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あっという間に売り切れたファミマの「みんなのレモネード」ってなに?

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
「みんなのレモネード」(画像・筆者撮影 株式会社ファミリーマートの掲載許可済み)

 8月1日から全国のファミリーマートで、「みんなのレモネード」という新商品が発売されました。ところが、数日で完売し、あっという間に終売してしまったのです。

・SNSの力は大きかった

 人気タレントの平野紫耀さんが7月30日にインスタグラムでカフェでレモネードを飲む姿をアップしました。そして三宅健さんが8月1日のYouTubeの生放送で、レモネードを取り上げたことで、ファンの人たちをはじめ、多くの人たちがカフェやコンビニでレモネードを購入することになり、そこからSNSで多くの人が次々と「#みんなのレモネード」を付けて投稿していきました。

 さらにこうした動きをフリーアナウンサーの笠井信輔さんがブログで紹介し、ファミリーマートの公式アカウントの「みんなのレモネード」のページは、3日間で1万リツイート( リポスト)超すなど、その輪が広がっていきました。

 なぜ、こんなに拡がったのでしょうか。もちろん人気の高いタレントやアナウンサーがSNSなどで発信した影響が大きいが、多くの人がそれを拡散したのは、商品の背景にあるものに賛同したことも大きかったはずです。

・「みんなのレモネード」とは?

 関係者の想定以上の反響で、あっという間に全国のファミマの棚から消えてしまった「みんなのレモネード」は、いったいどういった商品だったのでしょうか。

 筆者も、8月1日に、近所のファミマで買い、飲んでみました。レモンの酸味と、ほんの少し苦みも感じられて、本格的なレモネードの味でした。

 かわいらしいデザインのパッケージに小さく「みんなのレモネードの会とは」という説明が書かれています。そして、『みんなのレモネードの会が、小児がん患者家族の立場から「小児がんのことをもっと知ってほしい」、「患者や患者家族でつながりたい」と小児がん啓発活動、患者やその家族との交流会などを開催しています』とも書かれています。

本格的なレモネードの味。次回の販売が待ち遠しい。(画像・筆者撮影)
本格的なレモネードの味。次回の販売が待ち遠しい。(画像・筆者撮影)

・小児科専門医・楠木重範さんに聞いてみた

 発売を前にして小児科専門医である楠木重範先生と、偶然、お話しする機会がありました。その時に、この「みんなのレモネード」の話になったのです。

 楠木先生は、大学病院で小児科勤務の経験を積み、神戸市にある小児がんの子どもとその家族が治療中でも家族と共に生活できる環境を整えた施設「チャイルド・ケモ・ハウス」代表などを経て、現在は医福連携施設である「遊育園こどもクリニック」の院長を務めておられます。そして、先生自身も子供の頃に、小児がんの体験をされており、全てのこども・若者が自分の人生を肯定できる社会を創るためTEAM NEXT GOALを立ち上げ、代表として、がん教育やいのちの授業、講演会などを実施されています。

・楠木先生、なぜレモネードなのですか

 「もともとはアメリカの小児がんの患者の女の子が、がんと闘う自分と同じような子供たちを助けようとしているお医者さんの研究費のために、100万ドルを集めるという目標を持って活動したことに、多くの人たちが参加したことが始まりです。」

 当時8歳のアレックス・スコットさんに賛同した人たちが、レモネードスタンドを開催し、彼女が亡くなる直前に目標の100万ドルを達成したのです。2000年に小さな女の子が自宅の庭先で始めたレモネードスタンドは、多くの人たちの共感を呼び、全米に広がっていきました。彼女は2004年に亡くなりますが、それ以来、毎年6月には、レモネード・デイズとしてアメリカ全国各地でレモネードスタンドやイベントが開催されています。2023年は6月3日から11日に開催されました。

 レモネードスタンドは、誰でも、どこでも簡単に始めることができるというのが、理由なのですが、スヌーピーの出てくる「ピーナッツ」の漫画が好きな方は知っていると思いますが、アメリカでは子供がお小遣いを稼ぐためにレモネードスタンドを自宅の庭先などで開店させることがよくあり、アメリカ人には親しみやすかったようです。

