「プラス・マイナス」が「M-1」で負けて残したもの

筆者の取材に応える「プラス・マイナス」岩橋良昌(2016年2月撮影)

勝者と敗者

 「M-1グランプリ2018」はコンビ結成6年目の「霜降り明星」の史上最年少優勝という形で幕を閉じた。

 勝者がいれば敗者がいるのが勝負の世界。3年連続、しかも僅差での2位という悔しさを味わったのが「和牛」だ。「和牛」と同年代、もしくは少し上の年代の、いわばライバルにあたるような芸人仲間からも「ネタ時間4分という中での可能性を極限まで進化させた」「最新技術を駆使した作品」という言葉も聞かれた。

 同業者がうなる完成度のネタを毎年作り、そして、最終ステージまで勝ち上がってくる。これは言わずもがな、すさまじいこと。「『和牛』だから、ま、なんとなく勝つんじゃないの」なんてことはありえない。自分たちが鍛え上げたネタを武器に、一試合一試合、やるかやられるかの真剣勝負で勝ち続ける。そこに惰性や忖度(そんたく)が入る余地はない。

 ただ「和牛」が多くの人から敗れ方を見られた“光の当たる敗者”だとすると、ほとんどのコンビは負けっぷりも認知されないまま敗れていく“光の当たらない敗者”だ。

「プラス・マイナス」の敗退

 真剣勝負ゆえの残酷なまでの悲哀は、2001年の第1回の1回戦から取材をしてきた者として、これまでイヤというほど目にしてきたが、その中でも今回はとりわけ衝撃の大きな敗退があった。世間的にはほぼその衝撃は伝わっていないが、多くの芸人が言葉を失ったのが「プラス・マイナス」の敗退だった。

 「プラス・マイナス」は今年が結成15年で、今回の「M-1」がラストイヤーだった。ボケの兼光タカシは、オール巨人から「ドラゴンボール」のフリーザまでハイクオリティーなモノマネもできるハイスペック芸人。また、漫才ではツッコミを担当している岩橋良昌は“やってはいけないことをやるクセ”で地元関西では多くの番組にも出演していた人気者。

 6年前に東京に進出してからはテレビ番組に出演する機会は減ったが、所属の吉本興業の劇場「ルミネtheよしもと」などでは「とにかく『プラス・マイナス』が出れば爆笑」という実績を重ねてきた。

 毎年、芸人やお笑い関係者からの下馬評はすこぶる高いが、今年は取材する限り、仕上がりも過去最高。さらに、準決勝でのウケも爆発的だった。ただ、これが勝負のアヤ。決勝に進むことはできず、敗者復活戦にまわった。

 敗者復活ではラストイヤーのラストチャンスに、「15年の全てをぶち込むぞ!」という気迫が見て取れるようなネタを展開。これまでやってきたネタの中で強いものを多数組み込んだ「プラスマイナス」の“総集編”のようなネタを熱演した。

 ただ、視聴者投票で「ミキ」に僅差(ミキが39万3189票、プラス・マイナスが37万5909票。3位のインディアンスは19万414票)で及ばず敗退。「M-1グランプリ」の決勝という舞台に立つ可能性は完全に断たれてしまった。

 「M-1グランプリ2018」が終わり2日が経とうとしているが、芸人、そして、関西のお笑い関係者と顔を合わすと、多くの場で「プラス・マイナス」の敗退を惜しむ話になる。

芸人仲間の声

 実は「M-1グランプリ」の放送に合わせて、ABCラジオでは「ラジオでウラ実況!? M-1グランプリ2018」という番組が生放送されていた。これは昨年も放送されていた番組で、決勝戦の映像をテレビで見ながら、ラジオスタジオにいる出場者の先輩にあたる年次の芸人たちが芸人の人となりやネタの中身を論評しながら実況するという内容。

