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世界50都市以上で活動するレゲエサウンド・Pikkalが語る、今の世の中にこそ染み入るレゲエの効能

中西正男芸能記者
世界を股にかけて活動し、25周年を迎えたレゲエサウンド・Pikkalさん

 レゲエサウンド(レゲエDJ)グループ「KING JAM」のリーダー・Pikkalさん(45)。活動25周年記念ライブを7月1日に大阪・泉佐野オチアリーナで行います。21歳で単身ニューヨークへ。英語は話せない、知り合いもいない中でのチャレンジでしたが、現地での5年間を礎に今では各国からオファーが舞い込む存在になりました。今の世の中でこそ感じるレゲエの意義とは。

語学もツテもなしでニューヨークへ

 中学2年の頃にクラスメートのお兄ちゃんがレゲエを聞いていて、それが今に至る原点でした。

 最初に聞いた時は「なんやねん、このお経みたいな音楽は…」とも思ったんですけど、周りで誰も聞いていない。そのレゲエを自分は聞いているんだという高揚感や特別感もあって(笑)、聞くようになっていったんです。

 そこから、これもめぐりあわせですけど、高校のクラスにたまたまレゲエ好きのメンバーが集まってまして。レコード店に連れて行ってもらったりする中で、さらにのめり込んでいきました。

 その思いのまま、高校を出てレゲエの世界に入りまして、住んでいた泉州エリアから大阪市内に出ていく。そうすると視野が広がるし、さらに広い世界を見るためにアメリカに行きたい。その中でも、ニューヨークに行ってみたいという思いが強くなり、21歳の時に一人で向かうことになったんです。

 ただ、英語は全くしゃべれません。その時に話せたのが「thank you(ありがとう)」「you are welcome(どういたしまして)」、そしてなぜか「what’s a bridge(あの橋はなんですか)」の3つだけでした(笑)。それだけの語学力で、何のツテもないままニューヨークに行きました。

ショットガンの危機

 半年ほどは何も音楽的な活動はできず、現地の日本食レストランでアルバイトをする日々でした。ただ、徐々に人のつながりができていき、現地のクラブなどでステージに上がる機会をもらえるようになっていったんです。

 住んでいたのがかなり治安の悪い地域だったこともありますし、夜に家に戻っている最中に銃声がするとか、そんなことはよくありました。

 ニューヨークに行って2年ほど経った頃、レゲエとヒップホップのミュージシャンが順番に登場するライブに出演したんです。本来レゲエ、ヒップホップ、レゲエ、ヒップホップの順に出ることになっていたのに「日本人で出ているなんて珍しい」となって、少しでも早くこちらを出そうと主催者が順番を変えてレゲエ、レゲエとなったんです。

 そこで、本来その順番で待っていたヒップホップの出演者が激昂しまして。明らかに普通じゃないテンションでライブハウスの外に出て行った。どうやらショットガンを取りに行ったようだと。

 これはエラいことだと思ったんですけど、幸い、そこで警察に取り押さえられて銃口が向けられることはなかったんですけど、ま、ギリギリのところだったと今でも思います(笑)。

 そんな生活でもありましたが、そのうちニューヨーク以外の街からも声がかかるようになり、さらにはアメリカ以外の国からも声がかかるようにもなりました。ビザの都合で26歳の頃に日本に戻ったんですけど、ニューヨークでの5年は、今の自分の大きな礎になっていると感じています。

レゲエの効能

 これまで13~14カ国、50都市以上で活動をしてきました。その中でもレゲエの本場・ジャマイカはすごく危ない国なんです。

 大きさは秋田県くらいしかなくて、政情不安で多くの人が貧しいし、大学を出てもまともな働き口もない。何かあったらすぐに命が奪われる。「ここで暮らしていくにはどうしたらいいんだ」と考えざるを得ないし、考えても答えを出すのも難しい。そんな国でもあるんです。

 そんな中ではあるんですけど、もしくは、そんな中であるからこそ、そこで生まれたレゲエにはあらゆる強い思いが込められているんです。

 家族への思い。友だちへの思い。社会への思い。決して重たいテーマだけでなく、気楽に女の子と遊びたいというような曲もたくさんあるんですけど、全てに強烈なメッセージがある。

 なかなか馴染みがないジャンルかもしれませんけど、今の日本でこそ、聞いてもらいたい音楽だとも思います。

 新型コロナ禍もあるし、経済が決して順調とは言えない流れにもなっている。でも、ジャマイカの危うさに比べれば、日本はまだまだ頑張りやすい国だとも思います。レゲエに込められた思いに触れてもらえれば、見いだせる活路は絶対にある。それを今こそ強く思いもするんです。

 真面目にいろいろ話をしすぎましたかね(笑)。でも、ホンマに思うことですし、2年ほど前に音楽を作って発信するレーベルも立ち上げたので、なんとかそういう流れを曲に乗せて発信したい。それを考えています。

 あと、お世話になっている方のおかげで、いろいろな芸人さんともご一緒させていただくことが多いんですけど、漫才コンビ「シャンプーハット」の恋さんからは大切な言葉ももらっていて、常にそれが胸にあります。

 面白い芸人はたくさんいるけど、全員が売れるわけではない。売れる芸人は面白さだけではなく、人へのやさしさ、愛情を持っている。人と人が密接に絡む仕事だけに、その要素を持っていない人が売れるわけがない。

 これはどの仕事にも通じることだと思いますし、自分がどこまでできるか分かりませんけど、常にこのマインドを持って全てのことにあたろうと思っています。

 …さらに、真面目な話になってしまいましたね(笑)。ただ、そういう積み重ねをして、少しでもお世話になった方々にご恩返しをする。そのためにも、まだまだ頑張らないといけないと思っているんです。

(撮影・中西正男)

■Pikkal(ぴっかる)

1978年1月6日生まれ。大阪府出身。高校卒業後、大阪のクラブを中心にレゲエサウンド(レゲエDJ)として活動を開始する。21歳で、米ニューヨークに単身渡米。英語も話せない、ツテも一切ない中で認知度を高め、ニューヨーク以外からも声がかかる存在となる。レゲエサウンドグループ「KING JAM」を立ち上げ、現メンバーはPikkal、Steel-T、Miki Rooney、Hajiの4人。アメリカ、ジャマイカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、ポルトガルなど世界各国からオファーが舞い込む存在となる。19年からはジャマイカのスター・Beres Hammondがトリを務める豪華クルーズ「LOVE & HARMONYクルーズ」に日本人で唯一オファーを受けている。7月1日には「KING JAM」結成25周年記念ライブを大阪・泉佐野オチアリーナで開催する。出演はRYO the SKYWALKER、775、TAKAFIN、EXPRESSら。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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