・小児がん患者を支援

 「日本でも、小児がん啓発を行う一般社団法人みんなのレモネードの会という団体があり、みんなで小児がん患者支援をしようという活動をしているのです。」

 実は私(筆者)も、40年前、学生時代に小児科に入院している子供たちに勉強を教えるというボランティアをしたことがあります。ただ若かったこともあり、治療している子供たちを見ていて、辛くなって、一年ほどで辞めてしまった経験があります。

 「それはずいぶん前に進んだことをしていたのですね。現在は、治療方法なども進んで、当時とはかなり変わり約80%の小児がんの患者が治るようになっています。ただ、現在も年間約2000人の子供たちが小児がんにかかっています。そして、小児がんは、日本の1歳から14歳の子どもの病気による死亡原因の第1位なんです。残念ながら、こうしたことは、あまり知られていないのが実情です。」

・患者の子供たちにも保護者の方たちにも大きな負担

 子供たちはもちろん、保護者の方たちにとっても、長期の入院や治療は大きな負担ですね。

 「ええ、小児がんは進行が早いため、すぐに治療と入院が必要となり、それも長期にわたります。費用はもちろんですが、周りの人たちの理解がなかなか得られないなど精神的な問題が大きいのです。また、小児がん治療の研究開発には、多額の資金が必要です。こうしたことに、もっと社会で多くの人の理解が拡がるといいのですが。」

 なるほど、そのため、一般社団法人みんなのレモネードの会と、一般社団法人レモネードスタンド普及協会が活動しているのですね。しかし、今回、なぜファミリーマートで「みんなのレモネード」なのでしょうか。

・なぜファミリーマートで

 「ファミリーマートの細見研介社長が、小児がん患者だった榮島四郎さんの絵本『ぼくはレモネードやさん』(生活の医療社)に感銘を受け、さらにご自身の体験などを交えて、社内で紹介したことがきっかけだそうです。」

 ファミリーマートでは、一般社団法人みんなのレモネードの会の会員の子供たちや保護者の方たちと、社員とその家族たちと一緒に「ファミレモ部」を結成しました。「ファミレモ部」では、商品の試飲をしたり、パッケージのイラストを募集を行ったりするなど、商品開発を行いました。 

 子供たちとファミリーマートの社員のみなさんが一緒になって作り上げた新商品「みんなのレモネード」は、7月29日に開催されたチャリティコンサート「みんレモサマーフェスティバル」で発表され、8月1日から販売が始まりました。

ファミリーマート細見社長、ファミレモ部のみなさんが記念撮影した写真(画像・株式会社ファミリーマート提供)
ファミリーマート細見社長、ファミレモ部のみなさんが記念撮影した写真(画像・株式会社ファミリーマート提供)

・多くの人に関心を持って欲しい

 楠木先生は、小児がん専門医として、また、ファミリーマートの細見社長とは個人的にも知り合いだったこともあり、新商品を応援しています。

 「小児がんや若い世代のがんについて、広く知っていただきたいのですが、なかなかその機会がありません。このレモネードが全国のファミリーマートに並ぶことで、より多くの方が関心を持って欲しいですね。」

・誰でも参加できるレモネードスタンド

 株式会社ファミリーマートのマーケティング本部に伺ったところ、「想定以上の売れ行きとなり、現在時点で一部の店頭在庫を除き販売が終了してしまいました。今後も一定期間ごとに販売を続けていく方針です」とのことでした。

 レモネードは、誰でも、どこでも作れます。レモネードをつくるのに必要なレモン果汁は、レモネードスタンド普及協会が無償で提供してくれる制度もあるそうです。今回のファミリーマートの「みんなのレモネード」以外にも、横浜市の有限会社マルニ商店では「hands to hands レモネードサイダー」を販売し、小児がん患者支援をしています。

 「まずは多くの人たちに知ってもらいたい」と楠木先生は言います。地域社会の中で、多くの人たちが理解することが大切なことです。小児がんへの理解が進むよう地域活動や地域イベント、学園祭や文化祭などで、レモネードスタンドを自分たちでやってみるのも良いでしょう。

 実は、レモンは、ヨーロッパやアメリカでは、つらいことの代名詞として使われます。「人生がレモンを与えるなら、それでレモネードを作ればいいさ」(when life gives you lemons, make lemonade.)という格言があるくらいです。

 レモネードスタンドは小児がん患者を支援することが目的ですが、それぞれ一人一人が、地域社会での人々の繋がりを再発見し、人生を見直す良い機会になるのではないでしょうか。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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