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「優勝は目指していない」。「さや香」が考える「M-1」の終わらせ方

中西正男芸能記者
今のリアルな思いを語った「さや香」の新山さん(左)と石井さん

「M-1グランプリ2022」で準優勝し、大きなインパクトを残した漫才コンビ「さや香」。新山さん(31)、石井さん(34)ともに仕事量が倍増し、来月には吉本興業の大型野外イベント「よしもと放課後クラブ」にも出演します。今年も「M-1」での動向が注目されますが「優勝は考えていない」と語る二人が考える“「M-1」の終わらせ方”。そして、その裏にある仕事への思いとは。

あと7年はできない

新山:ありがたい話、去年の「M-1」以来、お仕事の量は倍にはなってると思います。生々しい話ですけど、収入ベースでいうとそれくらいにはなっているかなと。

石井:東京での仕事も増えましたしね。あとは、地方の営業というか、漫才ライブに行かせてもらう機会も多くなったと思います。

この前も「M-1」関連のイベントで福島県に行ったんですけど、4時間半かけて現地に行き、6分の漫才をして、また4時間半かけて帰ってくる。そういう移動が続くことも多いので、そこのケアというか、どう対処するのか。そういう部分もものすごく問われるんだなと痛感しています。なので、せめてもの対処法として高いネックピローだけは買いました(笑)。

新山:これまでになかったお仕事も増えて「今後、目指すものは?」みたいなことを尋ねられることも多くなったんですけど、今後のことはあまり考えていないというか。「どうなるんやろ」という楽しみとしてとっておきたい思いもあるんです。

ただ、そんな中でも明確に思っていることが一つあります。

去年「M-1」決勝戦の最終決戦まで行って負けた。今年も大阪に残ってまた「M-1」に向き合っている。

去年負けて良かったなと思える唯一の形。それが今年も最終決戦まで行くということだと思っています。逆に、それができなかったら、これはもう大変やなと。それが今のリアルな思いです。

本当の、本当の、僕の本音で言うと、優勝ということよりも、最終決戦まで残れればOKだと思っています。

最終決戦まで行ければ「M-1」でネタが2本できる。“ウケるネタ”も“やりたいネタ”も両方できる。そうなれば、自分としてはそれで「M-1」を終えられる。

その結果、優勝できるかもしれませんけど、それを目標に定めるというよりも、自分たちのマックスを「M-1」で出し切る。それを目標に定めています。

去年はネタを2本やれましたけど、最低もう一回はそれをやる。ウケてもスベっても、それで悔いはない。その感覚を得たら、納得して「M-1」の次のステージに進めると思っているんです。

簡単に言うと、優勝を目標にしてしまうと、優勝するまで終われないんですよ。僕らは出場資格的には、あと7年出られるんですけど、気持ち的にはもう7年は出られないんですよ。もちません。

2021年にボケとツッコミも入れ替えているし、もう劇的に何かを変えるポイントはない。そんな中であと7回優勝を目指す戦いをやるのは難しいと思いますし、あくまでも「M-1」は通過点でその先もある。そう考えると、次のステップに行くには少しでも早いほうがいい。

今、僕は31歳なので、何とか30代前半で次のステップに行きたい。優勝だけを“クリアの条件”にしてしまって、もし38歳とかで優勝できたとしても、もうそこからの人生はほぼ決まっているような気がするんです。

一年でも早く「M-1」をクリアする。それを考えた時に定めたのが「もう一回、最終決戦まで行ってネタを2本やる」ということだったんです。もっと簡単に「M-1」で優勝できたらいいんですけどね(笑)。これが本当に難しすぎますから。

石井:ネタを考えているのは相方ですし、僕としては相方にいろいろと任せている部分もあります。ただ、僕自身も、この先「M-1」での勝負はもう何年もはできない。そう思っています。

知らない自分に会う

石井:それと、僕らは本当にいろいろな方にお世話になってやってきたので、そういった方々にきちんと報いなければなない。その思いはありますね。

僕は「大自然」のロジャーさんと仲良くさせてもらっていて。昔からどれだけお金がない時でも、ライブ終わりには必ず飲みに連れて行ってくださいました。

18年に拠点を東京に移されてからも、僕が仕事で上京するたびに連絡して飲みに行かせてもらっています。

そんな中で、今から3~4年前、いつものように飲んでいる時にロジャーさんがおっしゃったんです。

「正直者がバカを見る世界だけど、オレたちは正直者でいような」

いろいろな人間と関わって、一筋縄ではいかないこともある。イヤな話を耳にすることもある。そんな文脈での言葉でした。

そう言って「ガハハハ」と笑い飛ばしながら酒をグッと飲む。その流れがすごくカッコ良くて。反射的に、自分もそうでありたいと思ったんです。

その言葉を聞いて、生きているあらゆる局面で人にやさしくしようと思うようになりました。僕ができているか分かりませんけど、その思いだけは持っています。

新山:いろいろな人からありがたい言葉もいただきました。去年の「M-1」終わってから「爆笑問題」の太田さんが誉めてくださったのもうれしかったです。

ただ、僕らがこの世界に入った頃からずっと目をかけてくださり、その人がいなかったら僕は辞めていたのではと思う。そんな存在が、もう解散してしまったんですけど「絶対アイシテルズ」の楠見大輔さんという方なんです。

ルームシェアもするほどの仲で、僕が前のコンビを組んでいた時からすごく評価をしてくださいまして。前のコンビを解散して、芸人を続けるか迷っていた時に「お前は同期の中で一番面白いんだから。いけるよ」と言ってくださいました。僕は楠見さんのことを心から信頼していたので、言葉が深く沁みわたりました。

そこからも事あるごとに「お前が面白いと思うことをやってたら大丈夫や」と言っていただいて。その言葉があったから、ボケとツッコミを入れ替えましたし、ただただ背中を押してもらいました。

後押ししてもらって、なんとかここまではやってきました。自分でもこの先の道は見えないものの、進んでみたいと思っています。

自分でも分からないものだなと思うことなんですけど、僕自身も知らない自分がいたりもするんですよね。

細かい話ですけど、大阪の仕事ではメイクをしたことがなかったんです。普段、メイクなんてしないのにテレビに出る時だけメイクをする。その構図が、なんだかウソをついてるようで、イヤだったんです。

その思いは今も同じですし、大阪では相変わらずしないんですけど、これがね、東京ではするんですよ。よそ行きの自分が出てるのか(笑)。

そんな自分がいるとは思わなかったですし、この先どんな自分に会うのか。それも楽しみになんとか進んでいければと思っています。

(撮影・中西正男)

■さや香(さやか)

1988年5月28日生まれの石井(本名・石井誠一)と91年10月17日生まれの新山(本名・新山士彦)がそれぞれ別のコンビを経て2014年にコンビ結成。ともに大阪府出身。21年にそれまでの役目を逆にし、石井がボケ、新山がツッコミになる。石井は20年、新山は21年に結婚。それぞれ第一子も生まれている。今宮子供えびすマンザイ新人コンクール新人漫才福笑大賞、NHK上方漫才コンテスト優勝、歌ネタ王決定戦優勝など受賞多数。「M-1グランプリ」では17年(7位)、22年(2位)と二回決勝進出。MBSテレビ「せやねん!」、ABCテレビ「newsおかえり」などに出演中。5月5日、6日に大阪・万博記念公園で行われるイベント「よしもと放課後クラブ」に出演する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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