 今年は「メッセンジャー」のあいはら、ユウキロック、「ザ・プラン9」のお~い!久馬、「シャンプーハット」のこいで、同局の喜多ゆかりアナウンサーという出演者だった。

 同番組内でも印象的だったのが、敗者復活枠が発表された瞬間。「プラス・マイナス」が「ミキ」に一歩及ばずという結果が出るや、しばらくラジオからはため息だけ漏れていた。

 「うわー、そうか…。『ミキ』ももちろん、すごい。テレビで忙しい中、よくあれだけやった。面白い。ただ『プラス・マイナス』、ラストやからなぁ。『プラス・マイナス』の気持ちになってしもて…」(あいはら)

 「あいつらの人生は全然プラスマイナスじゃないわ…」(久馬)

 「もうオレ(この先、番組が)できひんわ…。キャリアハイの仕上がりやったはずなんですけどね」(ユウキロック)

 ここまで芸人仲間が後押しをする理由。腕があるのに、王者にはなれない。その悲哀もあるが、大きな要素は人間性だ。

愛される“かわいげ”

 僕もここ10年ほど公私ともに「プラス・マイナス」とは付き合いがあるが、2人とも実にかわいげがあって素直。実際に見た例を挙げると、今から数年前、まだ「プラス・マイナス」が大阪にいた頃の話だ。

 当時は関西のあらゆる番組に出演し、日々、ロケなどで多忙なスケジュールを送っていたが、兼光の電話に数年ぶりの相手から着信があった。かつてお世話になっていた先輩芸人からの誘い。正確に綴ると、この先輩芸人は既に芸人を辞めていたので、今は会社員で兼光とは直接の絡みはない男性だった。

 ただ、その電話を受けるや否や、衣装などの大荷物を抱えて、ダッシュで大阪・鶴橋の小さな串焼き屋さんに駆け付けていた。その場には僕もいたので、解散になるまでの全てを見ていたが、かつての恩への感謝を何度も繰り返し、何軒も一緒に付き合う姿にすさまじいまでの義理堅さを感じた。

 また、岩橋のエピソードについては、芸人でもない僕ですら枚挙にいとまがないほどだが、一つ断言できるのは、岩橋のクセはテレビ用にフィクションでやっているものではなく、本気の本気でやっているということ。

 僕も身をもってクセの凄みを幾度となく体験してきたが、忘れられないのが、8年ほど前、岩橋、僕、僕の友人の3人で食事に行った時のことだ。良い感じにお酒もまわり、3軒目に行った大阪・堀江の韓国料理店で仕事の話になった。それまでのどんちゃん騒ぎからトーンが変わり、まじめな話になっていった。

 「プラス・マイナス」の強みは漫才。テレビに出るだけが正解ではない。劇場を守る芸人になるのも立派な姿。2人にはそのポテンシャルがある。お酒の力もあって、普段しないような踏み込んだ話を生意気ながらさせてもらった。

 岩橋は涙ぐむような顔つきで、ジーッとこちらの顔を見ている。そして、思いつめたように僕の話終わりに声をかけてきた。「すみません、今の話、もう一回最初からしてもらっていいですか?」。ここにきて“人が真剣に話をしている時に相手の話を聞かない”というクセが出たというまさかの展開だった。「なんやそれ!」と心からのツッコミを入れ、3人で大爆笑したことを鮮明に覚えている。不躾と紙一重ながら、それがかわいげとなり、周りの人間をひきつける。今回の敗退を心底惜しむ声が多いのは、こういった部分に起因すると強く感じている。

 これまで取材を通じて感じてきた「M-1」というリングの意味合い。それは、男前でもないしファイトスタイルも無骨。ただ、道場でのケンカはとことん強い。そんなファイターが光を浴びてスターになれる唯一無二の場。そんな解釈を、勝手ながらしてきた。

 今回の「プラス・マイナス」の敗退、そして、周囲の余波を見て「M-1」で光を浴びられなかったことが、モンスター級に強い漫才コンビを作ることにつながる。そういう意味合いも「M-1」が持つならばさらに素敵なことだし、それを今後の「プラス・マイナス」が体現してくれることを切に願う。