過酷なアルバイト生活をを綴った初の著書「プロレタリア芸人」が話題を呼んでいるお笑いコンビ「ソラシド」の本坊元児(ほんぼう・がんじ)さん(36)。5年前に上京したものの、本業であるはずのお笑いの仕事は月に1回ほどで、来る日も来る日も肉体労働。「どうせ、明日も、今日なんだろう?」という名言(?)が生まれるほど先が見えない日々を、淡々と、そして、時折毒っ気を織り交ぜて描く筆致も高く評価されています。突如として訪れたビッグウェーブですが、このまま作家転身となるのか。その微妙な胸の内を聞いてみました。

つらい日々をつぶやいたのがきっかけ

そもそものスタートはツイッターだったんです。芸人になって16年目になりますけど、5年前に上京してからは、来る日も来る日もアルバイトで肉体労働の日々。とにかく、つらい…。その思いをつぶやいていたんです。

「おもしろくないなぁ、地球」

「死にたくもないが、生きていたくもない」

「今日は楽しかった!!…うそ」

「どうせ、明日も、今日なんだろう?」

それをいろいろな方々がおもしろがってくれて、特に後輩コンビ「とろサーモン」の村田(秀亮)君が、僕の日常を題材にドキュメンタリー映像みたいなものを撮ってくれて、2014年の沖縄国際映画祭でも上映されたんです。

最初は「後輩がバカにしやがって…」とも思ったんですけど(笑)、どうせだったら、映像と同時に本も作ろうじゃないかという話になった。それが、今回の出版のきっかけやったんです。

もともと、漠然と書きたいなとは思っていて、実は、ブログで日々のしんどいことを綴ったりはしていたんです。ただ、ブログだと、正直、嫌なコメントを書いてくる人もいるし、ナニな話、それがお金になるわけでもない(笑)。「もう、エエかな…」と思っていた時に先輩の「ロザン」菅(広文)さんが「今すぐどうこうじゃないかもしれないけど、1年後か2年後、絶対に仕事になるから、続けた方がいい。何より、おもしろいんだから」と言ってくださいまして。

その菅さんの言葉があり、そして、村田君の話があって、またそこに扶桑社さんが「本坊さんの暗い言葉のツイッターがおもしろいので、本を出しませんか?」というありがたいお話をくださって、そんな流れが相まって「プロレタリア芸人」に結び付いたんです。

“一粒で二度しんどい”

ただ、いざ書くとなると、当然、いろいろな現場仕事を思い出して書くことになる。となると、しんどかったことを再びかみしめることになるので“一粒で二度しんどい”構図になるんです…。思い出すだけでも、吐きそうになると言いますか…。

僕は腕力もないし、どの現場もとにかくしんどかったんですけど、特にしんどかったのは東京・麹町の解体現場での“がらだし”でしたね。“がらだし”は“がらだし”でも、あの“がらだし”は本当に大変でした。…あ、すみません、“がらだし”というのは、解体現場で砕いたコンクリートなどを現場から運び出す作業のことなんですけど、重たい重たいコンクリートをここではバケツリレー方式で人力だけで運び出していたんです。

まったく先が見えない。終わりがない。バケツリレーなので休めない。…救いがない。何回も意識が飛びそうになったんですけど、そこで現場監督が「スポーツジムにも行かず体も鍛えられて、お金ももらえるなんて最高だろ!!」とおっしゃったんです。もちろん、冗談で言ってくださっているのは分かっています。場を和ませるために言ってくれてることだというのも分かっています。…でもね、全然笑えないんです。こちらに1ミリも余裕がないと、たとえ、向こうがサービス精神で言ってくれていても愛想笑いもできないんです。極限状態で、期せずして、笑いの仕組みを知ることはできました。

今は、腰を痛めて現場仕事はできてないんですけど、病院に行ったら「いったい、何をしてきたんですか。こんなに“治し応え”のある腰は見たことがない」と言われました。

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映画化は無理でもゲームには!

また、本当にありがたいことに「この本は、映画化すべきだ」なんてことを言っていただくこともあるんですけど、映像化するとなると、よく考えたら、ほとんどセリフがないんです…。どれだけ不満があろうとも、いかつい職人さんや現場監督に直接文句を言うなんてことはしておりませんし、誰ともしゃべらずに終わる一日も多い。すなわち、ほとんどが僕の心の中のセリフなんです。これは、果たして、映像化できるのかと…。

だから、個人的には、この本がゲームになったらいいなと思います。ロールプレイングゲーム。いろいろな現場に行って、作業をクリアし、そして、家賃を払うという。ま、完全なる“クソゲー”ですけどね。

実際、本当の生活があまりにしんどすぎて「これはゲームや…」と思い込もうとしていた時もあったんです…。ただ、悲しいかな、どんなにつらくても、イヤになっても、これはね、リセットできないんです。それが、よりつらくてね。

作家より本業で!?

「このまま作家の道に行くことを考えているか?」

僕、大阪から土地勘のない東京の街に出てきて、当てずっぽうで左か右かの道を選ぶことも多々あったんですけど、自慢じゃないですけど、すべて間違えてきました。だから、自ら道を選ぶことに恐怖感みたいなものもあるんです。本をきっかけに、お仕事もいただいたりしていますけど、自分から新たな道に行く恐さも強くありますので、やっぱり、あくまでも、本業で頑張りたいと思います。

ちなみに、今、家にある一番高い電化製品も、35000円くらいの現場作業用インパクトドライバーですしね。…あ、分からないですよね、電動ドライバーのことです。万一、これで作家さんに転身したら、なかなかレアな作家さんになることだけは間違いないですけどね(笑)。

■本坊元児(ほんぼう・がんじ)

1978年8月7日生まれ。愛媛県松山市出身。2001年、大阪NSC20期で同期の水口靖一郎とお笑いコンビ「ソラシド」を結成。他に同期は「麒麟」ら。大阪・baseよしもとを拠点に活動し、2010年に東京に所属を移す。過酷な肉体労働の日々を綴った初の著書「プロレタリア芸人」(扶桑社刊)を今年2月に発売。独特の筆致、観察眼で各方面から高い評価を得る。