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小籔が語る「コヤブソニック」辞める本音

中西正男芸能記者
「コヤブソニック」のこれまでを語る小籔千豊

吉本新喜劇座長の小籔千豊さん(40)がプロデュースする音楽とお笑いの融合イベント「コヤブソニック」が、今年の開催(9月13~15日、大阪・インテックス大阪)をもって終了します。08年から毎年行われ、7回目の今回でピリオド。アーティストから“最も出たい音楽フェス”と言われるまでに成長した裏にあったのは、小籔さんの「背負う覚悟」。そんなさまざまな思いを、小籔さん自身が語ってくれました。

もともと「コヤブソニック」は、僕とお笑いコンビ「レイザーラモン」の音楽ユニット「ビッグポルノ」を広めるために作ったものやったんです。まだ新喜劇に入りたてで、舞台ではしゃべるセリフもごくわずかだった2003年。フラストレーションがたまる中で、「新喜劇では絶対にできない下ネタラップを歌う」というコンセプトで組んだのが「ビッグポルノ」でした。そして、その活動場所として作ったのが「コヤブソニック」だったんです。

実は、この夏で「ビッグポルノ」を解散することになりまして、そもそも「コヤブソニック」をやる核である「ビッグポルノ」がなくなるわけですから、「コヤブソニック」を続ける意味もない。なので、今年で辞めることにしたんですけど、今まで7回やる中で、いろいろと勉強をさせてもらいました。

いろいろな思惑も出てきて…

最初は(夏のビッグイベント)「サマーソニック」の向こうを張って、「コヤブソニック」と思いっきりダサさを込めたネーミングとして始めたんです。ただ、3回、4回とやっていって、いろいろなビッグネームも出ていただき、幸か不幸か、いや、僕としては不幸なことに、ダサさを感じてくれる人が段々少なくなってきてしまい、「コヤブソニック」という名前が大きくなっていった。そうなると、方々からいろいろな思惑が出てくるんですよね。

スポンサーとしてはこうしてほしい、お客さんとしてはこうしてほしい、主催者としてはこうしてほしい、ステージに出る側としてはこうしてほしい…。やって分かりましたけど、そのバランスを取るなんてことはね、できないんです。だから、もうこれは覚悟を決めるしかないなと。「すべてオレが決める。これは、小籔のためのフェスなんだ」ということを声高に言うようにしたんです。責任の所在をさらす覚悟を持つというか。結局、それがみんなの満足感につながるといいますか。

「みんなの意見を聞いて、やらせてもらいます」というのは、パッと聞いた時の聞こえはいいんですけど、結局、その人の言うことを全部は聞けてない。つまり、「相手の言ってること100のうち60実現したとしても、40も我慢させられた」になるわけです。

逆に「全部オレが決める。やるもやらないも、オレの自由」と宣言してしまう。そうなると、結局100のうち60聞いたという同じ着地点だとしても「なんと60も飲んでくれたんや、小籔」になるんです。全然違うんですよね。だから、結果、みんなが幸せを感じやすいのは「全部オレが決める」と言うことだったんです。…ま、僕としてはムチャクチャしんどかったですけどね。

トイレの数だけでも悩んだ

これは自分が矢面に立つということ。自分が出ることでスムーズにいくこともありましたけど、いざ矢が飛んできたら、まず自分が受け止めないといけない。

それでも、誰が責任を負っているのか。それをハッキリさせておきたかったんです。いうたら、出演アーティストや構成のみならず、会場のトイレの数も、喫煙所の数も、そんなところまで全部僕が決めてますよ、と。とはいえ、実際はスタッフと話し合ってるんですけど、最終的にそれを決めたのは、すべてオレやと。

例えば、トイレでいうと、ここのスペースにトイレを20基設置するとする。そりゃ、100基置いた方がトイレは混まないだろうし、トイレが混みやすい女性や、トイレが近い人にとっては助かる話です。ただ、置くのにはもちろんお金がかかるわけで、いうたら、トイレが近い人のために、そんなにトイレに困らない男性やトイレが近くない人にまで負担を強いることになる。

結果、膀胱(ぼうこう)の限界と、チケット代の絶妙なバランスが求められるわけです。常識的に考えられる幅の中で、誰かの責任のもと、どこで手を打つのか。それは誰かが決めないかぎり、いつまでも決まらない。普通は運営委員会だとか、主催者側という感じで、ここを顔が見えない形にするんでしょうけど、そこを「全部、オレが決めてる!!」ということにしたんです。

でも、こっちもビビります。逃げ隠れできないから、本当に一生懸命考えます。適当になんて考えられない。全部、僕に跳ね返ってきますから。「コヤブソニック」で膀胱破裂しそうになりながらトイレに並んでる女の人のアタマには「小籔め~!!」という思いが浮かぶわけです。

さらに言うと、僕がホンマはトイレを50基にしてくださいと猛烈に望んだのに、どうしても経費的に無理となったり、その期間トイレ業者の人が忙しくて時間的に20基しか作れなかったとしても、批判は僕のところにくる。でも、そこまで含めた覚悟を持てたのは、このイベントをやった値打ちやったと思っています。

責任の所在を身に染みて感じた

責任の所在をハッキリさせる。本来、当たり前のことですけど、世の中、これがなかなかできていないのかなとも感じました。自分のイベントで、それを身に染みて感じられたのは、エエことやったと思っています。

だから「コヤブソニック」をやってから、いろいろ意識が変わりました。最近スーパーでよく見かけますけど、生産者の方の顔写真をつけて売られている野菜ってありますよね。あれを見ると「あ、この人たちも覚悟決めてるんやろうな」と同志を見るような思いになるようになりました(笑)。

ま、いろいろ言いましたけど、芸人なんて、世の中の“要らん仕事ランキング”でいうと、確実に上位になる仕事です。ただただ、何をするにせよ「あぁ、おもしろかった!!」と思ってもらうしかない。最後の「コヤブソニック」でも、全部を“オレが決めて”それができればなと思うだけです。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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