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北京に物見遊山にでかけてきました~36年ぶりの訪問で見たものは

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
北京名所の天壇公園には、多くの観光客。(撮影・筆者2023年11月23日)

・こんな時期だから

 北京に駐在する長年の知人から、「今年度いっぱいで日本に帰国するから、中華料理でも食べに来ないか」という誘いがありました。こんな時期だから、どうしようかと思ったのですが、親しくしている中小企業の経営者も「行ってみると良いよ」と言いいます。

 「北京では、景気が低迷して、空港にも人影が少なく、雰囲気は暗い。」、「事業に失敗したレンタル自転車や電気自動車が廃棄されて山になっている。」、「不動産不況で、資金を失った人たちが多い。」、「若者の失業率が40%近く、不満がまん延している。」などなど、中国に関して、日本のネット上には、これでもかと言うくらいネガティブな情報が溢れています。あまりにそういう情報が多いので、元来のへそ曲がりな好奇心の強さが押さえきれず、1987年以来の北京旅行に出かけることにしたのでした。

 念のために書いておきますが、今回の旅行は、学会でもなく、どこかからの招待でもなく、あくまで全て自腹での観光旅行です。もちろん、「お前が見たのは良いところばかりだ」という御批判もあるのでしょう。しかし、観光した先は、筆者が勝手に選んだところばかりで、どこからか指示されたり、強制されたものでもないことを書いておきます。

・ビザと航空券とWi-Fi

 わずか3時間ほどの空の旅なのですが、一番面倒なのはビザが必要なことです。領事館に申請して、ビザを取得しなくてはなりません。しかし。毎日、忙しくて時間が取れませんから、代行業者に依頼をしました。余計な時間と金がかかりました。

 航空券はネット経由で簡単に予約がでますが、日本と中国の間の航空便はコロナ前のまだ6割程度。復活している便も、中国からの訪日客に便利なスケジュールとなっています。連休の間の弾丸旅行でもあるし、行きは関西空港からの直行便で、帰りは羽田空港経由となりました。

 もう一つの問題はインターネットの接続です。今回は、日本で中国で使えるWi-Fiルーターをレンタルしました。宿泊先のホテルの無料Wi-Fiも接続すると、ほぼ問題なく日本と同じように見られたが、やはり一部のページは見ることができませんでした。一方、レンタルWi-Fiルーターは、北京滞在中、一日中持ち歩いて使用しましたが、スマホは日本で使っているのと、ほぼ同じように利用できました。ただ、GoogleMapは最新の情報が少なかったり、GooglePlayでのアプリの更新やダウンロードはできませんでした。それ以外は、メールもLINEも日本でいるのとほぼ同じに使えました。

ずれりと並んだ入国管理用自動指紋登録機。外国人観光客が少ないため、現在は使用されていない。(撮影・筆者)
ずれりと並んだ入国管理用自動指紋登録機。外国人観光客が少ないため、現在は使用されていない。(撮影・筆者)

・いざ北京へ

 関西国際空港からの全日空機の乗客は、6割ほどの乗客。ソウルの上空を飛び、順調に北京首都空港に3時間ほどで到着しました。

 北京首都空港の入国管理の前には、ずらりと自動指紋登録機が並んでいましたが、北京オリンピックの際に使用されていたらしく、外国人観光客の少ないためか、今は使われていないようでした。

 入管の窓口で、指紋を登録しますが、機械は数か国語に対応しており、日本語の音声指示にしたがって、顔写真と指紋を登録して入国となります。入管も出入国管理も、係官たちの愛想も悪くなく、特に問題なく、すんなり入国できました。

シンガポール航空のカウンターには長い列ができていた。中国人旅行者がシンガポールの観光地などでデジタル人民元を使えるようにする実証実験も始まる。(撮影・筆者)
シンガポール航空のカウンターには長い列ができていた。中国人旅行者がシンガポールの観光地などでデジタル人民元を使えるようにする実証実験も始まる。(撮影・筆者)

・賑わいが戻ってきている北京首都空港

 外国人観光客で溢れている関西国際空港や羽田空港に比べれば、北京首都空港は人は少ないが、閑散としているという訳でもありません。国際線も、シンガポール航空のカウンターなどには行列ができていましたし、何より国内線の出発、到着ロビーは多くの人で溢れていました。

