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「ママが2児を置いて家出」の映画に共感する理由

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
4月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

2児のママが子どもを置いて家出し、パパが仕事をしながら慣れない育児をすることに…。そんなストーリーのベルギー・フランス映画「パパは奮闘中!」が4月27日から公開されます。子育てに家事に仕事に全力を尽くしているママが、共感するエピソードが盛り込まれています。

タイトルを見て、「男女平等」が進んだ国の素敵な子育て物語かなと思い、試写会に足を運びました。ところが、映画に出てくるエピソードはとてもリアルです。幼い2人の子がいる働くママが、行方不明に。パパは勤め先の様々なトラブルに対応しつつ、おばあちゃんやパパの妹を呼んで子どもたちの世話をして、なんとか生活します。

●家出したいママは多い?

実際に、「家出したい」と思ったことのあるママって、少なくないのではないでしょうか。

映画のママも同じ状況でしたが、「子どもの命を預かる」という仕事は、1日も休みがありません。さらに誰かが家事をやらなければ、ごはんも出てこないし、洗濯ものはたまるし、家の中がぐちゃぐちゃになります。

筆者も娘が幼いうちは、授乳や子どもの病気や会社勤めが大変すぎて、「何もかも休みたいなあ」と思う日がありました。疲れ切って起き上がれなかった土曜に娘の相手ができず、「私ってネグレクトしている?」と怖くなりました。寝込んでいた日曜、夫が娘を連れて出かけてくれたのですが、「食べる物を買ってきて」と頼んだら「子どもの世話をしたのに、食事の用意もないの」と怒られて絶望した日もあります。

娘が学校に入ってからは、毎朝、起こして食べさせて送り出して、学童保育へ迎えに行って、ごはんに宿題に翌日の支度。トラブル対応や先生とのやり取りなど精神的な疲労も多く、「夫と娘の2人で生活してみてほしい。そうすればこの大変さがわかるのでは」と思い詰めました。

●励まし合いはできるけれど

もし筆者が子どもを放って家出したり、迎えに行かなかったりして、代わりに対応する身内がいない場合、ネグレクトになってしまいますから、実行はしていません。仮に家出して外泊すればお金がかかり、娘の身の回りを全て整えた上で夫に頼んでの外出は、出張の時だけです。

身内は遠方・高齢で、何かを頼める状況になく、夫の出張や単身赴任のためワンオペ育児期もあります。筆者には、保育園のママたちや習い事を通したコミュニティがいくつかあって、程よい距離を保ちながら仲良くさせてもらっています。でも、重すぎる付き合いはNG。それぞれに、子どもを育て、仕事や介護があります。励まし合っていくことはできても、必要以上に寄りかかったら、お互いに「人生の川」を泳げなくなってしまいます。

●あっちもこっちも頭を下げ

サポートが十分とは言えない中、子育てに家事に努力した上で、仕事では「子どもの命を預かっているので、融通が利かなくて申し訳ないです」と頭を下げなければならないのがママです。

先日、筆者は大事な仕事の打ち合わせがありました。その日は娘の体調が悪く、「早く迎えに来て」と泣きつかれ、急いで帰る必要がありました。

本題に入るまで時間がかかってしまい、自分から話を切り上げる形になり、「子育て中の人は、仕方ないなあ」という空気に。プロジェクトの企画を採用され、任せてもらっているのはありがたいので、「これからも前向きにやりたい」という希望を伝え、「予定がわかれば、子どもを預けて仕事できます」「急に病気して、予定を変えてもらう日が年に1回ぐらいはありますけど」と笑顔を作りました。

それから電車に飛び乗り、タクシーを降りて走って行ったら、待ち合わせの場所に娘がいません。探し回ったところ、勝手に自宅に帰っていました。仕事先に頭を下げ、娘を思って駆けつければ肩すかしで、泣きたかったです。

ママがいない生活の中で、事件が起きた
ママがいない生活の中で、事件が起きた

●「子育て中なのに仕事するの?」

「女性が活躍できる社会に」なんて言われても、まだまだ偏見はあります。ある年配の男性に、「子育て中なのに、取材しているの?」「旦那さんがいるんだから、働く必要ないじゃない」「出張なんて、よく旦那さんが許すね」と言われてびっくりしました。バリバリ働いて人脈も豊かな人なんですが、そういう考えが割とスタンダードなんですよね。

家庭という「組織」は、「子どもの命を預かり、運営する人」がいないと成り立たず、それが主にママである場合が多いです。子どもが急に病気になれば、筆者が迎えにクリニック受診にと奔走し、仕事のリスケジュールや習い事のキャンセル連絡に頭を下げ続けます。

男女同権が身についている若い夫婦は分担できるでしょうし、「専業主夫」や家事・育児が得意なパパもいますが、まだ少数でしょう。筆者も含めて多くのママが、子どもと家庭に365日、責任と愛情を持ちながら、仕事を続けたいと模索しています。

映画では、パパが仕事で起きるトラブルに対応しながら子どもたちの世話をし、度重なる試練にパニックになって「ママのせいでこうなった!」と爆発する場面があります。子育て中のママなら、「あー」と声を上げますね。その全部を、子どもたちが生まれてから、投げ出さずにずっとやってるのは、ママなんですけど、って。

パパが育児を頑張っている家庭も、ケガのケアや、ぎゅっと抱きしめて安心させるとか、季節に応じた着がえ選びとか、シリアルじゃない料理を出すとか、ママにお任せなことって結構、あるんですよ。こうした大変さは、パパがやらざるを得なくなって初めてわかると思います。

●悪気なく傷つけるパパ

パパの妹が手伝いに来てくれたのに…
パパの妹が手伝いに来てくれたのに…

映画を見ながら、単純で愚かなパパの言動に、「ママの大変さを理解してあげればよかったのに」「そうそう、パパって傷つくことを簡単に言っちゃうんだよね」と何度もうなずいてしまいました。家事や育児をしに来てくれたパパの妹にも、パパはずけっと言ってしまいます。

「無職で、夫も子どももいないんだから、いいだろ」

怒りを通り越して、滑稽でした。「いてくれて助かるよ」「子どもたちのために、もっといてほしい」という意味がこもっているって推測はできますが、身を削って努力してくれた人に、その言い方はないでしょう…。

このパパの妹は、「お金にならないけれど、次の仕事やキャリアにつなげるために、やりたいこと、大事にしたいこと」があります。組織に勤めて稼いでいるパパは、無意識にそういう妹を低く見ていたのでしょうか。筆者も会社から独立後、「持ち出しでも大事にしたい仕事」があったので、パパの妹の気持ちがわかります。

主人公のパパは、ママの大変さを追体験しつつ、仕事に子育てに奮闘して成長します。パパの悪気のない無神経ぶりが描かれ、本音が言語化されていることで、世のママたちは突っ込みながらモヤモヤがちょっと晴れるでしょう。パパにとっては、ママの気持ちや家庭運営のポイントを客観的に見る機会になるかもしれません。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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