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ゾンビ「企業」からどう逃げる?~10社に1社が倒産寸前の危機

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
経営者にとって取引先の倒産は大きな懸念材料になっている(提供:イメージマート)

・10社が1社がゾンビ企業

 帝国データバンクが7月末に発表した報告が話題を呼んでいる。この報告では、コロナ禍以降「ゾンビ企業」が増加し16.5万社となり、全企業の1割強が該当するというものだった。

 ゾンビ企業とは、事業利益で利払いを負担しきれていない(*1)企業のことで、要するに過剰債務状態にある企業だ。実質的には倒産状態にあるとされる。

 そんな企業が、10社に1社あるという衝撃的な報告だ。

・ゼロゼロ融資の副作用が

 コロナ禍で経営環境が悪化し、多くの中小企業が経営難に陥ったが、政府による助成金や支援金、さらには2020年3月から実質無利子・無担保での融資(通称ゼロゼロ融資)が大規模に行われた結果、企業倒産が執行されたことで、本来増えるはずの企業倒産が抑制され続けてきた。

 しかし、ゼロゼロ融資の無利子(利子の免除)のは期限があり、3年間なのだ。さらに融資の上限は、6000万円だ。「無利子無担保だからと言って、際限なく融資できるわけではない。本来ならば金融機関からの融資は受けられない企業に対しても、ゼロゼロ融資で貸し込んできた。すでに倒産状態の企業は多い」とある地方金融機関の職員は話す。「それぞれの金融機関では、返済不能な企業が増加することを見込んで、すでに貸倒引当金を積み増している。」

・ざわざわした感じが・・

 「経営者同士で話をしていても、どこかざわざわした感じがする」と言うのは、関東地方の中小企業経営者だ。「経営環境が悪化しており、新規取引の場合は、これまでよりも慎重になっている」と言う。

 ゼロゼロ融資の返済開始が始まり、今後、返済が困難な企業の倒産や廃業が急増するとの見方も強くなっている。返済期限を迎える企業数は2023年の6月辺りがピークとなる。

・ゾンビ企業の巻き添え倒産から逃げるには

 「中小企業は資金余力も小さく、不渡り手形をつかまされたり、支払いがされなかったり、すれば運転資金が枯渇し、連鎖倒産につながる可能性もある。倒産が増加するという状況は、経営者にとっては憂鬱だ」と、中部地方の中小企業経営者は言う。

 ゾンビ企業の巻き添え倒産は、中小企業の経営者にとって、今、非常に重要な課題になっている。顧客が取引歴が長く、老舗企業であったとしても、安心できない。帝国データバンクによれば、業歴別にみると、「30年以上」が全体の7割超となっているからだ。「長い付き合いの取引先ばかりだから、大丈夫」という考えは通用しない。

「長い付き合いの取引先ばかりだから、大丈夫」という考えは通用しない。
「長い付き合いの取引先ばかりだから、大丈夫」という考えは通用しない。

・「ゾンビ企業探知三箇条」

 では、どうやってゾンビ企業から、どう逃げるのか。筆者が民間企業で営業担当として勤務していた際に、湾岸戦争が起き、取引先の経営危機が表面化したことがあった。その際に上司たちから受けた注意と、多くの経営者へのヒアリングから、今回は、簡単に3つに絞って、「ゾンビ企業探知三箇条」を説明してみよう。

①最近、急に中間管理職、それも仕事ができる社員がやめている

 自社の状況にもっとも敏感なのは従業員だ。製造現場や総務部門の中堅社員が次々と退職するなどは、その企業の経営状態に黄色信号が灯っている証拠だ。

 仕事量の長期的な減少、給与の遅配などは従業員の退職を誘引する。取引先として、懸念を持っておく必要がある。

②締め日に社長や経理部長が社内にいない

 もちろんたまたまということもあるし、一定規模以上の企業では社長や経理部長がいなくても、なんら問題なく事業は継続する。しかし、中小企業の場合、締め日になると資金繰りに困って、社内にいられないということになる。

 社長や経理部長が社内にいないということだけではなく、取引先の締め日の雰囲気を観察しておくのは、重要だ。

③急に発注量を増やしてきたら注意

 「景気が悪く、取引先の状況も悪いはずなのに、急に発注量が増加しては喜んではいけないと、新人営業マンには注意している」と、ある中堅企業の経営者は言う。

 倒産が視野に入ってきた時に、いわゆる「取り込み詐欺」に手を染めるケースがある。支払うつもりはなく、納品されたものは即転売することで、現金を得る。

 「今回は、価格は気にしないで、それよりもすぐに納品してくれと急がせるような発注には注意すべきだ。私も、実は過去にやられたことがある。」先の経営者は、そう筆者に話した。

ゾンビ企業三箇条(筆者・作成)
ゾンビ企業三箇条(筆者・作成)

・危機にどう立ち向かうか

 これまでの不況期とは異なり、企業の倒産、廃業が事前に予見されていると言う点では、まだ準備をできるとも考えられる。

 自社の経営が継続可能な場合には、倒産が懸念されるゾンビ企業の取引先からの、悪影響をいかに避けるかが喫緊の課題となる。

 営業担当がおらず、普段から取引先を訪問する機会がない企業も多いだろう。その場合には、同業者や異業種交流会などを通じてのネットワークで情報を収集する必要がある。また、取引金融機関の担当者との情報交換も密にしておくことも重要だ。

・手形取引には要注意

 「バブル崩壊やリーマンショックなどを経て、連鎖倒産など悲惨な事例を身近に体験した前社長が手形での取引を全廃した。取引先の倒産が起きても、被害を最小限に防ぐようにという前社長の考えだ。」関東地方のある中小企業経営者は、そのように言う。さらに、「若手経営者の中には、バブル崩壊もリーマンショックも体験しておらず、親から継いでなんとなく自社は潰れないと思い込んでいる人が多いようで、危なっかしい」とも言う。

 手形は支払いまでに期間が長く、資金繰りに問題を生じさせる。さらに、現金預金が枯渇しても、手形支払いで発注し、結果的に不渡りを発生させるケースが過去にもよく見られた。

 手形取引が多い場合は、今回のこうした状況では一層の警戒心を持っておくべきだろう。取引条件の見直し、特にこれまでの現金支払いから手形支払いへの変更や、支払いサイトの長期化などの申し入れがあった場合は、危険度はかなり増していると言える。

・貸し倒れ引当金の準備も

 ある金融機関の職員は、「現状で余裕があるのならば、売掛金など回収不能になることに備えて、貸し倒れ引当金を積み増しておくことも重要だ」と言う。そこまでは余裕がない場合でも、この先、取引先の倒産や廃業が予想される場合は、早めに取引金融機関や都道府県や市町村の中小企業支援組織などに相談しておくことも重要だ。

 10社に1社がゾンビ企業であり、今後、倒産件数が増加するという状況を前に、ゾンビ「企業」からどう逃げ切るかは、中小企業経営者にとって、不回避の問題だ。

※1 帝国データバンクでは、「3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)が1未満で、かつ設立10年以上」という国際決済銀行(BIS)の定義を用いている。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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