 免税品コーナーは、外国人観光客が少ないために、閑散としていますが、北京ダックや名物のお菓子、漢方薬を売る土産物店や書店などには、お客も多く見られました。レストランでは多くの人が食事をしていました。タクシーなどの車はひっきりなしにターミナルに入ってくるし、市内に向かう地下鉄の駅へも行き来する人もかなりの数でした。

北京首都空港は、国内外への観光客で賑わっている。(撮影・筆者2023年11月25日)
北京首都空港は、国内外への観光客で賑わっている。(撮影・筆者2023年11月25日)

・居心地の良いホテル

 ホテルは、日本からネット経由で予約したのですが、知人が「日本人が多く泊まる」と言われた北京市内の高級ホテルは軒並み日本円で1泊2万円台から3万円台。そこで、日本のビジネスホテルクラスを探し、1泊1万円ちょうどで予約しました。

 中心街から少し離れた集合住宅や商店が並ぶ地域にあるそのホテルは、中国国内にチェーン展開しているビジネスホテルで「ノスタルジック」がテーマで、ロビーや客室や調度品などもおしゃれなデザインです。

 チェックインする際に、知人がフロント係りの女性たちと笑い合っているので、なんだだおうと聞いてみると、「日本語はできませんが、英語ならできますから。でもあんまり得意じゃないので、すみません」と言っていると。フロント係りだけではなく、ホテルのスタッフたちは、いずれも愛想が良く、気持ちよく滞在できました。

 客室は、床暖房が設備されており、外が零下でも心地よい。客室には菓子や飲み物などが置かれ、いずれも無料。夜には、レストランで夜食の無料サービスもある。寒くて乾燥した外から戻ると、フロント係りが人肌ほどに温めたミネラルウォーターをくれるのが助かりました。

ビジネスホテルクラスのホテルだが、清潔でサービスのレベルも高い。(撮影・筆者)
ビジネスホテルクラスのホテルだが、清潔でサービスのレベルも高い。(撮影・筆者)

・観光地はお上りさんたちでいっぱい

 36年ぶりの北京では、やはり一番印象に残っている天壇公園に出かけることにしました。

 滞在していた4日間、青空が見えない日はありませんでした。コロナ禍の前、アジア諸国の友人たちが、冬場は北京や上海に出張したくない、空気悪すぎると言っていたのが、なんだったのかと思うくらいです。確かに日本でも、PM2.5って騒がなくなりました。

 さて、天壇公園は、入場料金に日本円で600円程度。ちなみに、以前はあった外国人価格は廃止されたので、この料金は中国人も同じ。他の美術館や博物館なども、入館料は日本円で1000円から2000円と、かなり高額です。

 天壇公園は、中国各地からやってきたお上りさんで賑やかです。地方から北京見物に来ている団体客に加えて、修学旅行の若者たちも多く見かけました。

天安門広場。修学旅行生が賑やかだ。(撮影・筆者)
天安門広場。修学旅行生が賑やかだ。(撮影・筆者)

 天壇公園と天安門広場のちょうど中間あたりには、大柵欄という明時代の永楽十八年(1420年)から続くという商店街があります。

 北京の昔の街並みをうまく活かし、たくさんの土産物屋や飲食店が軒を連ねています。昔からのファザードや路地をうまく残し再開発するのは、シンガポールが上手ですが、ここ北京も負けてはいません。一帯がテーマパークのような雰囲気で、往時の路面電車も復元しています。車両は、バッテリーカーです。

 エリア内は歩行者専用。このエリアに来る電気バスも、昔の路面電車のデザイン。ここも多くの観光客が買い物や食事を楽しんでいます。

大柵欄は、北京でも有数の商店街。数多くの商店や飲食店が並び、多くの観光客で賑わっている。路面電車は再現された電動車。(撮影・筆者)
大柵欄は、北京でも有数の商店街。数多くの商店や飲食店が並び、多くの観光客で賑わっている。路面電車は再現された電動車。(撮影・筆者)

