育も利用し、娘も保育園が大好きだったので、早く終わってしまう学校に入る時は心配があった。1年生時は、保育園並みの時間で預かり可能な公立の学童保育が、娘にとり大切な「居場所」だった。予定より早く迎えに行くと怒るほど。

夏休みの学童は、スポーツやお出かけなどイベントがあって、保護者会が有料でお弁当を出してくれる日も。2年生以降は1年生優先のため入れない家庭が出てくるという問題はあるが、とてもありがたい。

公立学童は定員がいっぱいで入れない、もしくは詰め込みで環境がよくないという課題はあり、厚生労働省の基準によって指導員の研修や質を上げる工夫はしている。ただ国が「遊びと生活の場」と定めるように、もともとは「何かを高める場」としてあるのではない。

公立学童で「学校の宿題をやろう」という時間はあるものの、子どもによってやるかやらないかは様々だ。Aさんは「学童での勉強は自主的なもの。お姉ちゃんはやるけど1年生の息子には期待していません」。3児の母・Bさんは「長男は学童で宿題をやってこないから、帰宅して母親が見る」。仕事の融通が利くCさんは「夏休みは朝、親が課題をセットして自宅で勉強させてから送りだします。そうしないと全く勉強しないと思う」と話す。

確かに幼児は遊ぶのが仕事だが、学校では1日に4~5時間の授業があって何かを学んでいる。でも、夏休みになったら全く授業がなくなってしまう。

〇送迎に習い事…至れり尽くせりの民間学童

こうした「公立学童に入れたら安心だけど、遊びっぱなし」の現状に疑問を感じる親たちが選ぶのが民間学童だ。学校から学童へスタッフが連れて行き、帰りは自宅まで送ってくれるところも。別の場所での塾や習い事への中抜け送迎もある。さらにピアノ、英語やプログラミングなどオプションの習い事、夜遅くまでの預かり、夕食といった至れり尽くせりのサービスに驚く。夏休みはキャンプやテーマパークへのお出かけオプションまで用意されている。

ベネッセ教育総研によると、小学生の習い事で1990年には5位だった英語が2015年には3位に上昇。「ケイコとマナブ」のサイトによるランキング(2016)を見ると、「習っている」の1位は水泳だが、「習わせたい」は英語が1位。習わせたい10位にパソコン関連がランクイン。筆者も、この1年でプログラミングの体験会や教材をよく見かける。英語やプログラミングが小学校で必修になるのに向け、民間学童でもいち早く乗り出しているようだ。

民間学童の費用は高く、週に5日行ったら、月に5万~10万円ほどかかるところが多い。オプションによってはさらに費用がかかることもある。それでも「保育園に代わる安全な場所が得られて、習い事まであるなら」と出費を惜しまない親がいる。特に都心部で民間学童が人気で、そこには背景がある。地方出身だったり高齢出産で祖父母も高齢だったりで、困った時に子どもを見てくれる身内がいない親も多い。職場でワーキングマザーが増えた今、時短勤務も続けにくくなる。

〇居場所の確保と刺激のために

だが、こうした必要に迫られて利用する人ばかりではない。Dさんは、英語やプログラミングができる民間学童と、公立学童を併用している。事情を聞くと、来年は公立学童に入れないかもしれないので、今のうちに居場所を見つけておくためではある。

ただ「公立の学童は夜7時半に終わってしまうから、遅くまでの民間学童が必要」というわけではない。Dさんの子は毎日、とりあえず公立学童に行く。週に2日、民間学童から迎えの車が来て、プログラムが終わったら7時ごろに学校近くまで車で送られてくるのを親が迎える。「公立学童で遊ぶだけではなく、何か刺激を与えたい」という理由で行かせているようだ。

筆者と娘もその民間学童を訪ねて英語とプログラミングを体験した。アメリカンな内装にノリノリの音楽が流れ、社長からカラーコピーした英語の教科書を見せられた。

プログラミングは娘が以前に幼児教室で体験した簡単なものとは違って、専任の先生もついて本格的。筆者にはとてもわからないし、娘も難しいという。体力のある男子たちは、英語の歌に合わせて体を動かし、ゲーム感覚でタブレットに触れるプログラミングに目を輝かせていた。

社長に何気なく聞いてみると、近くの人口が増えているエリアにもう1件、民間学童を出すという。やはり「学童」はビジネスなんだ……。頭がくらくらした。良かれと思って紹介してくれたママたちには「学校が終わって、ここに来てプログラムをこなすのは刺激が強すぎるかな。体力のある子にはいいかもね」と説明し、我が家は撤退した。

〇将来見据え「オールイングリッシュ」

他に「オールイングリッシュ」の民間学童も人気だ。スタッフとの会話はすべて英語でレッスンプログラムもある。預かってくれて、英語を仕込んでもらえるならという親心はわかる気がした。学校の友達が通っている英語の学童を見学してみた。

やはり車送迎で、外遊びできる公園のそば。先生も正職員が多いという。外国人の先生や非正規スタッフは定着しないので、その点は安心だと思った。英語を自然に身につけるためメソッドがあるようだった。送迎車もドライバープラス、もう1人スタッフがいる。各地に支店があり、運営母体も大きい。

レッスンを体験した娘も楽しそう。でも初めての学校生活に疲れている1年生が、車で来て「ノージャパニーズ」で夜まではつらいのでは? と感じた。

いまどきの公立小学校では1年生から英語の授業があって、娘もイギリス人の先生に教わった言葉を復唱している。確かに筆者も英語教育には興味がある。

オ―ルイングリッシュの民間学童に通わせているママたちに聞いてみた。実は行っている子のうち、何人かは辞めたがっているという。Eさんに「親自身の、英語をどうしてもやらせたいという強い思いが必要です」と言われ、それはそうだと納得した。若い世代の親は、我が子が将来、海外の大学で学ぶにも就職するにも、英語ができなければ不利になると考えているのだろう。

他のエリアで英語の民間学童に通わせるFさんにも聞いた。「内容はハイレベルだけど、中途半端な時間に終わる。職場から駆け込みで迎えに行かなければならなくて不便」。Gさんは、自宅近くの英語の学童を利用する。放課後に夜7時までと聞き、「〇〇ちゃん、どう?疲れない?」と聞くと歯切れが悪く、こう言った。

「うん。疲れてるかも……」

(後編に続く。講談社現代ビジネスに掲載の記事より)

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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