Yahoo!ニュース

地方スーパーを追い詰める三重苦

中村智彦神戸国際大学経済学部教授

・追い詰められる地方スーパー

 お笑いコンビ「カミナリ」の竹内まなぶさんの実家が営むスーパーマーケットが閉店することが話題になっている。50年間続いた地元密着型の地方スーパーの閉店だが、実はこうした例は増加傾向にある。

 昨年11月には京都府八幡市に本社を置くスーパーツジトミが倒産し、電子マネーの返還が受けられるなった顧客の問題や、地域の中で買い物場所が無くなる「買い物難民」問題が取り上げられた。

 今年2月になると、JA鳥取いなばと、JA鳥取中央が、県内で経営する13店のスーパー全店を2023年度中に閉鎖する方針を発表した。「買い物難民」問題が深刻化すると、鳥取県や関係市町、JAなどで「買い物環境確保に係る対策協議会」が開催されるなどしている。

地方スーパーの経営破たんが続いている。
地方スーパーの経営破たんが続いている。

・地方スーパーの経営破たんが増加

 地方スーパーの経営破たんも増加している。帝国データバンクが、2022年12月13日に発表した『全国企業倒産集計・2022年11月報』によれば、2022 年における「スーパーマーケット(食品スーパー)」の倒産は11月までに累計19件発生し、昨年(13 件)の件数を大幅に上回り、2019年以来3年ぶりに前年比で増加した。さらに、「特に、ローカルマーケットを経営基盤とする地方スーパーの倒産増が目立つ」と指摘している。

 過去一年間のスーパーの破たんを見ても、その指摘の通りであり、地方部の食品スーパーの苦境が理解できる。

突如、閉店したスーパー。「買い物難民」が話題になった。(画像・筆者撮影)
突如、閉店したスーパー。「買い物難民」が話題になった。(画像・筆者撮影)

・コロナ禍で「勝ち組」だったはずが

 コロナ禍で緊急事態宣言が出されたことにより、在宅時間が増加し、外食をしなくなったために「巣篭り需要」のおかげで、食品スーパーやディスカウントショップ、ホームセンター、ドラッグストアなどの売上が増加した。

 「勝ち組」だったはずの食品スーパーの廃業や倒産が増加しているには、複合的な問題がある。

・人口減少の本格化と市場の縮小

 コロナ禍には関係なく、地方部の人口減少は急激に進んできた。地方部では、これまでも高齢化が指摘されてきたが、ここにきて人口減少が加速している。

 日本の人口は、2020年以降、急減している。特に地方部の人口減少は、より深刻に進展している。このことが、地方スーパーの経営を直撃しつつあることは間違いない。

人口の急減は、地方経済に深刻な影響を及ぼす。
人口の急減は、地方経済に深刻な影響を及ぼす。

・老朽化する施設

 地方スーパーに限らず、近年、地方経済の大きな問題となっているのが、「負のレガシー」だ。

 地方のホテル、旅館、百貨店、スーパーマーケットなどは、1970年代から1980年代に新たな店舗を展開してきた。これらの業界において、それぞれの建物が「負のレガシー」と化している。

 ある小売店経営者は、「父親が1980年代に建てた店舗で経営を続けてきたが、老朽化で建て直しを検討した。しかし、現在の店舗の取り壊し費用も、アスベスト問題や廃棄物の処理費用などで膨大になる。さらに新たな建物を作るだけの費用をかけても、回収できる見込みが立たない」と言う。

 別の小売店経営者は、「コンパクトシティとか言うが、現実には郊外の幹線道路や高速道路のインターチェンジ周辺に、大手流通企業が大型店を出店してくる。街の中心部に老朽化した店舗を構えていても、勝負は見えている。街中の店舗を捨て、無理をしてでも郊外に出店するか、そのまま廃業を選択するか。正念場になっている」と言う。街中の閉店した小売店が解体もされず、そのまま朽ち果てているのは、投資しても回収の見込みが立たないからだ。

出所:経済産業省、「時系列データ・ドラッグストア商品別販売額等及び前年比」
出所:経済産業省、「時系列データ・ドラッグストア商品別販売額等及び前年比」

・ドラッグストアの急迫

 地方部はもちろん都市部でも、急激に存在感を増しているのが、ドラッグストアだ。元々は「薬局」であったはずが、今や食品スーパーやコンビニの領域を侵食しつつある。

 ドラッグストアは、店舗の数の増加も凄まじいが、食品の売上高も、2014年には約1兆2千億円だったものが、2020年には2兆円を突破し、2022年には約2兆4千億円と急増している。

 ドラッグストアは、調剤医薬品の売上も急増させると同時に、日用品や食品などでも売上を急増させている。ポイント付与による事実上の値引きを行うため、調剤薬局を併設している店舗で、周辺の個人経営の調剤薬局を淘汰し、さらに食品や飲料の低価格販売に合わせて、営業時間も早朝から深夜までと、コンビニやスーパーとも競合している。

 東北地方の60歳代の女性は、「高齢者のための公共交通機関を検討するとは言っているし、免許の返上問題なども話題になるが、そうはいってもまだまだ多くの人にとっては車は手離せない移動手段です。高齢者は、医者に行き、調剤薬を買って、買い物ができ、それに駐車場も停めやすいドラッグストアは非常に便利」と話す。街の中心部にあった医院が、逆に郊外のドラッグストアやスーパーの集まっている地域に移転することも少なくない。

・三重苦を乗り越えるのは至難の業

 全国チェーンの中堅、大手流通企業も、激しい競争の中で合併や統合、買収などが進みつつある。そうした中で、資金力の強い全国チェーンが、地方部への進出を継続し、その一方で地方資本のスーパーが廃業や倒産している。

 コンパクトシティや中心市街地の再活性化、さらにはそうした地域での独自性のある流通小売業の必要性などが議論されているが、具体策は進んでいない。人口減少による市場の縮小が指摘されてきた中でも、依然として郊外へのショッピングモールや大型店の建設計画が次々と明らかになっている。

 「全国チェーンとは違った個性的な品揃えとサービスを提供することでの生き残りを」などと言われるが、低価格志向が強まっている一般消費者を相手にする地方スーパーにとっては、人口減少、建物の老朽化、ドラッグストアなどの進出という三重苦を乗り越えるのは至難の業だ。

 地方スーパーは次第に姿を消し、全国チェーンの大手流通企業のスーパーやドラッグストアが席巻していくことで、地方の流通業では、大手の寡占化が今後も進展することは止まらないようだ。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

中村智彦の最近の記事