・厳重な警備の天安門広場

 「えー行くの?検問面倒だよ」と言う知人を説得し、天安門広場へ。さすがに警官や軍人の姿が目立ちます。天安門広場に入るためには、検問所を通過しないといけません。そこは、観光客で長蛇の列。列に並んでいると、後ろから、ざわざわしはじめ、「何事?」と思うと、杖をついた老人とその家族を通してやれと伝言ゲームのように後ろから前へと伝わり、道を空けて行きました。

 検問は、パスポートを提示し、カバンの中を見せると通過できます。地下鉄などの検問所では、パスポートの表紙を見せるだけで、通過させてくれます。テロ活動などの警戒対象が外国人ではなく、自国民であることが伝わってきます。

 さて、天安門広場。天気が良いので、写真映えしますが、とにかく寒い。ここにもたくさんの観光客がいます。ここでも修学旅行生が沢山いました。
 天壇公園でも、天安門の周辺で、中国の伝統的衣装のコスプレをしている男女を良く見かけました。日本と同じように貸衣装屋が何軒もあり、人気のようです。

 日本では、「中国の観光産業は日本や欧米からの観光客が戻らず苦戦」などと報じられています。確かに欧米系のホテルなどには影響はあるでしょうけれど、膨大な人口を抱える中国の場合、国内観光客の多さと旺盛な購買力、販売価格などを見ると、言われているほどではないのかと感じました。

左から、紫禁城から地下鉄の駅への商店街。観光客向けの店が並ぶ。カップルでコスプレ。右の写真は、天安門広場に入場するセキュリティチェックに並ぶ人たち。ライターの持ち込みも禁止だ。(撮影・筆者)
左から、紫禁城から地下鉄の駅への商店街。観光客向けの店が並ぶ。カップルでコスプレ。右の写真は、天安門広場に入場するセキュリティチェックに並ぶ人たち。ライターの持ち込みも禁止だ。(撮影・筆者)

・静かな街中

 北京の街中を走るタクシーは全て電気自動車。バスも一部を除き電気自動車。バイクも全て電動車。一般の乗用車は、ざっと見たところ、4割程度が電気自動車です。アメリカメーカーのテスラも多いですが、中国製の電気自動車が目立ちます。

 HUAWEIのショールームには、新型電気自動車のAITOが展示されていました。スマートフォンやIT機器が展示されているショールームに、電気自動車が並べられている光景は、日本ではまだ見ることはありません。

 北京市内には、日中、大型トラックの流入が規制されているため、日中でも通りは静かで、排ガスを感じることはほぼありません。昔のようなクラクションの音が響き渡る光景も全くなくなっていました。

 知人は、「市内の至る所に監視カメラが設置されており、治安は各段に良くなった」と言います。小型の三輪自動車などは廃止することが決まっており、屋台販売も禁止されているので、街中はすっきりとしています。人の多い観光地でも、路上にごみもなく、なにより歩きながら煙草を吸う人が全くいなくなっていました。監視社会の強化と、治安の改善はトレードオフなのだと、少し考えさせられる部分もありました。

 ちなみに滞在中に、街中や高速道路などで故障している車を見ることはありませんでした。また、ライドシェアも進んでおり、「治安が良くなっていることや、アプリのシステムが進んでいるため、利用にあたって不安はない」と私の知人は言います。

 さらに、なにより驚いたのは、日本車の存在感の無さです。かつて、東南アジア諸国で家電製品や携帯電話などの日本ブランドが急速に消失した1990年代後半の状況を思いだしてしまいました。

 「中国では、発電の主流は依然として石炭火力ではないか」と、日本では批判的な意見が多いですが、中国政府は矢次早やに対策を打ち出しています。その中には、次の手として石炭からCo2を放出せずに水素を製造することも含まれています。この分野では、11月に日本の経済界が訪中して中国側と会議を行っています。

 「いろいろ意見はあるだろうが、一度、北京に来て、この状況を見ることは大切だと思う」と駐在している知人は言います。

市内を走るBRT。HUAWEIのショールーム。(撮影・筆者)
市内を走るBRT。HUAWEIのショールーム。(撮影・筆者)

・身近なシェア自転車と誤解

 街中で目立つのは、青色や黄色、緑色の自転車です。近距離を利用するのに便利で、利用する際は車体についているQRコードをアプリで読み取り、開錠し利用する。多くの人が気軽に利用しています。

 中国のシェア自転車のビジネスは失敗し、廃棄された自転車が山積みになっている映像が繰り返し報道されています。

 「それも事実だが、こちらも事実だよ」と、私の知人は説明してくれます。現在、黄色の「美团(メイトゥアン)」、青色の「支付宝(アリペイ)」そして緑色の「滴滴(ディディ)」の3社がシェア自転車事業を継続しており、北京市民の気軽な足として使われています。

 中国では、スタートアップに対しては民間の投資任せにしている。儲かりそうだとなると、多くの起業家が参入します。当然過当競争となり、倒産する企業が続出します。日本では、この段階で、中国で派手に事業展開していたのに企業が倒産していると報道され、事業そのものが失敗したかのように受け止められてしまいます。

 市場が拡大し、参入企業が増加することで競争が激化。企業の淘汰が進みます。その段階でも政府は支援しないのです。そして、3社から5社程度になった段階で、生き残った強い企業だけを政府は支援し、国際競争力を持った企業にしようとします。中国経済に詳しい私の知人は、「こうしたことがちゃんと理解されていないがために、誤解されてしまっている」と指摘する。

 シェア自転車だけではなく、他の事業でも同じ手法を採っているそうです。スタートアップブームに湧き、巨額の政府支援が投入されている日本とは少し違っているのです。中国政府の市場経済に任せる政策が、より資本主義的であるように思えるのは、少し不思議な感じもします。

黄色は「美团(メイトゥアン)」、青色は「支付宝(アリペイ)」そして緑色は「滴滴(ディディ)」。北京市民の気軽な足として使われており、自転車道も整備されている。(撮影・筆者)
黄色は「美团(メイトゥアン)」、青色は「支付宝(アリペイ)」そして緑色は「滴滴(ディディ)」。北京市民の気軽な足として使われており、自転車道も整備されている。(撮影・筆者)

・北京観光の最大の問題は支払い

 北京観光で一番大きな問題は、支払いです。キャッシュレス決済が浸透しており、現金決済は可能だが少数派です。クレジットカードも、VISAカード以外は使えることが少ない上に、中国の銀聯カードでないと利用できないことが多かったです。

 現金決済はどこでも受け付けてくれるが、観光客にとっては不便です。北京オリンピック当時は外国人観光客向けのチャージ式カードが使われたそうですが、現在はそうしたものはありません。中国のアリペイを日本人も使えるらしいのですが、今回、北京に到着後にアプリをGoogle Playからダウンロードしようとしたのだができませんでした。

 ただ、街中の商店やコンビニ、地下鉄の駅などでも現金支払いは、手間がかかるだけで問題はありませんでした。

北京の地下鉄は市内外を網羅している。ただ、キャッシュレス決済を使えない外国人観光客は窓口で現金で支払い、一回限りのカードチケットを手に入れなければならない。(撮影・筆者)
北京の地下鉄は市内外を網羅している。ただ、キャッシュレス決済を使えない外国人観光客は窓口で現金で支払い、一回限りのカードチケットを手に入れなければならない。(撮影・筆者)

・富裕層の消費意欲

 中国経済の失速、景気の悪化などが日本では伝えられることが多いですが、北京市内のショッピングモールや百貨店、ホテルのレストランなどを見る限り、特に富裕層の消費意欲は旺盛に見えます。

 中国でも、レトロブームで、1960年代や1970年代の街並みを再現していたり、当時のデザインを使った商品などが多く見かけました。ショッピングモールの地下に作られた1960年代の街並みでは、女性たちが当時のファッションとメイクで集まり、カメラマンに撮影をしてもらっていました。

 市内にはスターバックスや中国資本の瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)などのカフェの値段は、メニューによっては日本よりも高額ですが、多くの人たちで賑わっています。

 知人と行った高級ホテルのレストランでは、若い女性たちがお誕生会を開いていたり、若い母親が小学生くらいの子供と食事をしていました。客単価は1万円以上のレストランも、人気店では週末だと予約を取らないと入店できない状態です。

左から1960年代の街並みのレプリカで、当時のファッションとメイクをして記念撮影するご婦人方。真ん中は、ショッピングモールのカフェ。左は高級ホテルのレストラ女性たち。(撮影・筆者)
左から1960年代の街並みのレプリカで、当時のファッションとメイクをして記念撮影するご婦人方。真ん中は、ショッピングモールのカフェ。左は高級ホテルのレストラ女性たち。(撮影・筆者)

・豊富な品揃え

 北京市中心部のショッピングモールには、海外のブランドや商品も数多く、価格も日本と同等かそれ以上だ。今回は、商業施設を見て歩いたが、空き店舗が多いとか、空きテナントが目立つというようなこともありませんでした。

 あるスーパーマーケットは、経営者が日本のスーパーマーケットを研究し、ディスプレイや配置を改善していました。中国産の加工食品や菓子などの品質も向上しており、かつてのような怪しげな日本語が書かれた商品なども見かけなくなりました。

 高級志向のスーパーには、日本酒や日本産のウィスキーも豊富に並んでいました。中には日本では見かけない銘柄もありましたが、中国製の偽物ではなく、中国輸出向けに日本のメーカーが製造し、輸出している商品のようです。

 玩具店では、日本メーカーの商品も数多く揃っていました。また、ショッピングモールで目立っていたのは、ポップアートのショップで、高額な限定品を若い人たちが手に取っていました。

 通りには、アップルの大型店や欧米系のブランドショップも並んでいます。また、北京市でもコロナ禍を経て、日本と同じようにアウトドアブームになっており、キャンプ用品やアウトドア用品のショップも目立ちました。

 もちろん、こうした消費を支える富裕層は、北京などの都市部に集中しており、地方部との格差も大きいのは確かのようです。

ポップアートのショップは若い人たちに人気。日本のスーパーマーケットを研究して、日本式のディスプレイを導入している店舗も。ショッピングモールの片隅に置かれていた「空飛ぶ自動車」(撮影・筆者)
ポップアートのショップは若い人たちに人気。日本のスーパーマーケットを研究して、日本式のディスプレイを導入している店舗も。ショッピングモールの片隅に置かれていた「空飛ぶ自動車」(撮影・筆者)

・どうして北京市民の日常が伝わらないのか

 「日本からの視察団は、ホテルの会場でシンポジウムやって、レセプションやって、お仕着せの視察先に行って、帰国。みなさん、とてもお行儀が良くて、以前のように空いた時間に街に出てみようというような人が少なくなった」と、ある経済団体の職員は話します。さらに、私の知り合いの駐在員も、「少しでも中国の方が優れているとか、そんなに状況は悪くないといった報告をすると、お前は親中派かと言い出す人が多くなっている。結果として、めんどくさいので、そういう人たちが喜ぶようなネガティブな情報ばかりが流布することになっている。中国に対抗するにしても、そんな姿勢では危険だと思うのですが」とも言います。

 もちろん、中国経済に関する不安感の高まりや、政府間の緊張の高まり、さらに政府による厳しい監視社会など、問題点は数多いのも確かです。建設途中で放棄された空きビル、廃棄されたおびただしい数の電気自動車や自転車なども現実としてあります。

 実は、今回の北京旅行の写真を帰国後、ある講演会で、みなさんにお見せしたところ、「こんなに街がきれいだと思わなかった」、「もっと景気が悪く暗い雰囲気なのかと思っていた」、「シェア自転車も電気自動車も失敗したものだと思っていた」などという意見が寄せられました。

 もちろん、冒頭でも書いたように「お前は良いところだけを見て来ただけではないか」と言う批判もあるでしょう。確かにそうだろうと理解しています。

 なにより今回の訪問地は、首都北京であり、地方都市との格差は日本以上でしょう。しかし、いずれにしても北京に物見遊山に行って見たものが、こうだったのです。あとは、それぞれでご判断いただくしかないと思っています。

北京の街角。集合住宅が並ぶ地域。昔の北京とは比較にならないくらい静かになった。(撮影・筆者)
北京の街角。集合住宅が並ぶ地域。昔の北京とは比較にならないくらい静かになった。(撮影・筆者)

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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